44 フェイの秘密
「詳しくは話せないけれど、君のお陰でミレイユと無事に婚約出来る運びになったんだ。婚約自体は夏期休暇の間になりそうだけど、今日は君にお礼を言いたくてね」
お礼を言いたかったが学園で話すわけにはいかず、公爵邸で伝えることにしたとのことだった。
王族の都合など詳しく聞きたいとはこれっぽっちも思わないので良いのだが、どの記憶を呼び起こしてもカノンは二人の婚約に関しては、いや、それ以外にも何かをした覚えはなかった。
「──わたしは何もしていないのですけれど・・・」
「色々だよ、色々」
意味深な言い回しで楽しそうにそう言うブライアンをジト目で見るカノンに、ミレイユが言いにくそうに切り出した。
「あの、わたくし、クライスラー子爵令嬢にお願いがあるのですが・・・」
「なんでしょう?」
「──カノン様とお呼びしてよろしいかしら。出来ればわたくしの事はミレイユと・・・」
公爵令嬢を名前で呼ぶ。本来なら畏れ多いとなりそうなところだ。しかし前世に存在しなかったからか爵位などの身分制度は気になるが、名前で呼ぶこと自体に抵抗はない。カノンにとっては苗字呼びをしていた友人に名前で呼んでねと頼まれた。そんな感覚だ。
「いいですよ」
カノンが軽いノリでそう言うと、ミレイユは年相応の笑顔を見せた。
夏期休暇だ。
ソラはこれまで、週末は可能な限り基礎体力と焦った時の魔法のコントロールを中心に訓練をしてきた。その訓練の相手は主に『暁の庇護者』の面々だった。
夏期休暇に入るまでの間あの依頼は掲示をして貰ってはいたが、エイシスとの練習試合を見ていた冒険者から噂が広まり、誰もソラの相手に手を上げなかったのだ。責任を感じたエイシスが王都に滞在する間、パーティーメンバーにソラの訓練の相手を依頼してくれたのだ。
『暁の庇護者』の面々がとても強いことは分かっていたが、それぞれ使う武器も属性も違い、とてもいい勉強になった。なにより強者の攻撃で精神が鍛えられたのか、単なる慣れなのか、戦いの最中に焦ることがなくなったのだ。
ただ、持久力はついたと思うけれど一朝一夕で筋力がつく筈もなく、支援魔法で足が縺れることは未だある。
しかし、ソラは基本魔法師だ。遠距離攻撃が中心であるため、筋力の方は徐々に・・・ということになった。
魔法師で魔道具コレクターのカレリアが訓練の相手をしてくれた日、フェイが後から合流してカレリアと顔を合わせた。
「フェイ、久しぶりね。元気にしていたかしら?」
「うん、ご覧の通りとっても元気。ついでに両親も相変わらずだよ」
そういえばエイシスにフランツ、アッシャーもフェイを知っているようだった。
「フェイはカレリアさんとも知り合いなんだね。ギルマスからも信頼されているし、まだ小さいのに凄いね」
ソラがそう言った瞬間、フェイを取り巻く空気が凍りついたような錯覚に陥った。
「・・・ソラは一体ボクをいくつだと思っているのかな?」
眉間にシワがよっているのに口元は笑っているという、美少女にあるまじき顔でフェイが迫ってくる。
「ん~。学園でも見かけないし──私より年下だよね?十三才くらい?」
と言って「アレ?」と思う。いくらなんでも十三才で魔法を発現しているのは早すぎる。
「ふふっ。フェイはソラちゃんよりひとつ年上よ。学園の二年生、先輩ね」
「ええええええぇっ!」
カレリアの言葉に、まさか年上だとは思わなかったソラは驚きすぎて大声を上げた。
「うわぁ、ごめんっ。てっきり年下だとばかり・・・」
ソラは慌てて頭を下げる。そして、気まずい空気を何とかしようとカレリアに話を振った。
「あ、ご、ご両親の話をするということは、お二人は家族ぐるみのお付き合いなのですか?」
「姉さんとボクは親族だよ」
その質問に、納得のいってないような表情でフェイが答える。
「ふふ。私の持っている魔道具の製作者がフェイなのよ。ソラちゃんのローブもフェイの作品なの」
「えっ!ええええええぇっ!!!!」
フェイとカレリアが親族でありフェイが錬金魔法を使うと聞き、その情報量の多さに再びソラは大声を出してしまった。
何故フェイは練習試合の相手をしてくれないのだろうかと疑問に思っていたソラは、それで得心がいった。その所作などから貴族であろうことは確定のフェイが属性魔法を使わないことを不思議に思ってもいたが、フェイの魔法が『錬金魔法』と身体強化に通ずる何かしらの魔法の二属性であるのなら、魔法師であるソラの練習相手としては不向きだからだ。
「そうだったんだ。フェイの魔道具にはいつも助けられてます。ありがとう」
ソラがそう言ってにっこり笑うと「別にイイケド・・・」という釈然としないといった感じの返事が返ってきた。フェイは年齢を間違われることが嫌いらしい。今後、気を付けなければとソラは思った。
「ソラちゃんは練習試合とはいえ、かなり落ち着いて対処出来るようになってきているし、この分なら夏期休暇中、依頼を受けても大丈夫だと思うわ。実際に現場に出なければ学べないこともあるし、経験は大切だもの」
カレリアがソラの訓練終了を告げる。夏期休暇に何とか間に合ったようだ。
「私たちは依頼を受けるからしばらく王都を離れるけれど、くれぐれも無茶をしないようにね」
「分かっているよ。姉さんも気を付けて」
「お気を付けて。皆様によろしくお伝えください~」
「ええ、伝えておくわ。じゃ、ソラちゃん、弟をよろしくね」
ん?




