53 俺と一緒に来い
第一王子であるフォスターは正妃、オベルトは側妃の子だが、そんなことなど関係ないほど二人は仲が良く、幼い頃のオベルトはフォスターが大好きでよく遊んでもらっていた。
オベルトに特殊スキル『真実の瞳』が目覚めるまでは。
「兄上!そいつと一緒に行くな!そいつは兄上を殺そうとしている!!」
ある日オベルトと遊んでいたフォスターを迎えに来た侍従の思惑が『視えた』オベルトはそう叫んだ。直ちに騎士が動き事なきを得たが、その日からオベルトはフォスターと遊ぶことを禁じられるようになった。
十才になったフォスターは少しずつ公務が増えていくため学ばなければならないことが沢山あるのだというのが、宰相からオベルトが聞かされた理由だった。遊ぶ時間もないのだと。
十分でも五分でもいい、顔が見たい、話をしたいのだと懇願しても許されない。それまで二人で摂っていた食事も一人で摂るようにと言われた。寂しさを紛らわせるために他の貴族と交流し友人を作ろうとしても、王族が格下の者と仲良くするなど以ての外だと言われそれも許されなかった。
誕生日ですら一人で過ごす・・・。早い段階でオベルトはこの状況に耐えられなくなり、物に当たり、人に当たり、感情が爆発するようになった。
更にオベルトが十才になるとあの時のフォスターのように学ばなければならないことが増え、公務だ、執務だ、勉強だと毎日が分刻みのスケジュールになった。
何故、自分がこのような目に遭わなければならないのか。
王族と言うだけでここまでの義務が生じ、制限されるのであれば、王族としての権利を享受してやる・・・。そんな気持ちは徐々に「王族である俺の言うことが聞けないのか」「王族である俺に逆らうな」「俺を誰だと思っているんだ」という言葉に代わって表に出るようになった。
「そう、それは寂しかったデスね」
オベルトはホテルのバルコニーにいた。
オベルトに良い感情を持っていないソラは、様子を見たからいいよねと、さっさと頼まれた伝言を伝えて立ち去ろうとしたところ、何故かオベルトの身の上話がはじまってしまったのだ。
夜とはいえ気温は高い。
ソラは適当にベンチに腰掛けるとインベントリから昼間屋台で買った『エメラルドグリーンの飲み物にアイスをトッピングした商品』を取り出した。あの後風呂上りにでも食べたいと、追加購入したものだ。
それを見たオベルトが近寄ってきたかと思うと「俺にも寄こせ」と手を出した。
「ありませんよ。これが最後の一個なんで」
たとえあっても渡さないが・・・。ソラは何か暴言を吐かれるかと思ったが、意外なことにオベルトは離れたベンチに腰掛け昔話の続きを話しはじめた。
オベルトはソラの「寂しかったですね」という言葉に、一瞬オベルトは自分のことを理解してもらえたのだと喜んだ。
そう、一瞬だけ。
「でも、それは人に対して横柄に振舞ったり、脅したりすることの免罪符にはならないでしょう。しかもこの国の人には全然関係ないし」
「それくらいなんだっていうんだ。俺は何年も苦しんできたんだぞ」
今日だけで色々な目に遭い、知り、諭されていたと思うのにまだ「俺は」と言えることに、ソラはこの人には何を言っても届かないのだと思った。
「・・・」
ソラは無言で手にしていた『エメラルドグリーンの飲み物にアイスをトッピングした商品』を食べ終わると、空の容器に本日四回目の魔法をかけ、再びインベントリに収納した。
「あ、取り敢えず婚約パーティーへの参加は断念して明日、バーンスタイン王国へ帰るらしいですよ」
「え?」
何の脈絡もない話題の転換に、オベルトが驚く。
「えっと、捕まえた騎士たちを連れて悪い方々を成敗しに行くのだそうです」
「・・・俺はこの国に残る──」
第一王子のフォスターに命を狙われているというのに、その相手がいる場所に戻れと言うのか。少し考えて思わずそう口にしたオベルトは、ソラの面倒くさそうな顔を見て「何か言いたそうだな」と言った。
「もしかして本当に第一王子殿下が暗殺命令を出したと思っているんですか?」
「違うって言いたいのか?」
「いえ、違うとまでは言わないのですが、『暁の庇護者』に護衛依頼を出したのが第一王子殿下だと聞いたので・・・」
「何が言いたい」
「え?だってファランドール王国最強のAランク冒険者の『暁の庇護者』ですよ?暗殺しようとしている人が、何で実行犯の一個小隊より強い護衛を依頼するんですか?」
確かにとオベルトは思ったが、その言葉を信じて帰国し、再度フォスターに突き放されたらと考えると怖かった。
「でも小隊長は、兄上からの依頼だと言っていたし・・・」
「?違いますよね。大隊長さんからの指示だと言っていたじゃないですか。第一王子殿下から直接言われたわけではないでしょう。
わたしにはその大隊長が犯人なのか、別に黒幕がいるのかわかりませんが、少なくとも第一王子殿下からの指示だと決まったわけではないってことだけは言えますよね」
ソラが面倒くさいなぁと思いながらそう説明すると、オベルトが訳の分からないことを言った。
「──ソラ、お前俺と一緒にバーンスタイン王国に来い」




