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14 波乱の入学試験①


運命の入学試験当日。午前中の試験はやはり散々な結果だった。


午後の実技試験は魔法が発現しているものは皆受ける義務がある。当然魔法を発現していない者は受けないが、受験生の大半が発現しているため受験人数は多い。

試験は昨日ギルマスと練習した通り、遠くの的に向かって魔法を放つだけのようだ。しかも的はあるが必ずしも当てる必要はない。それは学園入学の時点で重要なのが属性数と魔力量だからだ。コントロールや魔法の使い方等は学園で学ぶ。

試験が魔法を放つだけでいいのなら回転は早そうだが、流石に貴族の子女。特に令嬢が列に並びサクサク動くはずもなく、待ち時間を過ごすために設けられた試験会場横の喫茶コーナーにいる受験者を一人ずつ呼び出しながら実技試験は行われる。


更にこういった催しは爵位順で行われるため、子爵令嬢であるカノンの出番はまだまだ先。

宿の料理人が作ってくれたお弁当を食べ、カノンがのんびり試験会場にやってくると既に試験は始まっていた。しかし順番はまだまだ回ってこないようだ。

時間を潰すために喫茶コーナーに足を踏み入れたところで、カノンはある噂を聞いた。

それは『公爵令嬢であるにも関わらず一属性の人がいる』という、まるでそのことを蔑むようなものだった。一属性の人は貴族社会にはたくさんいる。なぜそんな噂になるのかと、カノンは不思議に思った。


喫茶コーナーには限りがあるため基本相席となる。爵位による席分けはされていなかったため、適当に開いている席を探したが何処のテーブルも満席だった。

しかし、しばらく席を探して歩いていると喫茶コーナーの一番端、六人掛けのテーブルに令嬢が一人しか座っていないテーブルを見つけた。


「あの、ご一緒してもいいですか?」


カノンが令嬢に声を掛けると、彼女は驚いたようにカノンを見た。プラチナブロンドにピンク色の瞳の美しい令嬢だった。


「え、あ、構いませんが・・・」

「ありがとうございます!」


カノンが食い気味にお礼を言って令嬢の向かいに座ると、周囲に少しざわめきが起きた。見るとこのテーブルは周囲から遠巻きにされているようで、皆カノンを信じられないものを見るように目を見開いて見ていた。

そう言えば、この令嬢は「構わない」とは言ったが、何か言いかけていたようにも聞こえた。もしかして先約があったのだろうか。


「あ、誰かお友達が来る予定とかありましたか?だったら・・・」


そう言ってカノンが席を立とうとしたとき、黒髪縦ロールに緑色の瞳の気の強そうな令嬢がカノンの横を通り過ぎた。手には真っ赤な扇。背後には取り巻きなのか数人の令嬢を引き連れていた。


(り、リアル悪役令嬢っ!!!?)


カノンは思わず二度見してしまった。


「あら、ミレイユ・オークス公爵令嬢!こんなところにおられましたの?流石一属性なだけあって試験も早く終わりましたのね」


悪役令嬢(仮)はカノンの向かいに座る令嬢の横に立つと、彼女を見下ろしそう言い放った。

おーっほっほっ!と高笑いが聞こえてきそうなテンションで向かいの令嬢に話しかける悪役令嬢(仮)に辺りは静まり返り、試験中の人が放ったであろう魔法が的をとらえる音だけが聞こえてきた。

隣のテーブルに座る令嬢が「アイネ・ゴルドベルグ侯爵令嬢よ」と小さな声で言っているのが聞こえたため、すぐにこの嫌味を言っているのがアイネ・ゴルドベルグ侯爵令嬢で、向かいに座る人がミレイユ・オークス公爵令嬢──先程噂を聞いた一属性の公爵令嬢だと察することが出来た。

この人たちがこのテーブルに座る予定だったお友達だろうか?──カノンは一瞬そう考えたが、(アイネが一方的にだが)何となく険悪そうなので流石にそれはないだろうと思い直した。

しかし、アイネは知らないのだろうか。


「──試験は爵位順に行われていますから、単にオークス公爵令嬢の方が試験を受けただけじゃないですか?」


カノンはアイネにそう、教えてあげた。


「「「「っ!」」」」


周囲のテーブルから、短い悲鳴や息を飲む音や血の気が引く音が聞こえてきた気がした。

アイネはピクリと形の良い眉を動かすと、優雅な所作でカノンの方を見た。


「あなた、私に意見するなんていい度胸ね。見かけない顔だけど・・・名を名乗りなさい!」


領地から出たことのないカノンは、王族はもちろん侯・公爵家の人とも会ったことはない。田舎者からしてみれば雲の上の存在であるはずなのだが、リアル悪役令嬢(仮)にテンションが上がっている上に、カノンは今も変わらず転生者(リンカネー)・ハイ(ション・ハイ)状態であり、分かってはいるのだが、貴族の上下関係とはどこか無縁の場所に立っていた。


「クライスラー子爵家のカノンと申します」


カノンは立ち上がり、笑顔で自己紹介をした。


「クライスラー?聞いたことないわね。どちらにしろ、私に対して無礼ではなくて?」


アイネ・ゴルドベルグ侯爵令嬢が高圧的にカノンを睨みつけた。

カノンには自分のどの辺が無礼だったのか皆目見当がつかなかったが、考えた結果、アイネにミレイユが先に試験を受けたことを「教えてあげた」ことだと思った。プライドを傷つけてしまったのだ。


「え?あ、すみませんでした!侯爵家より公爵家の方が試験の順番が早いなんて、ご存じでしたよね」

「はぁ!?あなた!私を馬鹿にしているの!?」


内心リアル悪役令嬢(仮)との会話に、これは滅多に出来ない貴重な体験だと喜んでいたカノンだったが、アイネは何故謝罪したのにまだ怒っているのか。

そこでカノンは家の爵位のなのに、上のアイネに話しかけたのがダメだったのだと思い至り、ついでに頭もぺこりと下げた。


「あ、・・・侯爵家の方にすみませんでした」

「──っ!一属性のくせに二属性の私に失礼だと言ったのよっ」

「はい?──爵位じゃなくて属性数で、ですか?」


カノンにはアイネが何を言っているのか理解できなかった。


「これだから田舎者はっ!いい?よくお聞きなさい。私は侯爵令嬢で魔法は火と風の二属性持ち。そして王太子殿下の婚約者()()──未来の王太子妃なの」

「?()()なのに、なんで未来の王太子妃なのですか?」


カノンが素朴な疑問を口にする。

周囲の貴族の子女たち──に加え、アイネの後ろに控える令嬢たちも若干顔色が悪くなっている気がする。

しかしアイネはそれを聞いて鼻で笑った。


「もう一人の婚約者候補が一属性のオークス公爵令嬢だからに決まっているじゃない。」

「はぁ」


さっぱり分からないと思っていることを隠そうともしないカノンを、周囲は青い顔で見守り、アイネは扇を広げ口元にあてると冷めた目で見据えた。


「分かっていないようだから特別に私自ら教えてあげるわ。

二属性持ちは伯爵家以上に生まれるものなの。特に公爵家の者は必ず二属性の魔法を発現し、これまで一属性しか発現しなかった例など一度も無いわ。王族は三属性、公爵家の者は二属性──これはこの国の理なの。公爵家に生まれ一属性しか持たないなんて──そんな道理から外れた存在が王太子妃になどなれるものですか」


そう言ってアイネは嗤った。結構酷い言いようだ。

それにしてもアイネが何に怒っているのかと思えば「自分が二属性で未来の王太子妃だから」なんてくだらない。「侯爵令嬢だから」なら分からなくもないが、じゃぁ何故今も一属性のミレイユと肩を並べて『()()』のままなのか。


「折角教えていただいたのによくわかりません。属性数で王太子妃になれるのであれば、とうの昔に『()()』の文字は取れているはずですよね。なのに、なんで未だに候補のままなのですか?」

「ひっ!」


アイネの後ろに控える令嬢の中の一人が短い悲鳴を上げた。

見るとアイネが扇を両手で持ちプルプルと震えている。


「お前・・・っ!!!!」

(げ。)


アイネを見ると、鬼の形相でカノンを睨みつけていた。

どうやら地雷を踏んでしまったようだ。



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