表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/90

66 オベルトinクライスラー子爵領


「何故お前たちがここにいるんだ」


 門の前に立つと同時に辺境伯の私兵に囲まれたオベルトは、カノンとフェイを目にした瞬間そう言った。


「逆に何故いないと思うのかが理解できないよ」


 フェイがため息交じりに呟く。


「まぁいい。今日は指を咥えて『クライスラー子爵令嬢』が俺の婚約者になるところを見ているんだな。これでカノンもソラも俺のモノだ」

「いや、だから私は冒険者では──」


 カノンがそう言いかけたが、「この間ソラが俺を見たのが『例の街と学園だ』と言っていただろう。あの街で会ったのはソラだが、学園で俺と会ったのはカノンだ」と、オベルトが勝ち誇ったように言った。

「それにここに女の姿の貴様(フェイ)がいるのが何よりの証拠だ」とも。


「チッ!変なところで勘のいい・・・」珍しくフェイが煩わし気に吐き捨てた。






「お断りいたします」


オベルトと一人の侍従がクライスラー子爵家の応接室に通されたが、子爵は話を聞くまでもないと切り捨てた。


「な、お前、話を聞く前からそのような態度・・・無礼だぞっ!!子爵家如きが一国の王子と縁を結べるのだ!有難く思って今すぐ書類にサインしろ!」

「お断りいたします」


侍従は何も言わない──と言うより青い顔色で諦めたような顔をしている。恐らくここに来る前にひと悶着あったのだろう。王族に仕える使用人は皆貴族であるはずだが、カノンたちの言葉も通じないオベルトに貴族とはいえ侍従(使用人)の言葉が通じるとは思えない。彼が諦めたとしても、カノンは責める気にはならなかった。


「おいっ!辺境伯令嬢!」


振り返ったオベルトがジゼルを呼ぶ。どうやら隣国と接する領地を持つ辺境伯の令嬢の名前も知らないらしい。


「お前!言われた通りにやらなかったのか!?」

「殿下から言われた言葉は一言一句漏らさずに伝えてあります。その結果がこれですよ」


・・・異世界で起こるイベントは楽しいけれど、王子様(オベルト)関連のアレコレはもうお腹いっぱいなんだけど──カノンはそんなことを考えながら、父親とオベルトのやり取りを聞いていた。


「失礼ながら殿下は先ほどから我が家を子爵如きと蔑まれ、ご自分は王族なのだと尊大な態度を取られていますが、ここがどこか分かってらっしゃいますか?」


「──カノンの家だろう」

「そうです。ファランドール王国のクライスラー子爵領です。私はあなたの国の家臣ではない」


クライスラー子爵がオベルトに厳しい目を向ける。


「そもそもこのような恫喝まがいの婚約話に頷く親がいると思いますか?娘自身が殿下との婚約を望んでいるのならともかく──」


そうクライスラー子爵が口にした時、オベルトがバッと顔を動かし期待に満ちた目でカノンを見た。


「え。絶対に嫌です」

「俺は見た目もいいし国内最高位の王族だぞ!」


オベルトはそう叫んだ。

確かに美形なのだが自分のことを「見た目がいい」だなんて、よく恥ずかしげもなく良く言えるものだとカノンは思った。街でオベルト本人から聞いた話とエイシスに掻い摘んで聞いた彼の生い立ちを考えると確かに同情しないこともない。世界は広いし顔さえよければ満足できたり、その同情心だけで婚約しようとしたりする令嬢もいるかもしれない。が、カノンはそんなに慈悲深くはない。

折角の異世界。自分(の娯楽)が優先だ。

それに──


「わたし面食いじゃないし、贅沢も好まないのでそういうのいらないです」

「え?」

「何でそんなにわたしに執着しているのかわかりませんけど、顔だけ王子の殿下より、フェイの方が絶対良いと思います」


「「えっ!」」


カノンとしては同じ『王族』で『美形』として引き合いに出しただけなのだが、自分よりフェイがいいとハッキリ言われショックを受けているオベルトと、少し頬を赤らめているようなフェイに、そのやり取りをみていた四人は「ん?」と思う。


「そもそも殿下にはわたしの言葉って届いていますか?もう何度も嫌だと言いましたよね。いくらなんでも話が通じなさ過ぎです。そんな独りよがりな人と婚約なんて私は御免です」

「たかが子爵令嬢が王族である俺に向かってそんなことを言って許されると思っているのか!?」

「あとそれ!自分のことをよく王族だって言っていますけど、今自分が何してるか理解できてますか?他国の貴族に迷惑かけて、国の要である辺境伯を敵に回しているんですよ?王族だっていうならもう少し考えて行動したらいかがですか?」

「辺境伯を敵にって・・・”令嬢”にちょっと協力してもらおうと思っただけだろう?」

「・・・辺境伯は友好国に私兵を送り込む程度には怒ってますよ」


呆れてものが言えない。

オベルトは見たはずだ。子爵家の玄関アプローチから庭に続く敷地に整列した辺境伯家の私兵一個小隊五十人余を。・・・友好国とはいえよく国境を越えられたなと思う。


「じゃぁ、他国で自分勝手な騒ぎを起こしている自覚は?友好条約を破棄してファランドール王国を敵に回す覚悟は?」


持ち直したらしいフェイが言った。


「お、お前は関係ないだろう?」

「関係ないわけないだろう?カノンには今ファランドール王国の国王と王太子、その婚約者であるミレイユ嬢の実家であるオークス公爵、そして王弟であるブローグ大公家もついている。これ以上カノンに付きまとうとこの国が動くぞ」

「「「「「「え・・・?・・・」」」」」」


オベルトだけじゃない。カノンの両親と兄、ジゼルとオベルトの侍従も声を上げ、流石にそこまではとカノンは苦笑した。

流石のオベルトも「友好条約を破棄」「国を敵に回す覚悟」とまで言われたら強くは出られないらしい。

何も言い返す様子のないオベルトは、「話は終わりですね。では連れていって!」というジゼルの合図で辺境伯の私兵に両腕を抱えられ連れ出されていった。

どうやら私兵はオベルトを国に連れ帰るための人員(護衛という名の監視)だったらしい。 


色々あったがこの一件、家族には「カノンはオベルト殿下と婚約するくらいなら女性と結ばれたほうがいい」と思うほど嫌なのだと認識された。

そして、この一件は王城に報告して、後のことは任せることになった。






オベルトが辺境伯の私兵の手によって強制帰国してからまた一ヶ月。肌寒い季節になってきた。


ある日、コラーリ先生が教室の魔法板(マジックボード)に『魔法科演習及び実戦訓練について』と書き出した。


「魔法科では毎年実戦を想定した演習と実際に魔獣討伐に同行する実戦訓練を行っています」


貴族は平民を守る。

魔法科は最終目標を魔獣討伐の即戦力の育成だと謳っているが、実際に高位貴族──特に令嬢が前線に立つことは滅多にない。しかしここは魔法科。前線に立ったり指示する側に立ったりすることを望まれて嫁ぐことも多いため、実践訓練は必須となっている。

魔獣は年中現れるが、寒い時期は動きも鈍くなる傾向があるため、一、二年生の学園生が参加する訓練はこの時期と決まっているのだ。


「これから演習での組み分けなどを行うのですが、名を呼ばれた者は実践訓練への参加となりますので第三会議室へ行ってください。その他の方は魔法科演習への参加になります」


基本的に一、二年生は演習で、三年生が実戦訓練になるが、一、二年生でコントロールと魔力に問題がないと判断されたものはチームを組み、三年生同様実践訓練に参加することになるのだという。


「ミレイユ・オークス公爵令嬢、ヴァン・オルレアン辺境伯令息、カノン・クライスラー子爵令嬢──以上三名です」


コラーリ先生に促され、三人で第三会議室に向かう。そこで待っていたのは、にこやかに笑うオルフェウスだった。


「やぁ」

「二年生はオルフェウス様だけなのですか?」


部屋にいるのが教師一人とオルフェウスだけだと気付いたミレイユが疑問を口にした。


「いや、本来なら実践訓練は一年生チームと二年生チームに分かれて行うのだけどね」


一年生チームの属性はミレイユが土、ヴァンは風と水(雷)、そしてカノンは学園では風と水と火(氷)ということになっている。


「僕は風と火──そして光属性があるからね。回復役のいない一年生チームに入ることになったのさ」

「ブローグ様は王族ですから三属性なのですね!」


ヴァンがキラキラした目でオルフェウスを見ている。


(え?フェイが火と光属性??)


カノンははじめて知った事実に目を見開いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ