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67 まるで嫉妬をしているみたいだ


実戦訓練。訓練といえども実戦である。

国内でも魔獣討伐を積極的に行い、かつ騎士団を有する領地に出向き、騎士に指導してもらいながら魔獣討伐(実戦)を行うのだ。当然回復役は必要となる。一、二年の生徒にいない場合は三年生や教師が加わる場合もあるのだという。

担当教師からそんな説明を聞きながらもカノンの頭の中は「?」でいっぱいだった。

出会ってからそれなりの時間をフェイと過ごしてきた。王族だから三属性・・・言われてみればそうなのだが、カノンの知るオルフェウスの魔法は「風」と「錬金魔法」のふたつだ。「火」と「光」なんてはじめて聞いた。

あれ?フェイは二属性だった?それとも実は四属性?

どちらにしてもカノンはまだオルフェウスのことで知らないことが沢山あるのだと何故か気持ちが落ち込んだ。




一年生の実戦訓練は王都近郊でありながら魔獣が出ると言われている森を領地内に持つ「グリエール伯爵領」というところで行われるということだった。

それから日程や準備する物などの説明が行われたが、カノンは全く別のことを考えていた。

そんなカノンに気付いてか、放課後、寮に帰るカノンの前に、女子生徒の制服を着た「フェイ」が現れた。


結論からいうと、フェイは王弟殿下の息子──オルフェウス・ブローグである。

王族特有の金髪碧眼、容姿端麗で頭脳明晰。昔から武術を嗜んでいることもあり程よい筋肉のついた体躯に高い背。ハッキリいってモテる。

それなのに発現した魔法が特殊魔法などと知られたら今以上にモテてモテて仕方がない状況になるだろう。

その為魔道具で火属性と光属性があるように見せかけて、オルフェウスの魔法は属性魔法のみであると──


「──誤魔化す必要があったと。」

「いや、ボクはそんなこと、一言も言ってないんだけど──」


なんだか棘があるなぁ・・・と、いつものケーキショップの個室でケーキを食べながら、フェイは苦笑しそう言った。

カノンが寮で私服に着替えて路地裏でソラとなる頃、フェイもいつの間にかいつもの装いになっていた。


「錬金魔法が使えるってバレたら回りがうるさくなるから、魔道具で火と光属性であるように見せかけて、風属性を加えて三属性にしているんだよ」


実際に錬金魔法が使えるとバレた途端、「ちょっと作ってよ」と色々な人からの依頼が殺到して収集がつかなくなったという人がいるらしいのだ。その為錬金魔法や付与魔法が使える人は滅多に表に出てこないらしい。

『暁の庇護者』のエイシスが付与魔法を使えるが、Aランクの彼に「ちょっと付与してよ」などと言える人は存在しない。彼は普通に生活していられるレアケースらしい。

特に王族であるフェイは領地のためなどと言われたら断れないし、ひとつ作ればひとつの貴族家に肩入れしていると言われかねない。だからといって簡単にお金を取るわけにはいかない。国王と王弟で話し合われた結果、本来の魔法は秘匿されることとなり、それでも王族として三属性であることを示さなければならないため今のような状況になったとのことだった。


わざと隠していたわけでもないようだし、フェイの言い分は最もだと思った。そもそも知らなかったからと言って、怒る権利はカノンにはないのだ。『オルフェウス』は学園では有名人だったし、知ろうと思えば機会はいくらでもあったのだから。

それにパーティーとして考えるならば、フェイの魔法は教えてもらっていたのだから、フェイには何の瑕疵もない。

それでいうならソラは『転生者』であることと『転生課』での出来事をみんなに隠している。


(でもフェイは三属性だよね?風と錬金魔法、あとひとつを聞いてもいいのかな?)


「──付与魔法だよ」

「え?」

「ボクのもう三つ目の魔法」


ソラの心の中を読んだのか、フェイがそう言った。


「・・・(あ~、なんかバレたら大変そう・・・それは隠すわ~)」


錬金と付与・・・無理やり聞いた形になって申し訳ないけど、これはまた・・・面倒な──


(あ、でも待てよ?付与魔法と言えば・・・でも、怒られるかな・・・)


「あ、なんか今面倒くさそう──って思った後、なんか変なことを思いついたでしょ。そんな顔をしてる」


確かにバレたら面倒くさいだろうけど、便利なんだよとフェイは笑って言う。


「で、何?」


フェイが言ってごらん、と穏やかな笑みを見せる。今日は機嫌が良さそうだから聞いても怒られないだろうか。


「実は前に作ったマジックバックの失敗作なんだけど・・・」


そう言ってソラが収納(インベントリ)からテーブルの上にデッドストックのマジックバックを出すと、カップと皿を残してテーブルが消えた。


「うわぁぁぁ!仕舞って!」


咄嗟に落下するカップと皿を収納すると、ぽとりとマジックバックが床に落ちた。


「何、この危険なマジックバックは・・・」

「いや・・・前に付与魔法の練習をしていた時に出来た失敗作なんだけど、フェイが付与魔法を使えるなら、どうにかなんないかなぁと思って・・・。一人で何とかしようと思っても、触れたものを収納しちゃう上にバック自体が何を収納対象にしているかもわからなくて・・・」


テーブルは収納するくせに、その後に触れた建物は収納しない。しかしこのマジックバックは『人』を収納することが可能なのだ。下手に手に取り誰にも気付かれずにカノンが収納された場合、これに触れた人が次々に収納され、行方不明者が続出してしまう呪われたグッズになってしまいそうだ・・・


ソラはマジックバックからテーブルを取り出すと、収納からカップとお皿を取り出した。


そして、床に落ちたままのマジックバックを半笑いで見て、「なんとか修正か処分かする方法無いのかなぁと思って・・・」と言った。


「修正は難しそうだけど・・・処分するならボクがもらっていい?普通のマジックバックの中に入れてたら容量拡大に使えるかも・・・?」

「なるほど、流石フェイ!」

「だけどね、ソラ・・・」


ソラは、今度から付与魔法と錬金魔法を使う時は、必ず先に相談することをフェイに約束させられてしまったのだった。




他の人が知っていることを自分が知らなかった。──ただそれだけで落ち込んだり腹を立てたりするなんて、まるで嫉妬をしているみたいだとカノンは思った。


「ボクの魔法を全部知っているのは国王とブライアン、家族以外ではカノンだけたからね」


そういってフェイは人差し指を口に当てとても可愛らしく笑った。

人が知らないことを知ると、とてもうれしく感じるのだなとも思った。






そして、あっという間に魔法科の実践訓練当日になった。

学園の訓練とはいえ王太子殿下の婚約者でもあるミレイユと王族であるオルフェウスを含むチームである。グリエール伯爵領への移動は公爵家から派遣された護衛が固めていた。


「大袈裟で申し訳ありません」


そう言ってミレイユが謝るが、一度誘拐されそうになったこともある娘の長距離移動だ。今はあの時とは立場も違うし、この対応も仕方がないとカノンは思う。因みにオルフェウスは王族だが自分の身は自分で守れるため、護衛はついてきていない。


昼過ぎ、予定通りグリエール伯爵領に到着した。


「君が三属性持ちのクライスラー子爵令嬢だな。こんなに可愛らしいのに魔法に関しては天才的な才能を持ち合わせていると聞く。こちらも勉強させてもらうよ!


おおっ!そして君はヴァンだな。幼い頃、父上に連れられた君に合ったことがあるんだが、覚えてないよな。はっはっは。君も魔法では類い希な才能を持っていると聞き及んでいるよ!今年の訓練は楽しみだ!」


グリエール伯爵はオルフェウスとミレイユに恭しく挨拶をしたあと、カノンとヴァンには親しげに話しかけてきた。学園も悪人の元にオルフェウスとミレイユを向かわせることはないだろうが、とてもいい人のようだ──。


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