17 間違えた設定
炭と化した的が地面に落下する音が、シンとした試験会場に響く。
自身の力を過信している人たちを黙らせるのは、簡単だ。こちらが上位なのだと分からせればいいのだ。
そういう思想なのだと本人が宣言しているのだからその方法も簡単、そいつを上回る力を見せつければいいだけだ。
カノンは静かに振り返るとアイネの方を真っすぐ見据えた。
「──で、属性数が多い方がなんでしたっけ?」
にっこり笑うカノンに、アイネ──だけでなくその場にいた全員が顔を引きつらせた。
「さ、三属性・・・」
シンとした会場に誰かのつぶやきが落ちた。
「あ・・・(やっばっ!)」
妙に会場内に響いたその言葉でカノンは冷静さを取り戻した。
そして、そこではじめて設定を間違えたことに気が付いたのだが──すべては後の祭りであった・・・。
その後、当然会場は大騒ぎとなり試験の続行は不可能。そのまま解散となり、カノンより後に試験を予定されていた子爵、男爵家の子女たちは後日改めて試験を受けることになった。
そのことを後から聞いたカノンは、大変申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
しかし、三属性持ちは王族と決まっているのだ。公爵ならまだしも子爵令嬢に現れたとあればこの騒ぎも仕方がない。そんな現実を目の当たりにして動揺している者も少なからずいたため試験の延期は逆に喜ばれたそうだ。
何故カノンがそれらを後から知ることになったのかというと、
「カノン・クライスラー子爵令嬢。別室でお話を伺いしたいのですが──」
と、試験官の先生に半ば強引にあの場から連れ出されてしまったからだ。
「え、両親を王都に呼ぶのですか?」
カノンが連れていかれた部屋は学園長室だった。
「一応な。本来三属性持ちは王族か王家の血を引く公爵家の者にしか生まれない。ご両親に確認を取らねば君は王族の誰かの隠し子だと疑われるぞ。いや、すでに疑われているかもしれない」
「学園長!そんな悠長な冗談を言っている場合ではありませんっ!王族以外の貴族に三属性ですよ、三属性!──」
試験官の先生が笑えない冗談を言う学園長を咎めながらも興奮冷めやらぬ・・・といった感じで捲くし立てた。この先生はコラーリと言って魔法科の先生らしい。
王族は金髪碧眼と決まっているのだからブラウン一色のカノンが隠し子と間違えられることはないだろうが、不敬と言われては敵わないのでそう言う冗談はやめて欲しい。
「そうだ、コラーリ先生。クライスラー子爵家への手紙、任せてもいいかな。出来れば入学式までに王都に来て欲しいからね。急いで出した方がいい。実際に現場を見ていた者が手紙を書くのが一番だろうから──」
学園長はもっともらしいことを言ってコラーリを部屋から追い出すと、手際よく二人分のお茶を入れてからカノンの前に腰を下ろした。
「で、随分予定と違うようだが・・・?」
「予定、ですか?」
カノンが首を傾げると学園長は「属性は風と水の予定だと聞いていたのだが」と楽しそうに言った。
そう言えばギルマスが情報は国王と王太子、そして王弟である学園長に共有──って・・・
「お、王弟殿下っ!?」
カノンは慌てて立ち上がると、慣れないカーテシーをしようとしてふらついた。
王族特有の金髪碧眼をしていたのに全く気付かなかった。──それにしてもあれから二日。情報共有が早すぎませんか。
「あはは。気にしなくていいよ。気軽に学園長でいい。けれどどうしてこんな事になったのか聞いていいかい?」
学園長にそう言われ、カノンは躊躇いながらも今日あった出来事を説明した。
「──で、なんだかムカついて、・・・ですね・・・。つい・・・」
「あぁ、アイネ・ゴルドベルグ侯爵令嬢か。彼女にも困ったものだね」
そして何故か学園長は、王太子妃候補が二人立てられているのかを説明し始めた。
公爵令嬢であるミレイユは幼いころから王太子の婚約者候補だった。何故『婚約者』ではなく『候補』だったのか。それは魔法がまだ発現していなかったからだ。
アイネが言っていた「魔法属性数が多いほど偉い」という考えは根強く、国の頂点である王族は三属性、公爵は二属性と、地位が高いものは複数属性が当たり前なのだという。仮に王族に一属性の者が嫁いで万が一にも二属性や一属性が生まれてしまえばそのピラミッドが崩れてしまう──。
そんな理由から王家へ嫁ぐものは二属性が好ましいとされており、一属性しか発現しなかったミレイユは「候補」のまま、宰相の娘であり二属性が発現したアイネがもう一人の「候補」として立てられてしまったそうなのだ。
「『好ましい』、であれば一属性でも構わないのではないですか?」
「だから未だに候補のままでいることが出来ているのだよ」
そうでなければとうの昔に候補から降ろされていた、ということだろう。
「それに君も見た通り、ゴルドベルグ侯爵令嬢は人格に少々問題があるからね。属性数以外王妃として問題のないオークス公爵令嬢と属性数以外に問題しかないゴルドベルグ侯爵令嬢──成婚は彼女たちの卒業後だから皆それまで様子見なのさ」
何故か楽しそうに語る学園長。
王太子妃は未来の王妃だ。それなのに人格より優先されるなんて──属性数ってそんなに大事なことなのだろうか。
「何故その話を私に?」
「君が三属性ということは生徒たちによってあっという間に広がるだろう。ミレイユとアイネを不安視している貴族たちが次期王太子妃に君の名を上げる可能性がある」
「えぇ・・・」
その言葉に物凄~く嫌そうに顔をしかめるカノンを見て、学園長は笑った。
「はははっ!冗談だよ。王族であれば属性数で押し通すことが出来るだろうが、王太子妃になれるのは伯爵以上と決まっているからね」
さっきから訳の分からない冗談を言ってばかりの学園長だったが、ふと真面目な顔をすると
「しかし、しばらくは王家の動きを見るため他の貴族も大人しくしているだろう。学園生である間は寮生活だから大丈夫だと思うが、くれぐれも気を付けるのだよ。何かあれば遠慮なく言ってくれ。
そして子爵令嬢の君が王族に並ぶ三属性──何か面白いことが起きないか期待している。もちろん『冒険者ソラ』としての活躍もね」
そう言って、コラーリ先生が戻ってくる前に帰った方がいいとカノンを送り出した。
「変身っ!」
その翌日、やむを得ず?予定を変更することになったことをアドルフに報告するため、カノンは『ソラ』になり冒険者ギルドに向かった。
ギルドに足を踏み入れてすぐ、呼び出すまでもなくアドルフが受付に仁王立ちしているのが見えた。嫌な予感がしてソラが踵を返し受付に背を向けたところで、いつの間にか近くに来ていたアドルフに肩を掴まれたのだった。
「学園の入学試験に三属性持ちの子爵令嬢が現れたという噂を聞いたんだが心当たりはあるか?」
そう笑顔で囁かれ、そのまま別室に連行されてしまったのだった。
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