52 ブラックホール
オベルト発見の報を受け、ほとんどの騎士がホテルを出て行った。──にもかかわらず、先程オベルトとルクス、そして『暁の庇護者』までもが平然とホテルに戻ってきたのだ。
しかもオベルトの暗殺のために出て行った騎士は誰一人として帰ってきていない。
騎士は探りを入れるため、情報共有がどうのと適当なことを言いながら『暁の庇護者』が休む部屋を訪ねた。
そして今、騎士はロープで縛りあげられ、黒く不気味な得体の知れない何かが渦巻いている、その目の前に座らさせれていた。
「ふふ。これはね、漆黒の穴と言うの。一度中に入ればそこは『無』の世界。自力では出ることは叶わないわ。一生虚無の空間を漂い、独り永遠の時を生きることになるのよ──」
白い肌に整った容姿。そして波打つ紫色の長い髪に金色の瞳。高貴で神秘的な印象を持つカレリアは優雅に椅子に腰かけ足を組むと、顎に手入れされた指を当てた。そして意味深に微笑みそうつぶやけば、それはもう──。
「ひ、ヒィイィィィッ。話すっ!話しますっ!!」
拷問に対してならば口も堅いかもしれないが、人は未知なものへの恐怖には弱い。
種明かしをするとこうだ。
拘束した二十三名の騎士を引き連れてホテルに帰ると残党に警戒されてしまう。そのため時間経過無し(食品にて実験済み)、空気あり(ろうそくの炎にて実験済み・・・いや、時間が停止しているから消えなかっただけかもしれないが、細かいことは気にしない)、生物オッケー(虫にて実験済み)であるソラのインベントリに全員『収納』し、正面から堂々と帰宅したのだ。
本来なら王族滞在中のホテルに素性のハッキリしないものを通したりしないのだが、フェイとソラに関しては抜け出している間に仲良くなった冒険者と言うことにしたら(フェイとオベルトは不服そうだった)、すんなり入ることが出来た。それだけでオベルトの日頃の行いがどれほど酷いものなのかが理解できる。
ソラが収納の入り口を可視化し、闇魔法と風魔法で黒い渦を表現すると、あら不思議、世にも恐ろしい漆黒の穴の出来上がりだ。もちろん風魔法をちょい足しし、穴の前に何かモノを翳すと引き込まれる仕様だ。
複合魔法なのか補助魔法なのか理解に苦しむこの魔法は、当然ソラの魔法だがソラが説明しては雰囲気が台無しになるためその代役としてカレリアが抜擢された。
そして、おそらく誰かが様子見にくるだろうと準備をして待ち構えていたところに、案の定、騎士がやって来た。
「なっ!仲間っは、全員だ!!」
「小隊なんだから全員仲間なのは当然だろ。僕たちは第二王子殿下に差し向けられた刺客仲間のことを聞いてるんだよ?」
少しイラついた様子のフランツがアッシャーに「もうやっちゃっていいんじゃないかな」と短く伝えると、騎士の後ろに控えていたアッシャーが、拘束され身動きの取れない騎士を漆黒の穴の方に押しやった。
「まままままままっ、待ってくれ!違う!!いや、違わないんだっ。今回同行した一個小隊自体が任務としてオベルト殿下の暗殺を指示されているんだっ!」
アッシャーは見かけによらず優しい男だ。あのオベルトのことであろうとも、その騎士の言葉を聞いた瞬間腹立だしく思ってしまったらしい。結果、思わず足が出てしまい、漆黒の穴に向かって騎士を蹴り飛ばしてしまったのだった。
「あ、あああああづっ・・・」
漆黒の穴は、騎士を断末魔ごと飲み込んだ。
「その通りです。今回オベルト殿下に同行した小隊は殿下暗殺の命を受けております」
拘束された小隊長は自身に下された命を遂行するにあたり迷いがあったようで、オベルトの無事な姿を目にした瞬間、全てを語りだした。
「なっ!貴様!仕え るべき王族の暗殺を請け負うとは、それでも騎士か!?」
オベルトが小隊長を怒鳴り付けた。
「君、バカなの?少しは考えたら?個人じゃなくて小隊が動いているんだよ。君の言う『仕えるべき王族』に君みたいなのが該当するかは置いておいたとしても、最終的に彼らが王族暗殺の命を受けたと言うことは、君と同等、もしくはそれ以上の人からの指示ということになるんだよ」
なぜかフェイのオベルトへの当たりが強いなぁとソラは思ったが、フェイの言った事と、この真面目そうな小隊長さんのことを考えるとその通りだと思えた。
「ご存じの通り我が国の王族は『特殊スキル』を授かります。不安定ながらも『真実の瞳』を持つと分かっている第二王子に対し、第一王子殿下は未だスキルがハッキリしないため、正妃様のお子であるにも関わらず未だ立太子が許されておりません。
第二王子殿下にもう少し王族としての自覚があればこのような手段を選ばずに済んだのですが、このままの状態で万が一第二王子殿下が立太子することになれば──」
そこで小隊長は言葉を切った。
この国で王族の伴侶に人格より属性数が優先されるように、隣国では国王にすらその人格より『特殊スキル』が優先されるのだろう。
「なればなんだというんだ!」
「国が崩壊すると思われてるんだよ。まぁ、その通りだと思うけどね」
小隊長を怒鳴り付けるオベルトにフェイがハッキリ伝える。「なんだと!?」とオベルトがフェイに食って掛かろうとするのをフランツが片手で止めた。
「と、言うことは今回の命令は──?」
エイシスが探るように小隊長に尋ねた。
「私は大隊長から指示を受けましたが──第一王子殿下からの指示と聞いております」
「兄上の指示だと!?嘘をつくな!」
小隊長の口からその名が出た途端にオベルトが今まで以上に目を吊り上げた。
「おい!ルクス!!いや、誰でもいい!こいつは兄上の名を汚した!不敬だ!今ここで首を切れ!!」
狂気にも似た剣幕のオベルトの言葉に、その場にいた者は冷たい視線を向けるだけで誰も動かなかった。
「ここまで言われているのに自身の言動を省みることもないなんて・・・。考えることもせず、発言は短絡的。自分の発言に責任が伴うことを理解せず、自分で実行する勇気はない癖に王族としての権力を振りかざす。
君、王族として生まれただけで偉いのだからみんな自分に従って当然だとか思ってるクチだろう?君のどこに仕えるべき価値があるというんだ?」
さっきから王族であるオベルトに向けられているフェイの刺々しい言葉の連続に誰も異を唱えるものはいない。
(まさか皆その言葉が正しいと思っているのか?)
「クソッ!!」
オベルトがテーブルを叩き、立ち上がった。
「あっ!」
部屋を駆け出していくオベルトにソラが反応するが、他の皆は気にしていないようだった。
小隊長を含め残りの騎士を拘束し『漆黒の穴』に『収納』していく。ソラは普通に収納するのではいけないのかと思ったが、『漆黒の穴』の仕組み?が気になるのか、カレリアが興味深そうに人が吸い込まれていく所を見ていたためそのままにしておくことにした。
「これ、魔道具で作れないのかしら・・・」
そんな呟きが聞こえた気がしたが、フェイは聞こえないふりをした。
小隊全員の『収納』を終えたあと、今後の動きについて話し合いが持たれた。
「詳しくは話せないが実は犯人の目星は付いているんだ」
エイシスがそう言って今後の予定を話した。元々こうなることが分かっていたようだ。
「ソラ、もう命を狙われることは無いだろうが、念のため殿下の様子を見てきてくれるか?」
大体の予定が決まったところで、ソラはエイシスに頼まれオベルトの様子を見に行くため部屋を出た。




