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15 波乱の入学試験②


その時、ミレイユが静かに口を開いた。


「──ゴルドベルグ侯爵令嬢、もういいでしょう。わたくしが一属性であることは事実だけれど、あなたより先に試験を受けたこともまた、事実ですもの」


アイネがミレイユのところに出向き心無い言葉をぶつけ蔑むのはいつものことだが、ミレイユが反論することはない。いつも言われるがままになっているのだ。その為アイネも周囲の人間もそれを『ミレイユは既に負けを認めている』と解釈していた。

家の爵位はアイネの方が劣っているが、属性数で上回っているアイネの方が上なのだと。

だからそんなミレイユの反論に、アイネは驚き、一瞬何を言われたのか分からなかった。


「公爵家に生まれておいて一属性しか発現しなかった癖に二属性持ちの私に意見するつもりなの!?」

「気に障ったのであれば申し訳なく思いますわ。

でも意見をしたわけではなく、わたくしは先ほどのあなたの質問に答えただけ。『わたくしがあなたより先に試験を受けたから先に終わったのです』と」

「──っっ!」


ミレイユが自身の家格の方がアイネより上な(偉い)のだと遠回しにではあるがはっきり言われた──。散々下に見ていたはずのミレイユの反論に苛ついたのか、アイネは両手に持った扇を握りしめる手に力を入れた。今にも扇が折れそうだ。


「一属性のくせに生意気なことをっ!?」

「いいえ、わたくしは聞かれたことにお答えしただけですわ」


ミレイユはアイネにそう言うと、カノンを見て言った。


「あなたはもうすぐ試験でしょう?さぁ、もう行ってちょうだい」


子爵令嬢であるカノンの順番はまだ回ってこないだろう。それに順番が来れば呼び出されるはずだ。

おそらくミレイユは、これ以上カノンがいらぬことを言ってアイネに目を付けられることを避けようとしてくれているのだろう。その怒りの矛先をカノンから自身に向けるために敢えてアイネを煽っているのだ。もうこれだけでミレイユの為人が分かる。

しかし、カノンとアイネは魔法科で同じクラスになるのだからその好意は無駄に終わる。


「一属性のくせに勝手なことを言わないで頂戴っ!私はその無礼者を許す気は無いわ!!」


それにしてもアイネは口を開けば一属性、一属性と、本当にうるさい。高位貴族の子女は確かに二属性持ちが多いが、必ず複数の属性を持っているわけではない。

もちろん属性数や魔力は嫁ぎ先や就職先を左右する。今回魔法が発現しなければカノンの人生が終わっていたように、それで人生が決まる人がいるのは確かだ。

しかし、例え彼女が公爵家初の一属性なのだとしても、ミレイユとアイネは共に『王太子の婚約者候補』のはずだ。爵位が上であるミレイユに対するアイネの態度も、それに対して皆が何も言わず、まるでアイネに追従するかのようにミレイユが一属性であることを蔑んでいるのは何故なのか・・・カノンにはわからなかった。


「彼女は試験の時間です。いくらあなたでも試験を受けさせないなんて権限はないはずです」

「──っっ!一属性のくせに私に口答えするなんて──」

「これ以上の横暴は、王太子妃に相応しくないと判断される要因となり得ますよ」

「このっ!」


その時だった。ミレイユに苛ついたアイネが扇を振り上げ、ミレイユに向かって振り下ろそうとしたのだ。


「「「「きゃぁぁぁぁ」」」」


周囲の令嬢から悲鳴が上がった。

流石に不味いと思ったのか、後ろの方で見ていた令息が何人かこちらに来ようとしているが、彼らは間に合わないだろう。

ミレイユはアイネに殴らせれば静かになるとでも思っているのか、その場を動く気配がない。

何故?そんなもので打たれたらミレイユが怪我をしてしまう。いくら回復魔法があっても怪我に痛みは伴うのだ。カノンは馬車での痛みを思い出していた。

アドルフには決して目立つな、無茶をするなと言われているが、流石にこれは仕方がないだろう。


──この世界に、この魔法がありますように!


(いち)──」


カノンは誰にも聞こえないようにつぶやくと、素早く移動し振り下ろされたアイネの腕を掴んだ。


「あったんだ・・・よかった」

「なっ!」


 カノンが使ったのは支援魔法(バフ)。移動速度アップと身体強化だ。流石に同じ令嬢とはいえ振り降ろされた腕を掴む動体視力もスピードも、それを止める腕力だって持ち合わせていないからだ。


「あなた、自分が何をしているのか分かっているの!?」

「はい、あなたがオークス公爵令嬢に暴力を振るおうとしていたのを止めたのですがそれが何か?

大体あなたが二属性であることは流石に理解出来ましたが、だからと言って暴力は駄目でしょう。そもそも二属性と言うだけなのに何でそんなに偉そうなんですか?」


カノンの言葉にアイネが信じられない者を見るように目を見開いた。


「あなた何を言っているの!!王族は三属性、公爵家の者は二属性──上位者であるほど属性は多い。一属性より二属性の者の方が上位者なの!!さっき教えたでしょう!?」


アイネは未だ自分の手を握っているカノンの手を振りほどいた。


「私にとって、あなたの未来を潰すことなんて造作もないことなのよ。それにも拘わらず私にこんな無体を働くなんて・・・覚悟は出来ているんでしょうねっ!!」

(えええぇ・・・。知らなかった。この国では属性数が多い人が偉いの?)


アイネの話を聞いたカノンはそう思ったが、すぐに否定した。アイネの説明ではこの国で一番偉いのはカノンだということになってしまうからだ。


「何をボーッとしているの?理解したなら今すぐその額を床にこすり付けて詫びなさい」

「属性数が多い方が上位者って・・・それは無理が・・・」


無理がありますと、カノンがそう言いかけた時、アイネが後ろに立つ令嬢に指示を出した。

それを受けた令嬢は、カノンの両脇に立ち二人がかりでその腕を拘束した。そのうちの一人が強引にカノンに頭を下げさせると、もう一人が肩を下に押しさりげなく膝裏に足を掛け、そのまま膝を付かせようとした。


「ゴルドベルグ侯爵令嬢っ!!」


ミレイユがカノンの方に来ようとしたが、違う令嬢が素早く移動し、体でそれを止めたのだった。



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