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45 指名依頼

「お、おとぉと・・・?」

「姉さん・・・」


フェイが頭を抱えてカレリアを睨み上げた。


「あら、ごめんなさい?」


カレリアはそう言うと手をヒラヒラさせて去っていった。全く悪いとは思っていない様子で。


「フェイはカレリアさんと姉弟(きょうだい)だったんだね!あ、そう言えば髪と瞳の色が同じだ」


両手を合わせて新しい発見をしたと言わんばかりの様子のソラを、フェイは例のケーキ屋の個室に連れて行った。そして飲み物と全商品のケーキが運ばれてきたところで、話を切り出した。


「ボクと姉さんもカノンと同じく、魔道具で色と容姿を変えているんだよ」と。






はっきり言ってフェイは美少女(年)だ。

だから幼い頃からとてもモテた。──年上のおば・・・お姉さまたちに。

学園に通うような年になれば流石に()・・・夫人(姉さま)たちの波はひいていったが、今度は昔背の低さや顔の可愛らしさをバカにしたり、(フェイの方が可愛いからと)訳の分からない嫉妬心剥き出しで突っかかってきたりしていた令嬢たちが手のひらを返してきたのだ。

正直、その醜悪な姿に呆れ、必要以上に女性には拘わりたくないと思った。

その為そんな令嬢たちを躱すために放課後や休日は社交を避け冒険者として活動し、更に魔道具を使って本来の姿とは似ても似つかない恰好をして過ごしているのだという。

シュンとして、フェイは頭を下げた。


「隠していて、申し訳ない・・・」

「そんな気にしないで。わたしも魔道具で姿を変えているしお互い様でしょ?それより、何で女の子なの?」


こちらは性別まで変えているのに「お互い様」と言ってのけるソラの言葉に素直に頷けないフェイであったが、何故敢えて女性を選んだのかと聞かれたため質問に答えることにした。


「ああいう部類の令嬢たちは、自分より()()()可愛い女性には近付かないからだよ。だから普段から可愛いと思われる格好をしているんだ。因みに男は自分より強い女性には近付かない」


そこでフェイが拳を握りしめた。・・・男性陣にその強さを示すため、何かしたのかも知れない。


「っていうか、気にするのソコなの?」

「他に何を気にするの?」

「いや、ボクが男だって隠していたことは・・・」

「え?だって、フェイは『フェイ』でしょ?そんなの関係ないよ」


男だろうと女だろうと、今目の前にいるフェイが『フェイ』であることには変わりないのだ。

フェイがカノンより年上であり、学園の先輩であり、カレリアの弟であり、錬金魔法を使う。そして女の子として過ごしている理由──どちらかというと、パーティーを組んでいるのに何も知らなかったフェイのことを知れてソラはうれしかった。






夏期休暇に入りソラが本格的に冒険者活動をはじめてしばらく経ったころ、ブライアンとミレイユの婚約が発表された。

これまでミレイユが一属性であることがネックだった筈の二人の婚約は世間には比較的好意的に受け取られた。国民は皆、幼い頃から婚約者候補のとして仲睦まじく過ごしてきた二人をずっと見てきていたし、国王と王妃、もうひとりの婚約者候補の父であり宰相でもあるゴルドベルグ侯爵とオークス公爵、そして宮廷魔法師長の五人のサインの入った触れ書きに物申す者はいなかった。


アイネが表舞台から姿を消したことで何かあったのだと勘繰る者もいれば、宮廷魔術師長の名前があることで何らかの理由で秘匿されてはいるが、ミレイユが実は元々二属性だったのではないかと考える者もいた。相変わらずミレイユを不安視する声はあったが、ブライアンと宰相が動きその声を封じた。

かなり先の話にはなるが、二人の間に子供が生まれて魔法を発現した時、その声は完全になくなる筈だ。






ある日、ソラとフェイのパーティーにある依頼が舞い込んできた。


「ソラ、ボクらに指名依頼だよ。王都から一日離れたところにある村への救援だ」


訓練により魔力コントロールと持久力を手に入れたソラの冒険者ランクは、使える魔法と『暁の庇護者』からの太鼓判、そして勿論これまでの実績もあり、Dランクを経てCランクに上がった。

ソラの前世の知識では、冒険者ランクを上げる方法は二通り。決められたランクの依頼をこなすか、ランクの昇級試験を受けることだ。そしてこの世界では後者らしいのだが、『暁の庇護者』との練習試合(訓練)が昇給試験として認められた形となった。

異例の早さでのランクアップだが、受付でそれを告げられた時も誰も否とは言わなかったし、そのことを不服に思いソラに勝負を挑むものもいなかった。


「ソラさんの実力ならBランクでもおかしくないと思うんですけど・・・」


受付嬢のニーナがそんなことを言っていたが、やはり一日十回という魔法の使用制限がネックなのだとソラには分かっていたので、何も答えず苦笑するにとどめた。ちなみにフェイはBランクだ。

『錬金魔法』が使えることは勿論秘密で、知っている人は家族と『暁の庇護者』、ギルマスとソラだけらしい。


そして身体強化系(支援魔法(バフ)?)かと思われた魔法()は、幼い頃から剣や体術が好きで元々強かったことに加えて風の属性魔法が使えるため、重力操作と魔道具を駆使しているのだということだった。

流石に腕力はあっても魔獣を素手で伸すと怪我をする。そのため、いつもつけているフリルのついた白い絹手袋も実は魔道具なんだとか。


(魔道具だったんだ。そう言えばフェイが詠唱してるのあんまり見たことないや・・・って、ん?)


姉であるカレリアが複数属性を操っているのでフェイが二属性と聞いても驚かなかったソラだが、ふと考えた。


「あれ?と、言うことはカレリアさんとフェイは侯爵か公爵家の人だということ?パーティーメンバーとはいえ私、フェイを呼び捨てにしているけど・・・」

「──次期王太子妃を名で呼んでいるソラにとっては今更だろう?」


そうなのだろうか?

しかし、カノンがミレイユのことを名で呼んでいることを知っているなんて、やっぱりフェイは学園生なのだ。


この国の社交界には一部を除き、許されない限り気安くその人の名を呼んではならないというルールがある。カノンがミレイユの名を呼ぶことを許されたということは、カノンが次期王太子妃で次期王妃であるミレイユにそれを許されている。その庇護下にあるという意味に他ならない。


(子爵令嬢が公爵令嬢に名を呼ぶことを許されたって、学園では噂になっているんだよ)


フェイは続く言葉を飲み込んだ。これを彼女に伝えることにより名前呼びから家名呼びに戻ろうものなら、ミレイユに恨まれてしまうからだ。

ちなみに属性数で察することが出来ても、貴族の子女がそれなりにいる冒険者としての活動中は名を呼ぶことは咎められない。有事にイチイチ家名で呼んでいては命がいくつあっても足りないからだ。




──閑話休題。

今回の指名依頼は「村外れの森に熊の魔獣が住み着いてしまい困っている」と言う村から出されたものだった。森の中に食料の採取にも行けない上に、夜は村に現れ畑を荒らしていくのだ。既に何人もの怪我人が出ているらしい。

食料等支援物資の輸送と怪我人の為に回復魔法を使える冒険者の派遣、魔獣の討伐が今回の依頼の内容だった。



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