21 紫色の魔石
「ソラっ!」
「え~っと、口以外から体内に攻撃するには──あ、あった!!」
ソラは咄嗟に火球を小さくし、その軌道を少し上にずらした。その結果、火球は・・・・・・『サイクロン』の鼻の穴に吸い込まれていった・・・。
「「・・・」」
口と鼻は繋がっている。
フガッーーー!!
『サイクロン』は体内で再び勢いを増した火球にのたうち回り、しばらくするとその活動を停止した。
ギルマスが言った通り、ソラは『サイクロン』を丸ごと収納すると「危なかったねぇ」と言って振り向いた。
「君ねぇ・・・」
そこには腰に手を当てカンカンに起こった美少女が仁王立ちしていた。
「集団行動をしているときは勝手な行動は控えるように」と散々怒られたソラは、以後薬草採取禁止を言い渡され、ダンジョンの見学のみで真っ直ぐ六階層まで降りることになってしまった。
「『サンドワーム』といい『サイクロン』といい、ソラは引きが強いみたいだから」
というのが主な理由らしい。ちなみに二体とも滅多にお目に掛かれる魔獣ではないらしい。
そして辿り着いた五階層は雪山・・・ここはそれなりに準備をしてこなければ遭難するらしいが、彼女がマジックバッグに保温効果のある魔道具を持っていたため事なきを得た。カレリアさんに続いてまた魔道具!冒険者って皆高価な魔道具をポンポン持てるほど稼げるのだろうか・・・。
ここは物語の世界に類似していても現実なのだ。
ソラは”ダンジョン”という言葉に盛り上がり、聞いた話だけで何も調べず、観光気分で下準備もせずにここに来たことを反省した。ギルマスや受付の人から説明がなかったのは、まさかソラが初回でこんなところまで来るとは思っていなかったからなのだろう。
取り敢えず地上に戻ったら雨具と防寒グッズ、そしてダンジョンの攻略本(あるのか?)を買おうとソラは思った。
六階層から十階層は魔石が採掘できる岩場だ。至る所に採掘跡らしき横穴が開いていた。
「薬草採取の手際からしてソラは鑑定が使えるんでしょ。魔石採取、手伝ってくれないかな」
ソラは魔石エリアに向かう途中でそう頼まれた。命の恩人のお願いだし迷惑もかけたので断る理由はない。むしろ協力させて欲しいくらいだ。
そして彼女は道すがら魔石についての話を聞かせてくれた。
「魔石は『魔力』が閉じ込められている石で、魔法の数だけ種類があるんだよ」
とはいえ地下牢に入っている囚人の属性が大きく影響するためここで採れるのは各属性の魔石がほとんどだそうだ。しかしごくごく稀に特殊魔法の魔石や空の魔石が見つかることがあるらしい。
魔石の採掘できる階層は六~十階層だが、採れる魔石の階層による変化はなく。何階で採っても基本ランダムで法則性もないのだという。
ちなみにこの世界には『宝石』は存在しない。
透明で水晶やダイヤモンドに見えるものは空の鉱石で、赤いのは火の魔石。青いのが水で、緑色が風、白い中に虹色が見える・・・前世の宝石で例えるとオパールっぽいのが光の魔石だ。
土の魔石は茶色で、闇の魔石は黒い。
特殊魔法の魔石はレアすぎて、カノンは見たことがない。
魔石は採掘して発見するか、物語同様魔獣を倒して体内の魔石を手に入れるからしい。
魔石は色と色の濃淡で価値が決まり、中に閉じ込められた魔力は魔道具に装着して使う場合を除いては基本取り出すことは出来ない。そのため、前世同様多くは宝飾品として流通している。この国にはブラウンの髪や瞳を持つ人が多いため、土属性の魔石は特によく売れるのだと、そう、カノンは聞いていたのだが──
「中に閉じ込められた魔法を取り出す方法は他にもあるんだよ」
「え、そうなの?」
「付与魔法を使える人が付与をするのに使う場合だよ」
魔道具を作る錬金魔法も付与魔法もとてもレアだ。やはり魔石からその魔法を取り出すことはほとんど出来ないと言うことなのだろう。
でもこれで分かったことがある。例えばカレリアさんたちが持っていたマジックバックを作るには付与魔法と空間魔法というレア魔法の二属性を揃って持っている人がいないと作れないのでは?と疑問に思っていたけど、空間魔法の魔石を使って作ったのだ。
人は特殊魔法の魔石を手に入れたら余程お金に困っていない限り、売らずに魔道具を作るのだそうだ。そのため属性魔法以外の魔石アクセサリーは市場には出回らない。恐らく『暁の庇護者』や彼女が持っているマジックバックは各々が手に入れた魔石で出来ているのだろう。
そんなことを考えながら、ソラは鑑定魔法で周りを見渡す。至る所に魔石が埋まっているのが見えた。
「あ、ここに埋まってる。三、採掘!」
ソラはすぐそばに埋まっていた火の魔石を取り出すため、土魔法を使った。が・・・
バキッ!
「あ・・・」
折角見つけた火の魔石は周りを固める石と共に、音を立ててバラバラになってしまった。魔法で採掘するには繊細なコントロールが必要らしい。
苦笑いしながらソラが振り返ると、彼女は黙って採掘に必要な道具を貸してくれた。
時間の許す限りギリギリまで掘り続けた結果、各属性の魔石多数。空の魔石をいくつか採掘することが出来た。
「レア魔石が一つくらい見つからないかなぁと思っていたけど、そう簡単にはいかないね。まぁ、空の魔石が採れただけラッキーかな」
「何の魔石が必要だったの?」
「第一希望は空間魔法だよ」
空間魔法の魔石・・・地下に捕らえられている人たちの魔力がここにある魔石に影響を及ぼすのであれば、自分が空の魔石に魔力を込めれば空間魔法の魔石が出来上がるのではないかとソラは考えた。
空の魔石を手に取ると、試しに魔力を込めてみる。
じわじわと魔石に魔力が吸われていき、徐々に魔石が色を変えていった。
「・・・ソラはちょっと人を疑うことを覚えた方がいいんじゃないかな。不用意すぎる・・・、ギルマスが心配するのがよくわかるよ」
ソラの手元を覗き込んで彼女が何か言った。ソラの手元を見ても驚かないようなのでギルマスから色々聞いているのだろう。
「大丈夫よ?魔力を込めるのは一回にカウントされないみたいだから」
「いや、そういうことではなくてさ──」
空間魔法の魔石はよく見ると彼女の髪の色と同じだった。誰かにプレゼントでもするのだろうか。ソラはそう思いニマニマしながら彼女の髪色と同色の紫色の魔石を彼女に差し出した。そんなソラに彼女は何か言いかけたが、諦めたようにソレを受け取った。
彼女に連れられて無事に冒険者ギルドに戻ることが出来たソラは、窓口に依頼の薬草と余分に採取した薬草を納品した。一緒に採掘した魔石は全て彼女が欲しいとのことだったので渡した。元よりお礼のつもりで手伝ったので問題はない。
報酬は書面で確認し、一部をお小遣いとして受け取って残りは冒険者ギルドの口座に入金してもらうことにした。
「ごめんね、一応依頼主に報告しないといけないから・・・」
その後、苦笑する彼女に連れられてギルマスの部屋に連行されたソラは、紫色の魔石を目にしたアドルフに烈火のごとく怒られることになったのだった。




