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46 トリオ村①


報酬を準備できない町や村からの支援要請は、国を経由して冒険者ギルドに依頼が入る仕組みだ。報酬も(税金)から出ることになる。その為、仕方ないこととはいえ村からの救援要請を受けてから一度、事実関係が調べられることになる。そういった事情から、依頼が出されてから冒険者ギルドが動き出すまでにある程度の時間が経っていることが多いらしい。

ソラにとってはじめての遠征だ。緊張はするが、怪我人は勿論、支援物資を必要とするほど困っている人々がいると思うと、居ても立っても居られなかった。


支援物資の準備が整うのを待って迎えた出発日の朝。ギルドの前に大量の支援物資を乗せた幌馬車が準備されていた。


「もうじき御者を務めてくれるヤツが来るから紹介する。少し待ってくれ」


アドルフはそう言うが、ただでさえ丸一日かかる距離をこの重い荷物を引いた馬車で進むと、一体どれくらいの時間が掛かるのか。その間に村に、怪我人に、何かあったら──。

そんなソラの気持ちが通じたのか、フェイがソラに尋ねた。


「ソラ、これ全部収納(インベントリ)に入る?」


ソラはその言葉に笑顔になり、答えの代わりに一瞬にしてすべての支援物資を収納して見せた。

ソラのインベントリには何かしら荷物を入れっぱなしにしているので、一日の魔法にカウントされることはない。


「うわっ!お前のインベントリ、相変わらずバカみたいの容量はだな!?一体どれくらい入るんだ?」


ギルマスが驚きつつも眉根を寄せて言った。


「確かめようとしたのですが、良く分かりませんでした」


ソラはギルマスにそう答えると、フェイに向き直り言った。


「走っていくってことだよね!」

「いや、到着するまでに足を縺れさせて何回転ぶつもりなの?魔法は温存しなきゃ」


ヤル気満々で支援魔法を掛けようとするソラの言葉に今度はフェイが顔をしかめた。そしてフェイは馬車から馬を外すとマジックバックから馬具を取り出し手際よく装着した。


「これ魔道具なんだ。馬に合わせてサイズが変わる仕様」


フェイはそう言ってヒョイと馬に跨がるとソラに向かって手を伸ばした。そしてソラが何も考えずにその手をとると、その身体は簡単に引き上げられてフェイの後ろに収まった。


「じゃあ、ギルマス。行ってきます。こっちの都合なので御者さんには報酬、払ってあげて下さいね」


フェイはアドルフにそう言うと、馬に合図を出して駆け出した。


「おーい。せめてこの荷台を端に避けてから行ってくれ・・・」


早朝、冒険者ギルドの前の道にドカンと置かれた馬無しの荷馬車・・・。どうしたものかとアドルフは頭を掻いた。






「フェイって乗馬が出来たの!?」


振り落とされないようにフェイの背中にしがみつき、ソラは言った。


「嗜みとして一応ね。舌を噛むから喋らない方がいいよ」


かなりスピードが出ているためソラは馬の心配をしてみたが、フェイにこの魔道具(馬具)をつけているから大丈夫だと言われた。どうやら光魔法(ヒール)の効果もあるらしい。

どこかで見たことのある効果だなと思ったが、馬の高さとスピードにそれどころではなくなった。

しばらくするとソラも慣れてきたようで最後は景色を見る余裕も出てきた。途中街道から逸れ自然に囲まれた森の中を進むと、半日ほどで目的地の村に着くことが出来た。




村の名はトリオ村と言い、村の長の男性も「トリオ」と名乗った。代々村長に引き継がれる名前らしい。

王都から来た冒険者だと名乗ると一応村長の家に通されたが、二人の姿を見た瞬間村長の顔に失望の色が浮かんだ。無理もない、待ち望んだ冒険者が手ぶらの若い女性二人だったのだ。

それでも折角来てくれた冒険者に失礼を働いてはならないと、「今、家内にお茶を・・・」と言って立ち上がろうとする村長をソラが止めた。


「村長さんっ!お茶なんか飲んでいる場合じゃないでしょ。支援物資はどこに置けばいいんですか?わたし、こういったことははじめてで勝手が分からないんです」


村長はソラの言葉に一応支援物資はあるのだと安心した。二人とも手ぶらにしか見えないが、冒険者ギルドから借りたマジックバックか何かに入っているのかもしれない。


「あ、じゃあ、こちらに・・・」


村長は居間の続き部屋を指差した。どのくらいの量を持ってきてくれたのかは分からないがマジックバックの容量などたかが知れている。ここで家内に仕分けてもらって各家に持っていけばいいだろうと軽く考えていた。


「分かりました」

「あ、ソラ!」


村長の表情から色々察していたフェイが止めようとするも、気持ちが急いているソラには届かなかったらしい。とても広いとはいえない村長の家の一室に、幌馬車いっぱいに積まれていた荷物が現れた。


「「・・・」」


ソラが物資を見上げて口と目を開いたまま固まっている村長を揺さぶる。


「村長さん!ほらっ、次!怪我人はどこにいるんですか!?案内してください!村長さんっ!」


村長は何度目かの呼び掛けで正気に戻った。村長は同じく放心状態の妻に後は頼むと言い残し、ソラを連れて怪我人を集めてある村の寄り合い所に向かった。フェイは苦笑しながらその後を追った。




寄り合い所にはところ狭しと布団が敷かれ、何人もの怪我人が寝かされていた。

包帯などの備品も底をついているのか、傷口が露出しており痛々しい。

顔に傷を負った者、腕や足、胸や腹・・・背中に傷を負いうつぶせで寝かされている者もいた。

その多くが何かに感染したのか傷口が化膿し赤く腫れ上がり熱に魘されていた。

家族なのか、血で汚れたタオルを桶にいれた水で絞り、額に乗せている女性がいた。彼女も今にも倒れそうなほど疲弊しているのが見てとれた。

未だ亡くなったものはいないらしいが、それも時間の問題かと思われた。


初めて見る光景にソラは入り口で立ち竦んだ。

村長はそんなソラに気を遣うように告げた。


「重傷者の家族は皆覚悟を決めています。魔力には限りがあります。あなたには軽傷者を優先して回復して頂きたい・・・」


その言葉にハッとする。

確かに貴族令嬢であるソラにはショッキングな光景である。恐らく前世でもこんな光景を見たことはないはずだ。しかしソラには貴族として彼らを護る義務がある。こんなところで立ち竦んでいる場合ではないのだ。


「いえ、ごめんなさい。魔力なら心配ないです」


ソラは深呼吸をすると、魔法に集中できるよう胸の前で祈るように手を組み、目を閉じた。


(いち)!みんな治れっ!!!」


その瞬間、ソラからまばゆい光が生まれ、村全体に広がった。



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