50 暗殺命令①
「なっ!」
咄嗟にルクスは剣を抜きオベルトを自分の後ろに引き倒すと、正面からその剣を受けた。
「オベルト様!下がってください!!」
オベルトを背に必死に叫ぶルクスだったが、剣を向けられた上に引き倒され、怒りに震えるオベルトには届かなかった。
「俺に剣を向けるとは、貴様!一体なんのつもりだ!!」
立ち上がり、状況もわからず怒鳴り付けるオベルトを馬鹿にしたように、騎士が口を開いた。
「もちろん我が儘放題の第二王子様を葬るつもりですよ。今さらですけど護衛騎士の指示にはちゃんと従った方がいい。そんなだから、あなたを邪魔に思う方から『この機に消せ』なんてことを言われるんだ」
誰かが騎士に自分のことを『消せ』と命じた。
その言葉にショックを受けたオベルトはその場に立ち尽くした。
その場から動けずにいるオベルト。そしてそんな彼を背に庇うルクスも動くことができず、本来の力が出せないでいた。
「オベルト様!早く下がって!!」
必死なルクスの声もオベルトには届かない。
ピクリとも動かないオベルトを庇い、二人の攻撃をさばききれなかったルクスが右肩に剣を受けた。
「っぅ!!」
その時だった。
「一!下がりなさい!二!治れっ!」
ルクスの右肩が赤く染まるのを目にしたオベルトの耳に、訳の分からない言葉が聞こえた。その次の瞬間、何かに体が思い切り後ろに引かれ、吹き飛ばされたのだ。
「なんでっ!!!」
よく分からない未知の力に凄い勢いで投げ飛ばされたオベルトは、地面に背中を打ち付け悶絶した。
先ほどまでは二人の騎士を相手に苦戦していたルクスも、今は逆に押しているようだ。先ほどまでと同一人物とは思えない動きに、オベルトは今まで本気を出していなかったのか?と憤った。
「もちろん我が儘放題の第二王子様を葬るつもりですよ」「そんなだから、あなたを邪魔に思う方から『この機に消せ』なんてことを言われるんだ」──先ほど騎士に投げかけられた言葉がオベルトを抉る。
その時遠くからこちらへ向かっているような、複数の足音が聞こえた。騒ぎを聞きつけて助けが来たのかと期待したが、姿を現した騎士たちは剣を抜いて次々にルクスに向かっていったのだ。いくらルクスが強くとも十数人はいる騎士相手に勝てるとは思わなかった。
「やめろ!騎士ども!命令だ!!」
オベルトは座り込んだまま思わず叫んだ。
辺りはすっかり暗くなっていたためか、騎士たちは地面に転がっているオベルトに気付いていなかった。しかしオベルトが声を上げたことで一部の騎士がオベルトに気付き、剣を抜いたまま近寄ってきたのだ。
後退るオベルトに構わず騎士は剣を思い切り振り上げた。
(この俺を本気で消す気なのかっ!?)
オベルトは信じられないものを見るような気持で騎士を凝視していたが、その剣が振り下ろされることはなかった。その騎士が剣を振り上げたまま崩れ落ちたからだ。
騎士の後ろから『暁の庇護者』のエイシスが姿を現した。
「自分の置かれている立場が少しは理解できたかな」
エイシスが、呆気に取られるオベルトに真顔で告げた。その言葉にハッとすると、オベルトは地面に膝をついたまま怒鳴り声を上げた。
「お前たち!俺の護衛じゃなかったのか!?護衛対象である俺をこのような危険な目に遭わせてタダで済むと思うなよ!」
しかし、詫びるわけでもなく王族である自分を助け起こすわけでもなく、ただ真顔でオベルトを見下ろすエイシスにオベルトは「チッ」と舌打ちをした。
「信じられないわね。護衛をあんな目に遭わせておいて、こんな横柄な態度をとれるなんて・・・。大体こんな状況に置かれているのに未だ自分の立場が分からないなんて・・・ちょっとおかしいのではないかしら?」
カレリアがつぶやく。その背後を見るとオベルトに迫って来ていた騎士たちが、いつの間にか地面に崩れ落ちていた。何故か全員もがき苦しんでおり、暗くてよく見えないが、動かなくなった者の方からパシャリ、パシャリと水の弾けるような音がした。
「流石王国に属する騎士なだけあるわね。盗賊たちより時間がかかったわ」
ルクスの方もフランツとアッシャーが加勢に入ったようで、既に騎士全員が地面に倒れ伏していた。
「これはどう言うことか説明しろっ!!それに、お前たち、護衛の仕事を放りだし俺をこんな目に遭わせやがって!覚悟しておけよ!!」
「オベルト様。今回彼らが持ち場を離れたのは第一王子殿下の許可があってのことです。──それより気付かれませんか?」
右肩を中心に血濡れたルクスがオベルトに声を掛けた。右手は問題なく使えているようだし、血の量の割にかすり傷だったのかもしれないとオベルトは考えた。
「なんのことだ?」
「あなたと共にこの国に来た騎士は一個小隊三十一名です。そのほとんどがここで倒れているんです。──帯同者のほとんどが刺客だったということです。それでもあなたが勝手な行動を取らなければ命を狙われることはなかったのです。あなたは先ほどから『暁の庇護者』が悪いと仰っていますが、彼らがいないのを良いことに抜け出したのはあなたです。騎士たちはあなたが騎士たちの目を盗んで脱走し、私諸共不慮の事故で命を落としたことにしたかったのですよ」
「っ!わかっていたなら何故強く止めなかった!」
この期に及んで自分を命がけで守ってくれた護衛に責任転嫁する、一国の王子とは思えない見苦しい姿に物陰から見守っていたフェイは、我慢できずに飛び出した。




