43 ソラvsエイシス②
「「「「「「「!!!!!!」」」」」」」
空間魔法で剣の周囲を隔離し、風魔法で空気を操り抜くことで出来る「真空空間」。その魔法を展開した瞬間、ソラが思った通り酸素を失ったエイシスの炎は一瞬で消え去った。
周囲が絶句する中、危機は脱したと喜んでいたソラだったが、(やった!炎の剣に勝った~!)──などと喜んでいる場合ではなかった。
「ではこれはどうだろう」
流石に火が消えた時は驚いていて足を止めたエイシスだったがすぐに気持ちを切り替え、新たな一手を繰り出そうとしていた──エイシスが何かを詠唱しながら自身の指で剣の刀身を下から上へとゆっくりなぞる。
するとエイシスの指が通った端から、剣の刀身が赤く光っていった。先ほどのように炎が上がっているわけではないが、剣の周囲には陽炎が変わらず見える。これは──
(熱──見た目の派手さはないケド、この付与の仕方もカッコいい!)
カノンは心の中で叫んでいた。まるで物語の挿絵を見ているかのようだ。
しかしこれは現実。
水の魔法をかけたところで文字通り「焼け石?に水」だろう。しかしこのギャラリーの中複合魔法をつかえばカノンとソラの関係を疑われるかもしれない。
きっとアレに切られても血も出ないんだろうなぁ・・・なんてことは想像できるのに、肝心の回避方法が思いつかない。
(どうする?熱に対する策なんて、何も思い浮かばない~!!)
ソラがかなり焦っている様子が見て取れたエイシスは、とんでもない威力の魔法を撃たれることを想定しながらカノンに向かって駆け出した。
「あ、そうだっ」
ソラは突然何かを思い付いたように叫び、エイシスに向かって魔法を放った。
(何が来る!?)
エイシスがそう思った時だった。
「八!──!!エイシスさんを止めて!そして自分に九!──あの攻撃を避ける速さをッ!!」
確かにこの世界に存在する魔法だ。ソラの支援魔法に「その手があったか」とエイシスは楽し気に笑った。体が重くなって失速し、剣に付与したはずの熱も冷めてしまったのだ。
ソラは支援魔法により、走り込んできたエイシスを余裕で避けると一旦距離をとった。そして今度はエイシスに向かって走り出し、本日最後の魔法を繰り出す準備をした。
(ソラに残された魔法はあと一回。何が来るかによってはちょっと危ないかもしれない)
『暁の庇護者』が庇護している冒険者にやられるなんて結構恥ずかしいなぁなどとエイシスが考えていると、
「きゃぁぁぁぁ!」
「!」
自分に掛けたバフに体がついていかなかったらしいソラが、足を縺れさせてエイシス目掛けて突っ込んできた。
『暁の庇護者』エイシスと新人冒険者ソラの練習試合・・・最後はあっけなく、ソラの体当たりで幕を閉じた。当然ソラが体当たりしたくらいでエイシスがどうこうなるわけもない。
「きゅゅゅぅ・・・」
これでも貴族令嬢であるソラは、事故とはいえ前世の記憶含めて初めて男性に抱きしめられた(ちょっと違う)混乱から抜け出せず、戦闘不能になってしまったのだ。
ギャラリーは驚きすぎて、最後は無言で立ち尽くしていた。
「お前は基礎体力作りも急務だな。エイシスが抱き留めていなかったら地面に激突していたぞ!
それからなんだ!あの複合魔法は!」
試合終了後、ソラとフェイ、エイシスと関係者が連行されたギルマスの部屋では、最初からギャラリーに紛れて見学していたらしいアドルフのお小言が続いていた。
苦笑する言い出しっぺのフェイと、依頼を受領したエイシス。
しかしソラは未だ復活できず、そのお小言はこれっぽっちも耳に入ってこなかったのだった。
あのお茶会から一月後、学園からアイネが姿を消し、ミレイユが学園に登校して来た。
ブライアンも共に登校してきたようだが、あの人は元々公務の合間に学園に顔を出す程度だったのでカノンは然程気にしてはいない。
ただ、何食わぬ顔をして登校してきたブライアンのお陰で、アイネのせいで広まった「王太子殿下が中庭で倒れ王宮で臥せっており、ミレイユが王宮で捕らえられている」というミレイユにとって不名誉な噂が払拭されたため、それだけは良かったと思っている。
「おはようございます、クライスラー子爵令嬢。急で申し訳ないのだけれど放課後、我が家でのお茶会に招待したいのですけれど、ご予定はいかがかしら」
カノンの顔を見るなりミレイユに告げられた言葉に一瞬金髪碧眼の王子様の顔が思い浮かんだが、お茶会の会場が「我が家」だという言葉に快諾することにした。元より子爵令嬢であるカノンが公爵令嬢であるミレイユの誘いを断ることは出来ない・・・が──
(そうだった・・・オークス家は公爵だった・・・)
まずは寮まで迎えに来た馬車の豪華さ。そして、とうの昔に到着し門を通過したはずなのになかなか玄関にたどり着かず未だ馬車に揺られている事実。更に敷地内の筈なのに遠くに見える森や川、噴水なんかも見える手入れが行き届いた庭?(庭と表現して良いのか甚だ疑問だ!)にカノンは恐れおののいた。
そして、やっと公爵邸の玄関ロータリーについた時には建物の豪華さというよりは大きさに驚き、口から魂が抜け掛けていた。
(・・・場違いなところに来てしまった)
カノンが玄関ポーチに降り立つと、カノンの心中を察してくれたのかミレイユ本人が待っていてくれた。
「ようこそ、クライスラー子爵令嬢。お呼びだてしてしまってごめんなさい」
見知った顔にホッとする。
これで執事さんとか侍女さんとかに迎えられたら緊張で魂どころか心臓も口から出てしまうところだったとカノンは思う(公爵家で働く彼らはきっと子爵令嬢より爵位が上だ!)。
過度の緊張状態にあったカノンだったが、案内された中庭の東屋で先客であるブライアンを視界に入れた時、平常心に戻ってしまった。
──なんと王太子殿下も三回会えば精神安定剤になるらしい。




