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55 バーンスタイン王国①


オベルトと刺客の小隊はバーンスタイン王国に入国する前に『暁の庇護者』とは別行動を取った。


ルクスには小隊と共に国境を超えた後、同行していた侍女と侍従と数日国境付近に滞在してから王宮に戻るよう指示をした。詳しくは話していないが侍女と侍従は何かあったことを察しているのか、そのことに対して誰からも疑問の声は上がらなかった。まぁ、小隊の姿が一晩消えていたのだから無理もないだろう。

オベルトの身柄を小隊に預けるのは若干不安であったが、『暁の庇護者』が今回の一件にフォスター第一王子は無関係であることとその根拠を伝えると小隊はオベルトに膝を付いた。

それもそうだろう。路地でオベルトを襲っていたはずの者は意識を狩られた状態で『収納』されたが、ホテルで捕らえられた者は漆黒の穴(ブラックホール)に向かって突き飛ばされ、吸い込まれる形で『収納』されたのだ。

そして今、何の記憶もない状態で訳も分からす翌朝を迎えていた。食べた感覚も、寝た感覚もない。それなりの時間が経っているはずなのにトイレに行きたいとも思わず、疲れも空腹感も、すべて昨夜のままだった。正直恐怖だ。その恐怖すら、ここは虚無の世界ではなく現実世界なのだと感じさせてくれる。

こんな経験、二度としたくはない一同に、従う以外の選択肢は無い。

その一心で、一行は言われた通り堂々と正面から王宮へ帰還した。

早すぎる一行の帰還に宮内は何事が起ったのかと騒然とした。しかも人ひとりが入りそうなほど大きな『箱』を抱えた騎士と共に小隊長が国王への謁見を望んだのだ。これはただ事ではないと宮内に緊張が走った。

直ちに宰相の采配で直ちに謁見の場が設けられ、小隊長と三十人の騎士が『箱』と共に謁見室に通された。


「小隊長、直答許す。何があったのだ。オベルトはどうした。ルクスの姿も見えんようだが?」

「それが──」


言いにくそうに言葉を紡ぐ小隊長の様子に宰相の口角がわずかに上がった。

しかし、なかなかその先を話そうとしない小隊長をみてしびれを切らした宰相が口を開いた。


「小隊長。その『棺』は何ですか?」


それまで敢えて誰も触れなかった存在感たっぷりの『箱』に宰相が触れた。


「棺?ただの大きな箱であろう?宰相よ。何故『棺』だと思ったのだ?」

「え、いや・・・」


自身の失言と国王の質問に宰相がうろたえた。普段の自分であればこんなミスはしないだろう。宰相は国王の質問に何と答えようかと逡巡した。何か適当な、しかも国王が納得するような理由を考えなければ。

しかし、考えれば考えるほど何も思い浮かばない。焦りが前面に出る。


(おかしい)


宰相がそう思ったとき、ふとフォスターに譲り受けた漆黒(闇魔法)のペンダントが目に入った。

思わずフォスターの方を見ると、真っ直ぐに宰相を見る赤い瞳とぶつかった。その表情からは何も読み取ることが出来ない。



「宰相。答えろ──」



焦り黙り込んでしまった宰相に、国王が再度()()するように声を掛けた。 


「あ、はい。それは私が大隊長に命じ、此度の第二王子殿下の公務に同行する小隊に殿下を始末するように依頼したからです。だからあの箱の中身は殿下の亡骸だと思ったのです」


「何故、そのようなことを?」


「第二王子殿下のスキルが『真実の瞳』であったからですよ。

第一王子殿下が十才の頃一度暗殺を謀ったのですが、その時丁度第二王子殿下のスキルが目覚めて大失敗しました。

当初は今後私が暗躍するために優秀な第一王子を始末し、第二王子を傀儡にする予定でしたが、『真実の瞳』は厄介だ。だから第一王子の王子教育に手を加え傀儡として教育し、第二王子を亡き者にすることにしたのです──」


最初、フォスターを暗殺し、王太子となった孤独なオベルトを自分に依存させ、宰相が国を動かすつもりでいた。

元々国王は公務にかまけ子供たちと過ごす時間をとっていなかったし、この国の方針で王位継承者は六才から母親とも離され王子教育が始まる。妃たちは後宮、王子たちはそれぞれ離宮に居を構えるのだ。

オベルトが側妃の手を離れれば、計画の遂行は容易となる。そう思った矢先、オベルトのスキルによって計画が頓挫してしまったのだ。

そこで宰相はフォスターの公務と執務を増やすことで物理的に二人が会えなくなるよう画策した。

しかしフォスターは自身が狙われていたこともあり、自分のことは二の次でいつもオベルトのことを心配しており、関わろうとしていた。そこで宰相はルクスをオベルトにつけ、フォスターを安心させることにしたのだ。ルクスは堅物で職務に忠実だ。オベルトに同情したりはしないだろう。淡々と職務を全うするはずだ。

一方オベルトは幼い頃から孤独を味合わせ縛り付けていたため大人しくなるかと思いきや、とても我儘に成長した。思い通りにならなければ暴言を吐き、使用人を恫喝する。誰に恨まれていてもおかしくはない人物になり果てたのだ。宰相にとって、それは都合のいい誤算だった。


そこに丁度隣国ファランドールから婚約の儀と婚約披露パーティーへの招待状が届いた。


──チャンスだ。


宰相はオベルトの態度に反感を持っている大隊長に『第一王子殿下からの指示』を伝えた。

最近第二王子の暴言が目に付く。彼は『真実の瞳』スキルを持っているが、王族として人格に不安がある。万が一そのスキルを悪用されでもしたら国は未曾有の混乱に陥るだろう。残念だが国のため、そうなる前に始末するようにと──


宰相フーガの首に掛けられたペンダントの魔石が誰にも気付かれずに色を失い、オレンジ色に変化した。

勿論フーガには自身が話した内容を覚えている。何故か国王に睨まれた宰相は恐怖を感じ、口にするべきではないことを話してしまのだ。


(何故だ──)


国王から多少威圧的に聞かれたとはいえ、何故自分から自白するような真似をしたのかがわからない。


(!)


フーガはフォスターに譲られたペンダントの存在を思い出した。そしてフォスターの顔を見ると、満足気に微笑んでいたのだ。まるで作戦が上手くいったと言わんばかりだ。

どこで手に入れたのかはわからないが、このペンダントは魔道具だったと言うことになる。大方、考えていることを正直に話す──そんな効果でもあったのだろう。しかしこれは闇魔法の魔石だ。自分は何もしていない。先程の話は精神干渉や記憶操作によるものだと言い張れば良いのだ。要は先ほどの証言に信憑性がないと思わせることが出来ればフーガの勝ちだ。

フーガは操られていた振りをすることにした。


「ち、違います!先ほどの言葉は事実ではありません!口が勝手に言葉を紡いだのです!!」


しかしフーガが王族暗殺を企んでいたという証言は、たった今本人の口から紡がれたばかりだ。汚いものを見るような皆の視線を無視し、首に掛かったままのペンダントをつまむと皆に見せるように前に突き出した。


「私は先ほど第一王子殿下から漆黒の魔石のペンダントを賜ったのです!」


フーガはこれがフォスターから下賜された物だと、そう叫んだ。それに対しフォスターは動かず、言葉も発しない。まさかフーガがコレに気付くとは思わなかったのかもしれない。馬鹿にされたものだと、フーガは思う。


「──まさかペンダントに見せかけた魔道具だったのですか・・・?私には殿下からこのペンダントを受け取ってからの記憶があやふやです。確か黒い魔石は闇属性の魔石のはず──これほど濃い色の魔石であるなら精神干渉や記憶操作の効果があるはずですよね。

さて、第一王子殿下。このような魔道具を使って私の記憶を操り、あのような作り話をさせて一体何をさせたかったのですか?答えてください!!」


心の中で宰相は嗤っていた。


第一王子が何故このような魔道具を持ち出したのかは分からないが、大隊長と実行犯の小隊長は命令したのは第一王子だと思っている以上、この行為は好都合だ!

きっと二人は「第一王子が宰相に罪を着せるために魔道具を持ち出した」と思うだろう。

第二王子がこの世を去り、第一王子はこの失態。第一王子は一生私に頭が上がらなくなる。傀儡まっしぐらだ。

いや?第一王子は第二王子暗殺の首謀者だぞ?国王に知られた以上、罪を償うことになるのではないか?

国王陛下には子は二人の王子のみ。ならば次代の国王の席が政治を熟知し若くして宰相の席に座っている私のところに転がり込んでくる可能性が──!?


(完璧だ!私の勝ちだ!)


「第一王子殿下っ!」


良かれと思ってやったことかもしれないが、後悔してももう遅い。さあ、答えろ。




この国は私のモノだ。



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