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28 とっておきの魔法


どうやら手印魔法を使える学園長には、カノンの手印が無詠唱魔法のフェイクであることはバレバレらしい。

自分のモノより若干学園長の手印の方が魔法(というより忍者?)っぽくて格好良いと思ったが、やはり覚えられる気がしなかったし両手がふさがるのは不便だなと思った。


「いくら変身しても、カノンとソラが同じ詠唱をしていたら不味いと思ったのですけど・・・」


しかし『なんちゃって手印魔法』は派手に披露してしまった後だ。現在の魔法界では詠唱魔法が主流で本来の手印魔法を全て理解しているものはあまりいない。その為学生が気付くことはないだろうが・・・。


(様子を見るしかないのか・・・)


『ソラ』が『カノン』の知り合いに会い、その正体がばれて危険な目に遭う可能性と、『カノン』が突拍子もないことを続け、何者かに目を付けられ危ない目に遭う可能性はどちらが高いのだろうと、学園長は苦笑した。

学園長は少しでもカノンを目立たなくするために、『氷魔法』と『複合魔法』の新しい解釈を宮廷魔法師団に持ち込み魔法学会で発表させても良いかとカノンに提案した。


「学園長にお任せしますけど・・・大袈裟じゃないですか?」


この事態を全く分かっていないカノンの軽い返事に苦笑し、学園長はカノンを解放した。

学生とはいえ目撃者多数。カノンも共同研究者として名の連ねることにはなるがメインは宮廷魔法師だ。考え得る限りの範囲で最小限の注目で抑えられる方法がこれだった。宮廷魔法師たちも複合魔法の新しい解釈とその可能性に、喜んで手を貸してくれるだろう。




そしてアイネは三日間の停学処分となった。

侯爵令嬢であり、次期王太子妃候補が停学。しかも理由が理由だ。

カノンの機転で事なきを得たものの、魔法の制御──感情をコントロールできず他者に危害を加えそうになったということで、次期王太子妃不適格なのではという声が上がっているという。理性で感情を抑えることが出来なかったという事実がアイネを推す貴族たちを失望させたのだ。

当然その攻撃のターゲットがもう一人の候補であるミレイユ・オークス公爵令嬢であったこともその理由のひとつだ。攻撃前に「王太子妃候補の辞退」を口にしていたこともあり、魔法でライバルを排除しようとしたと判断されたのだ。






ある日の放課後。カノンがミレイユと共にいると、一人の男子生徒がやってきた。


「オルレアン辺境伯の長男のヴァンと申します。クライスラー子爵令嬢に折り入って相談があり、声をかけさせていただきました」

「は、はぁ。ご丁寧にどうも・・・?」


この国での辺境伯の位置付けは侯爵家に匹敵する。そんな高位貴族の、それも嫡男に頭を下げられ、カノンはただただ困惑していた。



ファランドール王国で辺境を守る家は四つ。そのうちの一つがオルレアン辺境伯家である。

クライスラー子爵領も辺境伯領に近いところにあるが、そちらは友好国でもある隣国バーンスタイン王国に面した別の辺境伯家だ。

辺境伯令息が田舎の子爵令嬢に何の用だとカノンは困惑した。その様子を見ていたミレイユが同席を申し出たため、三人で学園に併設されたカフェの個室に移動することになった。


「突然のお願いにも関わらずこのような席を設けていただきありがとうございます。 早速ですが、私の家は辺境伯家の中でも特に魔獣の発生率の高い地域を領地としており、一族の者は属性数よりも強い攻撃魔法を持つことが良しとされている土地柄なのです。

他の兄弟は一属性ですが皆学園では魔法科に入学できるほどの魔力を持っています。

しかし僕は二属性ではありますが、魔力が然程多くなく、ひとつひとつの魔法の威力が弱いのです」


属性数より魔力が重要視される辺境伯家。属性数に振り回されているのはやはり王都の一部の貴族だけらしい。


「そんな中、昨日のあなたの素晴らしい氷魔法を見ました。一瞬新たな属性魔法かとも思いましたが、あの時あなたは仰いました。あれは『複合魔法』であると!」


ヴァンはテーブルから身をのりだしカノンの手を握ると言った。


「弱い魔力でも複合魔法であれば威力が増すのですよね?僕には辺境の領民のためにも魔獣と渡り合う力が必要なのです!僕の属性もあなたと同じ水と風です!どうか僕にも使えそうな複合魔法を教えては頂けないでしょうか!!!」


一属性であることで長い間心ない言葉を掛けられてきたミレイユ。

同じように、彼も魔力が弱いことを理由につらい思いをしてきたのかもしれない。周囲から心ない言葉を掛けられ、認められずとも頑張る不屈の精神(想像)!そして田舎者の子爵令嬢に頭を下げてでも領民のために尽くそうとするその心意気に、カノンは心を打たれた。


「わかりました!

ならば複合魔法を一発!ドカンと!派手に使ってみんなをあっと言わせて『ざまぁ』しなければッ!!!」

「・・・ざまぁ???」


握りこぶしを胸にカノンが立ち上がる。ヴァンが困惑しているが、そんなことお構いなしにカノンは答えた。


「クライスラー子爵令嬢。そんな簡単にいいのですか?」


それまで黙って聞いていたミレイユが思わず口を挟んだ。それくらい、あの魔法は貴重なのだ。そんな簡単に人に教えていいものなのか。


「彼が『ざまぁ』するためには複合魔法は必須です。しかも領民のために使うのでしょう?何の問題もありませんよ。みんなの前で派手にぶっ放して下さい。 それにわたし以外にも複合魔法を使える人が増えたらわたしが目立たなくなると思うんですッ(叱られ案件が減ると思うんですッ)」


カノンが、そう確信しているように言いきる。


「・・・それはないかと思いますが・・・」


ミレイユはそうつぶやいたが、ヴァンにどんな複合魔法を教えようかと考えているカノンに届かない。


「あ!良いのを思いついた! ふふふふふ・・・──ドカンと一発、派手に使えて『ざまぁ』も魔獣退治も出来る、とっておきを教えてあげますよ」


カノンはヴァンに笑顔で答えた。



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