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57 無理無理無理―――!


「シルバーマウスの大量発生でストーンゴーレムがキレて暴れている???」

「そう」


初めての本格的な依頼を無事に終えて数日休みを取ったある日、ソラとフェイは冒険者ギルドに集まり、次に受ける依頼を選んでいた。

シルバーマウスといえば洞窟で集団生活をしており、鉱石を主食としている小型の魔獣だ。魔石はかなり小さいが、歯がかなり固いため、よく弓矢の(やじり)に使われている。

反対にストーンゴーレムは鉱石を育てる魔獣で、見上げなければならないほどには巨大だ。本来はとても穏やかな性質をしている。

共に土属性で、普段はストーンゴーレムの育てた鉱石をシルバーマウスが餌として少しだけ頂いて生活している。当然、人間もストーンゴーレムの育てた鉱石を頂いているのだが、先日洞窟に鉱石を採掘に行った冒険者が、ストーンゴーレムが大暴れしている現場に居合わせたらしいのだ。

幸い怪我はなかったが、よく見るとストーンゴーレムは大量に溢れるシルバーマウスに向かって攻撃をしているようだった。ストーンゴーレムの拳は巨体でパワーもあるが、小さくてスピードがあるシルバーマウスにその攻撃が当たるわけもなく、ただただ洞窟を破壊しているだけになっていたのだという。

シルバーマウスによって鉱石が食い尽くされてしまうのが早いか、ストーンゴーレムの攻撃によって洞窟が塞がれてしまうが早いか・・・。

どちらにしろ鉱石が採れなくなるのは頂けない。

そこで「シルバーマウスの討伐依頼」が出されることになったらしい。


「それが何か?」

「的が小さくて数もいるから、ソラの練習にちょうどいいと思って」


いやいや、夏季休暇に入るまでの間散々訓練をして、カレリアさんに合格を貰ったではないか。

しかもシルバーマウスとかカッコつけて呼んでいるけど、やることは単に大発生しているネズミの駆除。


「え、普通に嫌なんだけど・・・」

「え?ソラもシルバーマウスは討伐出来ないってクチ?」


討伐出来ないっていうか、視界にすらいれたくないとソラは思った。


「女性なら普通に嫌がるでしょ?」

「女性には人気の魔獣でしょ?」


「「え!?」」二人の声がハモった。



ソラのネズミのイメージは“ランド”で大活躍しているあの方や、ネコと追いかけっこをしているのように耳が大きくて尻尾の長いアレである。

前世でマウスがネズミであったからと言って、こっちでもそうだとは限らない。

フェイから聞いて見た目がネズミではないらしいことに納得し、ソラはシルバーマウスの討伐に向かうことにしたのだ。しかしそこで問題が起こった。


ソラが直前で討伐を拒否したのだ。




「ええーーーーー!!なんてかわいらしいのッ!!!」


なんとシルバーマウスはジャンガリアンハムスターそっくりの魔獣だったのだ。

土属性なだけあって、前足はかなり大きいが、あのつぶらな瞳で上目使いに“きゅるん”と見つめられて、討伐できる人がいるのだろうか。いや、いない。


「・・・シルバーマウスには水魔法が効果的だよ」

「こんなの討伐できるはずがないッ」


以前誘拐犯と対峙した際、小さな水球を顔に命中させる自信がなかったため大きな水球で体ごと閉じ込めたことがある。

フェイは今後のためにもシルバーマウスを使って動くターゲットの顔に水球を当てる練習をしろと言っているのだ。


いや、無理無理無理―――!


「これはソラの魔法の訓練を兼ねているんだからね・・・。急がないと、いつストーンゴーレムが現れるかわからないよ──」


ドシーン、ドシーン!!


噂をすれば──なのか、遠くからストーンゴーレムの足音とおぼしき地響きが聞こえてきた。心なし、振動も伝わってきている。

すでに大きい岩が崩れ落ちて来ている所もあり、これ以上ゴーレムに暴れられると、崩れ落ちなくとも危険で立ち入れなくなってしまうかもしれない。


「ソラ、時間切れだよ。ボクと交代だ」


フェイはそういうと、アイテムボックスから魔道具を取り出そうとした。


その時だった。


本能で殺気を感じたのか、大量のシルバーマウスがフェイに向かって飛び掛かって行ったのだ!!


「えぇっ!!」

「フェイーーー!」


シルバーマウスがジャンプしてその強靭な歯をフェイに突き立てようとした瞬間──


(いち)!ダメっ!」


咄嗟にソラがシルバーマウスに魔法を放った。






ドシーン、ドシーン!!



岩場の影に隠れ、フェイとソラはストーンゴーレムが前を通過するのを待った。

二人の前で一旦止まったゴーレムは、せわしなく首を動かすと何事もなくそのまま去って行った。恐らくシルバーマウスを探し、いないことを確認したため通り過ぎて行ったのだろう。


フェイが危ないと、咄嗟に出た魔法は一応シルバーマウスの弱点とされる水属性だった。ソラはその意識を狩るため、あの一瞬で無数に出た水球(ウォーターボール)をシルバーマウスの顔めがけて投げたのだ。


「ありがとう・・・。助かったけど・・・でも、アレだね」

「うん、どうしようか・・・」


複雑な顔でお礼を言ってくれるフェイに、ソラは苦笑して答えた。

結果、水球は全てシルバーマウスに命中した。


「「・・・」」


命中は、したのだが・・・。


二人がそっと振り向くと、そこには顔ではなく体の方を水球に捕らえられたシルバーマウスがコロンコロンと転がっていた。確かにシルバーマウスの顔をめがけて投げたはずなのだが、無意識に軌道を逸らしてしまったらしい。

苦手な水球で捕らえられ、戦意は喪失してしまっている為、なんかかわいい・・・余計に討伐しにくくなってしまい、こちらの戦意もまた、喪失した感じだ。


このままにしていくわけにもいかず、結局そのままソラの収納(インベントリ)に入れて持ち帰ることにした。




「あ。フェイさん、ソラさんお帰りなさい!依頼の方はどうでしたか?」


フェイとソラが冒険者ギルドに戻ると、二人に気付いた受付嬢のニーナが声を掛けてきた。


「・・・それが・・・色々ありまして・・・」


状況を説明するために五匹ほど出されたコロンコロンしたシルバーマウスに──


「「「「かわいい・・・」」」」

「「「「ほ、欲しいかも・・・」」」」


ニーナさんはもちろん、その場にいた冒険者たちの心は持っていかれた。


「ごめんなさい~わたしには討伐できませんでした~~~(泣)」


中途半端な状態で終わった二人の依頼達成は認められたのか、また、泣きながら訴えるソラが提出した大量のコロンコロンしたままのシルバーマウスがどうなったのかは、想像にお任せする。






ソラはあの後もフェイと様々な依頼を受け、様々なスイーツを楽しみ、充実した日々を過ごした。勿論夏期休暇中に開かれたミレイユの婚約パーティーも無事に終え、学園は新学期に入った。


しばらくは平和な学園生活を──と思っていたところ、ソラは新学期早々ミレイユに中庭の東屋での(ブライアンとの)お茶に誘われてしまった。

三回目は場所が場所だったため精神安定剤になった。そして四回目ともなるとリラックス──とまではいかないが王太子殿下に同席させて頂くという有難みも緊張感も無くなってくるらしく・・・


「今日は君に聞きたいことがあって呼んだんだ」

「あ、わかりません」


カノンは面倒くさくて何も聞かれていないのに思わずそう答えてしまった。

本来なら不敬かもしれないが、一部の貴族にとっては属性数が上回るソラの方が偉いらしいので、見逃してもらえるとありがたい。


「いや、とりあえず話を聞いてもらっても・・・?」


苦笑したブライアンが話を続ける。


「隣国バーンスタイン王国の第二王子オベルト・バーンスタインから「この国の王女である『ソラ』へ婚約の申し込みをしたい。ついでにその護衛騎士の『フェイ』に不敬罪で罰を与えろ」と言う手紙が父宛てに届いたのだけど、心当たりはあるかい?」



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