13 ジャガイモくらいの大きさで
「ひっ!」
「なんだ今の魔法は!!」
「風魔法だろうが、この威力は・・・」
「だ、大丈・・・いや、生きている、の、か?」
一瞬シンとした場内だったがすぐに騒然となり、ニーナが試合終了を告げる。
「じ、場外・・・と戦闘不能により、ソラさんの勝利です。無事な方は怪我人を別館医務室に運んでください!」
「あ、あれ、なんで?」
『俺様』たちが急に襲ってくるから思い切り風魔法を放ってしまったのだが・・・。
相手はDランクパーティー。おまけに経験者だ。Eランクで新人のソラより強いはずではないのか。
ソラは思いの外よく飛んで行った三人とギャラリーたちに驚いていた。『風魔法』で場外に落とすつもりで放ったのだが、『飛んでけ』ではなく、『落ちろ』や『出ろ』くらいの方がよかったのだろうか・・・
え?いや、今のって、風に飛ばされたというより、何かに引っ張られて壁に叩きつけられたような・・・。
「あ」
そんなことを考えている場合ではない。彼らを医務室に運ぶのを手伝わなければ!
そう思い、壁際へ行こうとしたところで、ソラは後ろから肩を掴まれた。
「ソラ。入学試験は明日だったな。今日はこれ以上何も起こらないことを俺が保証する。あと九発分。俺が『手加減』を教えてやるから体に叩き込め」
ソラが振り返るといつの間にか背後に黒い笑顔のアドルフが立っていた。
カノンが冒険者に絡まれるであろうことは『暁の庇護者』もギルマスであるアドルフも予想していた。しかしこれは『ソラ』に必要な通過儀礼だ。そして「誰が来ようとカノン嬢が勝つだろうから、その時に彼女の実力を確認して欲しい」とアドルフは『暁の庇護者』に言われていた。
ニーナは予めアドルフから指示を受けており、ソラが絡まれた場合は練習場に案内しアドルフを呼ぶ手筈になっていたのだ。彼女もまた、ソラの実力には驚いていた。
思いの外怪我人が多く出てしまったが、冒険者同士の勝負はギャラリー含め絡まれた側の実力を知らしめることを目的としているので自己責任だ。目的は達成されているのでなんの問題はない・・・らしい。
それでも「皆さんに回復魔法を──」と医務室に向かおうとするソラを、魔法の無駄遣いだとアドルフが止めた。
王立学園には普通科と騎士科、そして魔法科がある。
魔法属性が二属性の者は属性威力関係なく無条件で魔法科への入学が決まり、一属性でも魔力が基準以上の者も魔法科入学となる(ただしその”基準”は明かされていない)。
騎士科は武術に長けた者が通う科だ。将来は騎士やハイランク冒険者を目指すものが集い、多くは一属性だが、魔法無しの者もいる。
そして剣が扱えず魔法が発現していなくとも一定以上の学力があれば普通科へ入学となる。主に下位貴族の子女たちだ。ちなみにこの普通科を落ちるものは滅多にいない。そのため入学試験に落ちるものは学力不足──貴族では非常に稀であるため、あえてその様な者を伴侶に望むものはいない。王立学園の入学試験に落ちるものには未来がないと言われている所以だ。
その為学科が絶望的でありその普通科への入学の可能性がゼロであるカノンは、多少目立とうとも確実に魔法科へ入学できる二属性設定を選ぶ必要があった。悪くて目立つより、良くて?目立つ方がましだという考え方だ。
そして今、ソラはアドルフに明日の試験で披露することになる属性魔法の的当ての練習をさせられている。
おそらくエイシスの言った『確認』はそういうこと(入学試験に向けた威力の『確認』)ではなかったのだろうが、ソラの魔法を見たアドルフはこの状態で明日の試験に臨めば学園の施設の壁が一つ二つ崩壊すると確信した。
「風刃で狙うのは的だけだ!相手は大型魔獣じゃないんだ!周囲の壁諸共吹っ飛ばす気かっ!!」
「入学試験の水球にそんなデカさは要らん!ジャガイモくらいの大きさで十分だっ」
「それは小さすぎだ!せめて視認出来る大きさにしろ!!」
「は、はいぃぃ!」
ギルドの練習場は強靭に作られているうえ防護魔法がかけられているらしく、ある程度の魔法をぶつけても壊れない。しかし試験会場である学園の施設はそこまでの強度はないらしく、今の勢いで魔法を放てば確実に壁が吹き飛ぶと言われてしまった。
「え!?じゃぁさっき壁に激突した人たちは大丈夫じゃないんじゃないですか?やっぱりわたしが行って・・・」
この期に及んで冒険者たちの心配をするソラにアドルフは言った。
「あいつらは鍛えているから大丈夫だ(多分)。それに医務室には回復魔法を使えるヤツもいるから安心しろ。(まぁ、何かあった時のために魔力を温存しているから自業自得のヤツらには行使しないだろうがな)」
アドルフにそう言われ、安心して明日に備え練習したソラは、水魔法は四回、風魔法五回の練習で、何とか的だけを狙えるようになったのだった。
アドルフはこの翌日、試験直前に、わざわざ二属性の設定にせずともあの威力であれば一属性でも十分魔法科に受かるのではないのかということに気付いたが、時は既に遅かった。
そして、二属性持ちの子爵令嬢の噂はアドルフの予想よりもっと酷い形でその耳に入ることになる。




