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59 オベルト現る


ミレイユから聞いたが、ブライアンはあの話を国王経由で正式に断ってくれたらしい。当然オベルトに直接ではなくバーンスタイン王国の国王宛てに、だ。

その際「王族は皆金髪碧眼であり、それ以外の色を持つ者は存在しない」こと、「現在我が国に王女はいないし、当然その護衛騎士も存在しない」ことを、「お宅の王子はこんな手紙を直接国王宛てに寄こしてきたけど、友好国だからって舐めているとしか思えない。息子に周辺国のことと基本的なマナーでも勉強させた方が良いんじゃないの」という皮肉と共に、婉曲的に伝えたのだという。


「──にもかかわらず、この学園に留学したいと言ってきたんだ。クライスラー子爵令嬢が言っていたことが大げさではないのだと、今身をもって体感しているよ」


フェイの見せたあの顔の意味もよくわかったよと、呆れたようにブライアンがため息をついた。

それでもあのような手紙をいきなり送り付けてくるような、最低限のマナーも知らない他国の王族を留学生として迎えるわけにはいかないと返事を出したところ、今度は特別聴講生としてで構わないから一週間だけ通わせてほしいと言ってきたらしい。

さすがに頭に来た国王は、そのような非常識なことを言う輩に来られても安全の保証はしかねる!という怒りの手紙を出したところ、保証はしなくていいのでよろしくねという手紙を寄越してきたそうだ。


「来週一週間だけだから、耐えてくれ・・・」






週末、冒険者ギルドでソラとフェイ、ギルマス、そしてなぜか『暁の庇護者』の面々が揃い、作戦会議をするという事態になった。


エイシスがいうには隣国バーンスタイン王国の国王は元来まともな人らしいのだが、宰相の件が発覚して以来オベルトに甘くなってしまった。それは公務や執務で会うことはあったとはいえ、六才で独りにしてしまった事に対する罪悪感からくるらしい。

そのためオベルトがこの国で勉強したいと言っている以上、多少無理をしてでもそれを叶えてあげたいらしいのだ。その気持ちは分からないでもないが、その「多少の無理」は友好国相手とはいえ他国の王族相手に通していいものではないはずだ。

そもそも他国の国王宛にあのような手紙を送りつけた息子が、なぜ純粋に勉強のために留学したいと思っていると思えるのか。

過去はどうあれオベルトも今は十六才。宰相一派が失脚し、『特殊スキル』が目覚めたことを公表したフォスター第一王子の立太子が決まったばかりのこの時期に、他国を巻き込むようなわがままを叶えている場合ではないだろう。


現国王は可もなく不可もない男だが、当時十才だったフォスターが気付いた宰相の暗躍に気付かなかったことや今回の件で、今後数年のうちに退位してもらう予定なのだそうだ。

本当なら今すぐ!と言いたいところだが、十才の頃から宰相の手の内にあったフォスターは、公務は出来るが国王を務めるには未だ足りないことが多いのだという。あと数年で何とかするから今回の件は申し訳ないがよろしく頼む、と言うのが彼からの伝言らしい。

ちなみに護衛騎士であったルクスが退職したため『暁の庇護者』は学園外で影ながらオベルトの護衛をするよう依頼されたそうだ。

エイシスの話に部屋が、シーーーンとなった。

誰も口を開かない。


宰相の口から真実を聞いたオベルトは泣いていたのだという。彼なりに思うところがあったようだ。これからは王族として不足している部分を補っていけば王弟としてフォスターの補佐くらいは出来るようになるのではないか──そう聞いていたのだが、一転、彼はこれまで制限されていた分、好き勝手することにしたようだ。


「やっぱりアレが変わるわけないか」


そう言ってフェイがため息をついた。

オベルトが純粋に勉学をしたいのかどうかは分からないが、十中八九、一番の目的はソラとフェイを探すことだろう。

取りあえず一番に注意すべきは冒険者ギルドか。


オベルトは不安定な『スキル』は持っているが、他に魔法が使えるわけでも剣術に長けているわけでもない。留学ではなくあくまでも「特別聴講生」であるため学園内でも出入りできる場所や聴講出来る授業は限られている。

ソラを探しているオベルトは、名も見た目も全く違うカノンにたどり着くことはないだろう。

その為学園で遭遇することはないと、この時のカノンは思っていた。




オベルトが特別聴講生として学園にやって来て一日目と二日目の放課後。彼はソラを探してずっと冒険者ギルドに詰めていたらしい。それを聞いてカノンは安心していた。


しかし三日目の放課後のことだった。

馬車止めに向かうミレイユと寮に向かうカノンは、いつも重なる途中までの道のりを共にしている。そこに、突然立ちはだかる者がいたのだ。

言わずと知れたオベルトだ。彼の回りには、何故か沢山の女生徒が遠巻きにしていた。

ミレイユとカノンのどちらに会うことを目的に現れたのかは知らないが、オベルトを知る者なら彼が令嬢の歩いている道を体で塞ぐ──といった失礼極まりない行動を取ること自体は不思議でも何でもない。

しかし、その非常識の相手がこの国の王太子であるブライアンの婚約者、ミレイユ・オークス公爵令嬢であるため、なにも知らない周囲は固唾をのんで見守った。

オベルトは仕方がないとはいえ招待されていた婚約の儀と婚約披露パーティーへの出席を直前で辞退し、欠席している。偉そうな視線を向ける前にまずはミレイユへの挨拶とその時の詫びを口にすべきなのだが、カノンはオベルトがそんな常識を持ち合わせていないことを知っている。そしてカノンの話とオベルトがここに来るまでの経緯をブライアンから聞いているミレイユも。

ミレイユはオベルトを一瞥すると、カノンの手を引いて言葉を発することなく立ちはだかるオベルトの脇を抜けた。


「っ!待て!貴様!!俺の横を挨拶もなく通り過ぎるとはいい度胸だな!」


ミレイユの行動に腹を立てたらしいオベルトは、通り過ぎるミレイユの腕を掴んだ。


言葉遣いもだが、他国の王族がこの国の王太子の婚約者に何の断りもなく触れる──そのあり得ない光景に、辺りが騒然とした。


「令嬢の行く手を阻み、名も名乗らずこのようなことをする令息など私は存じ上げません。あなたのお国のマナーは存じ上げませんが、紹介もなく見知らぬ殿方にいきなり挨拶をするなど、この国では勿論、隣国バーンスタイン王国でもマナー違反ですわよ。そして、殿方が令嬢に触れることもね──」


ミレイユは最近変わった。いや、カノンと出会って少し経った頃から変化は見られていたが、ここ最近ブライアンとの婚約が決まってからは特に。


「──手を、離して下さるかしら?」


ミレイユの毅然とした態度に、たじろぐオベルトだったが一向にその腕を離す気配はない。

そんなオベルトの態度にいい加減頭に来たカノンが口を開こうとした時、横から腕が伸びてきてオベルトの手首を掴んだ。


「痛っ!」


そんなに力を入れている様には見えなかったが、オベルトはミレイユの手をパッと離すと、掴まれた手首を逆の手でさすりながらその相手を見た。


「貴様っ・・・」


オベルトは現れた腕の主を見て言葉を失った。

オベルトから遠ざけられるようにミレイユの背側にいたカノンには彼の背中しか見えなかったが、美しい金髪を後ろで束ねた、背の高い男子生徒だった。


「オルフェウス様?」


小さな声でミレイユが呟いたのが聞こえた。どうやらミレイユの知り合いが助けてくれたらしい。

周囲の令嬢から黄色い歓声が上がる中、男子生徒は振り向きカノンたちに声を掛けた。


「大丈夫?ミレイユ嬢、カ、いや、クライスラー子爵令嬢」


彼を見たオベルトが文句も言えず、言葉を失うのは当然だった。


──金髪碧眼、彼はこの国の王族だ。


ブライアンも美形だが、彼はどことなく親しみやすい印象を受ける。しかし、この男子生徒はブライアンよく似ているのに、受ける印象は冷たい。

だけど今、彼はカノンを名で呼ぼうとしなかったか。

ミレイユと知り合いの王族だ。もしかしてブライアンとミレイユに普段からカノンの話を聞いていて呼び方がうつったという可能性も?──いや、ミレイユはともかくブライアンは家名呼びである。


(じゃぁ、どこかで会ってる?)


カノンはそう考え再び「オルフェウス様」とやらの顔を見た。

彼は背中でミレイユとカノンを守るようにオベルトと対峙している。その碧い瞳は()()()()()()()()()()()()()()()()()オベルトを睨みつけていた。






(あ、フェイだ)



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― 新着の感想 ―
ちっとは直るかと期待してたのですが、ダメそっすね
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