23 魔法少女、空を飛ぶ①
週末、ソラは王都の門の前に立っていた。試したい魔法があるのだ。
「ソラ」
「ひゃっ!!」
急に声を掛けられ、ソラは飛び上がるほど驚いてしまった。
この町で『ソラ』に声を掛けるのは、怒りに震えるギルマスか、ギルドの受付でギルマスの元に連行するために待ち構えているニーナさん。そしてソラに喧嘩を売ろうとする冒険者くらいだからだ。
喧嘩を売ってこようとする冒険者に関してはあまり手の内を見せたくはなかったが、まだ試したい魔法があるため腹の中ではウェルカム状態だった。しかし、毎回どこからか見知らぬ冒険者が現れ、喧嘩を売って来た相手をソラの前から引きずり連れ去っていくのだ。
冒険者の怪我は生活に直接打撃を与える。
俺様たち──『ヘラクレスの兜』の一件では怪我のせいでしばらく仕事が出来ず、生活が立ちいかなくなった冒険者もいた為、それを知る冒険者たちがこれ以上けが人を出さないよう暗躍していたのだが、ソラはそんなことを知る由もない。
その為、ソラが声を掛けられるときは百パーセント叱られ案件だ。
ソラは恐る恐る声の主を確認し、そこに立っていた見知った顔に安心してつい口を滑らせてしまった。
「!・・・あ、『フォーク』の人っ!」
「はい?」
当の本人はそう言って小首を傾げたが、
((((((((そこに触れるのか!?))))))))
依頼を受け町の外に出ようとしていた冒険者たちが一斉にソラを見た。
美少女の名前は『フェイ』というらしかった。
「ごめんなさい・・・。命の恩人の名前を聞くのを忘れていたなんて・・・」
「いいよ。ボクの名前よりサンドワームを伸した方法と、フォークが気になったってことでしょ」
クスッと笑ってフェイが言った。
確かにあの時一番にサンドワームの倒し方を聞いてしまった。しかしあそこは確実に彼女の名を聞くタイミングであったのだ。あの時は動揺していたが、流石のソラにも今ならわかる。
「あっ、じゃぁ、今度お詫びにケーキを奢ってよ。ボク美味しい店を知っているから」
「っ!是非!!!」
失言に落ち込むソラに、フェイはそう提案した。そんなことで許していただけるのであればとソラは元気よく返事をした。王都に来てから色々あり、両親が来ていた時以外でカフェでスイーツを堪能する暇などなかったから単純にうれしいかったというのもある。
「で?今日は何の予定?何か依頼を受けているの?」
「今日は試したい魔法があって・・・」
「え?それってどんな魔法?」
ソラがそう言った途端、それまで笑顔だったフェイは、眉間に皺を寄せて聞いてきた。
「秘密~。成功したら教えてあげるね」
前世からの夢が叶うかもしれないのだ。テンション高めのソラは、フェイにそう言うと、「じゃ、絶対ケーキ、食べに行こうね」と言って手を振って立ち去ろうとした。
そのニヤけたソラの表情に──
「あ~、なんか嫌な予感がするからボクもついていくよ・・・」
何故か額に手を当てて頭を抱えたフェイが、ついて来たのだった。
「ふふふふふ」
ソラは今、魔法少女としての野望をもう一つ試すため、王都の門から出て少し行ったところにある野原に立っていた。軽く試すくらいならどこででも出来そうな気がするが、魔法の試しを室内でするものではないと前回の件で学んだからだ。
ちなみにフェイはボクのことは気にしないでと少し離れたところからソラを見守っている。
「相棒!」
ソラが手を伸ばしそう唱えると、手の中にホウキが現れた。今日この日のために、街で理想的なホウキを見つけ、収納に入れておいたのだ。
魔法少女といえばホウキに乗って空を飛ぶもの(カノン調べ)・・・そう、試したかったのは『浮遊魔法』である。
ソラはホウキに跨がると、期待を込めて叫んだ。
「一!飛べっ!!」
しーーーーん。
「「・・・・・・」・・・ねぇ、フェイ!この世界に浮遊魔法って存在しないの?」
ソラは少し離れたところでこちらを見ているフェイに尋ねた。
ちなみに道中ソラはフェイのことを『フェイちゃん』と呼んで物凄く嫌な顔をされてしまい、呼び捨てで呼ぶことになった。
「あるか無いかは分からないけど、ボクは聞いたことはないかな」
呪文はもちろん某赤いリボンの魔法少女参照だ。カノンに使えないということは、この世界に浮遊魔法はないのだろう・・・聞くまでもなかったか・・・。
しかし、簡単にあきらめるわけにはいかない。
「なら、風魔法を使えばいいのかな? 一!飛べっ!!」
諦めきれないソラが、気を取り直して叫ぶ。その呪文を受けて、ソラの回りに風が巻き起こった。
ソラの頭の中のイメージが違うため、同じ呪文でも違う現象が起こる。
「え?」
ど、ピューーーーーーーン!!!
「ええええええええええッーーーーー!!!!!」
そして、ソラは風によって、ホウキ諸共空高く飛ばされたのであった。
「で、何がしたかったのかな?」
ソラは今、二度目の命の恩人となったフェイに、野ッ原で正座をさせられていた。
「ホウキで、空を──」
「は?」
「ホウキで空を飛ぶのが夢で、その練習を・・・」
「はぁ??」
何を言っているのか分からないといった感じで自身を見るフェイに、ソラはそう説明するが、その熱い思いはあの世界を知らない者に理解できるはずがなかった。
「風魔法に重力操作があるから、それを上手く使えば『浮く』こと自体はなんとかなるかもしれないけど、『飛ぶ』となると繊細なコントロールが必要だよ。魔法で自由に空を飛ぶなんて難易度が高すぎる。
──しかも何故ホウキなの????」
この世界では百人が見たら百人が持つ疑問だろう。
「まだ自分に風魔法をかけて飛ぼうとするならまだしも、ホウキに魔法を掛けて、それに跨がって空を飛ぶなんて・・・しかも落下したときの対策を練らずにだよ!?──ボクが居なかったらどうするつもりだったの!・・・本っ当に理解に苦しむんだけど・・・」
そう、ソラは浮いているホウキに跨がって空を飛ぼうと思ったのだ。しかし跨がって魔法をかけたところ、ホウキはソラを乗せたまま勢いよく風に飛ばされ空に舞い上がってしまった。
風圧のせいで目を開けられなかったソラは、バランスを崩し右に左に風に飛ばされるホウキの柄にしがみついた。さらに当然といえば当然なのだが、重力に従って逆さ吊りになってしまった結果、腕で自分の体重を支えることが出来なくなり、危うく地面に叩きつけられそうになったところでフェイに助けられたのだった。ちなみにホウキは回収済みだ。
全く分からないと言った顔をされたため、ソラは”魔法少女”についてフェイに説明した。
ローブを着て魔法の杖を手にした魔法使いの女の子がホウキに跨り移動したり、悪者(未定)と空中戦を繰り広げたりするのだ!──と。
「ホウキの必要性は全く分からないけど、ソラのイメージは大体わかったよ。
戦いの中、風魔法で自分の身体を少し浮かせたり、衝撃を和らげたりする人はいるけど、戦いながら空を飛び続けて攻撃・・・ソラなら出来ないことはないだろうけど──普通に目立つよね」
暗に叱られ案件だと言われてしまった。
しかも不用意に飛んでいると魔獣と間違えられて攻撃されたり、鳥型の大型魔獣に狙われたりする可能性があるらしい。
「ボクはあまり詳しくないけれど、移動手段としてだけなら特殊魔法の中に転移魔法があるよ」
(転移魔法か──)
魔法少女というより超能力者感が強めだが、興味はある。
しかし転移魔法には何かしらの制限がある場合が少なくないためよく調べてから使うことにしようとソラは思った。
「一度行ったところにしかいけない」くらいならいいが、「生物の転移が禁忌」といった制限があれば大変だ。使ったが最後、手だけがどこかに転移したなんていう事態になったらと思うと恐怖でしかない。
──この世界では特殊魔法の使い手はかなり少ないらしく、学園か王立図書館くらいにしか詳しい関連書籍がないため、それに関しては後日調べることにした。
「で?その『魔法少女』になるにあたって何か他に考えていることは?」
呆れたようにフェイがソラに尋ねた。
「黒い使い魔!──いや、ペットが欲しいから手ごろな魔獣を捕まえに行こうかと・・・」
「学園の寮はペット禁止だよ」
──ソラの夢はそこで潰えた・・・。




