27 複合魔法
沢山の悲鳴が上がった次の瞬間、そこはもう氷の世界だった。
信じられないことに、風に煽られた木々も何故か炎すらもその形のまま氷ついていた。
「こ、氷?」
「いや、氷属性など存在しない」
少し離れた場所にいた生徒から驚きの声が上がった。
存在しないはずの氷魔法・・・皆の視線が自然と入学試験で王族以外に存在しないはずの三属性持ちであることが判明した女生徒の元に集まった。
そこには人差し指を立てた右手を突き出し、燃え盛っていた木々の方を指で差し示した形でフリーズするカノンの姿があったのだった。
(なんでっ!?炎まで凍っている???)
焦り、慌てて魔法を放ったため、全く手加減が出来なかったらしい。──これは確実に叱られ案件だ。胃が痛い・・・。
カノンは大きなため息をつき、白い息が口から洩れた。
「よ、四属性・・・?」
「今、詠唱、聞こえたか──?」
「──む、無詠唱・・・?」
誰かの口からそんな物騒な言葉が紡がれた。
いやいや、三属性でもギルマスにかなり怒られたのに、四属性なんてとんでもない!無詠唱も同じく!!
「ち、違っ!ほら、授業で習ったでしょ?『複合魔法』だってば!水と風の『複合魔法』!詠唱も、無詠唱じゃなくってコラーリ先生から教わった手印魔法ですっ!ほら、ねっ?そうですよね、先生!?」
立てた人差し指を皆に見やすいように前に出してカノンは慌てて否定したが、その言葉は誰の耳にも入っていないようだった。
コラーリは同意を求められたがとても頷くことは出来なかった。そもそも手印魔法に関しては講義をしただけで具体的には教えていない。それに──
「クライスラーさん・・・『手印魔法』とは決してそういうものではないのですよ・・・」
そうつぶやくコラーリの声もまた、誰の耳にも届かなかった。
当然その後授業は実習となり、カノンは学園長室に連行された。
この場合、連行されるべきなのは火魔法を放ったアイネ・ゴルドベルグ侯爵令嬢では?と尋ねてみたら、彼女はこれから別室にご案内されるのだと教えられた。
カノンを学園長室に放り込んだあと、授業の責任者であるコラーリ先生はアイネの方に行ってしまった。
「で、今度は氷魔法と無詠唱魔法・・・だったか?無詠唱魔法はともかく氷の属性魔法は存在しない。種明かしをしてもらってもいいだろうか」
王弟殿下──いや、学園長はカノンが『一日十回、この世界にある魔法ならどんな魔法でも使える』ことを知っている。無詠唱魔法はこの世界に存在するため気にならないのだろう。
彼はクックと楽しそうに笑いながらカノンにお茶を出すと、カノンの向かいに座った。
しかしギルマスからのお説教の案件を一つでも減らすため、カノンはそのどちらも認めるわけにはいかなかった。
「だから『氷の属性魔法』でも、『無詠唱魔法』でもないんです。風と水の『複合魔法』と『手印魔法(という設定)』なんです」
カノンの言葉に学園長が眉間にしわを寄せ、頭を捻った。
「我々の認識から言うと、風と水の『複合魔法』であれば、風が水を巻き上げて広範囲に水魔法が届くというもののはずなのだが・・・」
それは授業でやった。しかしカノンに言わせればそれは『補助魔法』である。
カノンはまず『補助魔法』について学園長に説明し、氷は水を冷やすことで出来るため冷たい風と水を組み合わせて作りだしたのだと『氷の作り方』を説明しながら実際に出されたお茶の中に氷を落として見せた。
そして、本来の『複合魔法』は補助ではなく、複数の属性を合わせることで違う属性を作り出すことではないかとも伝えた。もしかしたら、複数人の魔法で一つの複合魔法を作り出すことも可能かもしれない。
この世に氷属性はないが、この世界に存在する風魔法と水魔法の複合であるため成功したのだとカノンは思っている。
「氷魔法に関しては分かった。──分かったが、君は魔法学会でも話題を席巻するであろう世紀の大発見をしたことを自覚しているか?」
「え?そんな大げさですよ」
カノン的には前世で読んだ物語の中にあった、よくある魔法の使い方をしただけだ。冗談でしょうと笑いとばすカノンの反応にそれ以上問うことを諦めたのか、学園長は次の話題を振った。
「・・・次に君の言う『手印魔法』についてだが──」
「それはですね。わたしの詠唱は数を数えるからある意味個性的でしょう?──」
カノンは身バレの可能性を少しでも減らすため『ソラ』の時と魔法の発動方法を変えることにしたのだと説明した。
「だからソラの時は手印魔法を使うという設定にしようと思って昨日の夜練習したんですけど、焦ったからかつい出ちゃったんですよねぇ・・・」
そう言って、カノンは一回目の魔法で手印を『一』として、二回目の手印を『二』とします──と説明しながら、人差し指を立てて『一』、人差し指と中指を立てて『二』を作った。そのまま『三』、『四』と続け、『六』で親指を立てて他の指を握りこんだ。『七』は親指と人差し指を立てる。最後の『十』は『五』と同じになってしまうがこれは何かあった時のために十回目は使わないという自分に対する戒めだ。
「クライスラー嬢・・・本来『手印魔法』というのはね」
学園長はため息をつくと両手で複雑な印を作り、魔力を流した。するとカノンの目の前に火球が現れ、学園長が手を離すと同時にそれも消えた。
「こういうもののことを言うのだよ」
実際に見せてもらった手印魔法はカノンのモノとは全く別物だった。




