11 異世界定番イベント
「なるほど。驚異的な容量の収納は身をもって理解した。魔法についてはもう少し確認したいが、まぁ、冒険者登録自体は可能だし話に聞くほど強いのであればこちらに否やはない。」
アドルフに「コルァァァ!」と怒られたカノンが、本日六回目の魔法で再び盗品を『収納』している時、アッシャーがふと思い出したように言った。
「冒険者をするときの名前はどうするんだ?彼女は流石に本名というわけにはいかないだろう。それに学園で使う属性は何にするんだ?」
そう言えば肝心なことを決めていなかった。一斉にみんなの視線がカノンに集まった。
(名前かぁ・・・)
カノンは悩んだ末、ローブを着た時の髪色にちなんで「ソラ」と名乗ることに決めた。そして学園で使う属性はカレリアに相談し、使い勝手がよい「風と水」にすることにした。
「ソラか。いい名前だ」
カノンは挨拶のために脱いでいたローブを着て「ソラ」になると、まだちょっと怒ってるアドルフに別室に連れていかれ、収納の中身を取り出した。そしてそのまま、楽しそうなフランツに付き添われて冒険者登録を行うために一階に降りたのだ。
「冒険者カードは明日出来上がりますので、お手数ですがお昼以降にこちらに受け取りに来てくださいね」
冒険者登録の書類を提出すると、受付のお姉さんに笑顔でそう言われた。
その後、盗賊のアジトを壊滅させた分と生け捕りにした盗賊捕獲の褒賞金を貰う手続きをした。これは騎士団により集落の跡地と盗賊の壊滅が確認された後、冒険者カードを作成すると自動で開設されるという口座に振り込んでもらえるとのことだった。
盗品に関しては先に説明を受けたように持ち主が希望すれば返却され、現金化された後に振り込まれるためまだ先になるとのことだった。勿論馬車を襲った盗賊の討伐褒賞金については長距離馬車の護衛をしていた冒険者たちも権利がある。
──それは、いいのだ。
カノンはさり気なく周囲を見渡した。さっきから何故か周囲の人に睨まれまくっているのだ。
思わず外していたフードを被った。
冒険者ギルドでは個人の冒険者ランクの決定などに不平不満やトラブルが起きないよう、誰がどのような魔獣を倒したのか、どのような依頼をこなしたのかなどの情報はオープンとなっている。
それを受け取るだけの実力があるという証明なのだからと、報酬の話も声を潜めたりしないそうなのだが、みんな聞き耳を立てているのか盗賊討伐の報酬受け取りに話が及んだ時にはざわめきが起きた。
王都で過ごすなら当面のお小遣いがいるだろうからとフランツやカレリアに言われたし、一応カノンだって盗賊を何人かとボスだって捕まえた。盗賊討伐のお手伝いをしたのだから、その報酬を受け取ってもいいかなと思ったのだ。
しかし、フードの中から覗くと、何処を見ても険しい表情の冒険者たちの視線とぶつかる。
カノンは今、転生者・ハイにより気分は無敵だ。しかし睨み付けてくる冒険者の中には女性や強面の冒険者もいる。今回の人生はまだ十六年で、今回王都に出てくるまでは人に睨まれた経験など無いのだ。理由が分からない悪意は普通に怖い。
そこまで考えて、カノンは閃いた。
(あ!これってばもしかして転生冒険者が登録の時に高頻度で絡まれるっていうやつ?)
今世のカノンとしては「怖い」と思いつつも、まだまだ魔法を試したいし、新鮮な異世界体験にワクワクしている転生者としてのカノンにとって、あまり激しいのは遠慮したいけど、異世界定番イベントは内心ウェルカムであった。
しかし『暁の庇護者』の目があったためか、その日カノンが絡まれることはなかった。
翌日、『暁の庇護者』は依頼が入り王都を離れた。最後まで心配していたエイシスを笑顔で見送ると、カノンはギルドで冒険者カードを受け取るため昼過ぎに宿を出た。
遠方から試験を受けにやってくる貴族子女の宿泊先は、学園指定の宿であるため周辺の治安はよい。その為カノンは途中人通りの少ない道に入ると呪文?を唱えた。
「変身!」
すると、どこからか昨日カレリアに貰ったローブが現れ、カノンは瞬時に『冒険者ソラ』へと変化した。
──何ということはない。収納の中から取り出す際にローブを着た状態をイメージしたため、取り出すと同時に着用、魔道具の効果が現れただけである。
ちなみに「変身」する魔法少女は沢山いるが、変身に時間を掛けるわけにはいかないため、よく昔のアニメや特撮の番組で目にしていたヤッター○○風、または初代ライ○ー風の衣装チェンジを採用することにした。
昨日はじめて『収納』を使った際に、カノンはちゃんと入っているかを確かめるために一度盗品の出し入れをした。その際魔法回数の消費がなかったことを思い出し、昨日の残り四回分で実験を行ったのだ。
その結果、開いた時の魔法一回分で中身が入っている限り何度でも使用できるということが分かった。日にちを跨いだ今も魔法回数の消費は見られなかった為、何かを入れっぱなしにしておけば継続して使えるということになる。(何故魔法の消費回数が分かるのかと言うと何となくなので深くは聞かないで欲しい)。
ちなみにこの『収納』。時間経過は無く、実験の結果、生き物もOKの様だった。容量が無限かどうかは分からないが、家具などを入れて試した結果いっぱいにはならなかったので、それなりに入るのだと思う。
なんて便利!!
さて、空色の髪と瞳の『冒険者ソラ』になったカノンだが、元々貴族をはじめこの世界の人々の髪色はカラフルだ。そのため、下手に目立つことはない。
おまけに王都では今、毛染めポーションが流行っているとのことで、本当に様々な髪色の人が歩いているのだ。
その毛染めポーションについてフランツとカレリアと話をした時のことだ。
気軽に髪色を変えられる毛染めポーションがあるのであれば、髪色を変えてもカノン=ソラだとすぐにバレる可能性があるのではないかと聞いてみたのだ。折角の転生特典だ。思う存分魔法を使いたいが、バレてしまうと色々動きにくい。
「ポーションはね、髪色は変えられるけど瞳の色は変えられないんだ。だからバレる可能性は少ないと思うよ。変身魔道具は市場に出回らないから持っている人はほぼいないしね。でも無いわけではないから気を付けてね。
ちなみにポーションはそれなりに値段もするし、元に戻すのにイチイチ解毒剤を飲まなければいけないから面倒くさくて冒険者で使っている奴はいないよ。ま、裕福な平民のオシャレアイテムや貴族の夜遊び用の変装アイテムってところかな」
「・・・げ、解毒剤・・・?」
カノンは『解毒剤』という言葉に驚いた。
そもそもポーションとは状態異常を引き起こすものである。その中には毛染めの他に毒物や媚薬などがあり、そのポーションの効果を解除する専用のポーションのことを一律『解毒剤』と呼ぶのだそうだ。
ポーション販売の際は必ず「解毒剤」をセットで販売しなければならないし、購入しなければならないという決まりもあるらしい。
その事を知らない人に、時々セットではなく別売りにして高く売りつけようとする人がいるから注意するようにとフランツから言われた。状態異常のポーションなど買う予定はないが、取り敢えずカノンは知識として心に留め置くことにした。
「あ、ここだ」
そんなことを考えていたらいつの間にか冒険者ギルドに到着してしまった。
扉を開けて中に入る。昼間の冒険者ギルドといえば、皆出払っていて空いているイメージだったがそんなことはないらしい。中には結構人がいた。
「・・・」
話しかけてきたり難癖をつけてきたりする人はいないが、昨日同様ものすごく睨まれている。これは昨日『暁の庇護者』と一緒にいたところを見ていた人たちだろうか。
これはさっさと用を済ませて退散するに限るなと、ソラは昨日と同じ窓口に向かった。
「あの、昨日登録手続きをしていただいた者ですが──」
周囲からの視線に気付かないふりをして受付に声をかけると、ちょうど昨日『ソラ』の冒険者登録を担当してくれた受付嬢──ニーナさんという名前らしい──が居たためすぐに対応してもらえた。
ソラの冒険者カードがはめ込まれた魔道具に魔力を流し個人の登録をした後、ソラは冒険者カードを受け取った。
「はい。こちらがソラさんの冒険者カードです。ランクは『E』です。本来ならGからになるのですが、ソラさんは『暁の庇護者』メンバー全員の推薦がありましたのでこのランクからのスタートが認められました!」
冒険者ランクの飛び級スタートの宣言に、それまであった喧騒が一気に止み、ギルド内に静寂が訪れた。
「わぁ~。これが本物の冒険者カード!!」
これまでもファンタジー系の物語を読みながら何度も脳内で受け取って来た冒険者カード。それをリアルで手にした感動に、周囲のことも忘れてソラのテンションは爆上がりした。
「冒険者制度の詳しい内容はこの冊子をお読みください。わからないことがあればお答えしますのでいつでもお声掛けくださいね」
「はい。よろしくお願いします!」
笑顔のニーナさんから冊子を受け取ったソラは、バッグに入れるふりをして『収納』した。
そして宿に戻って少しでも入学試験の勉強をしようと振り返った途端、ガタイのいい三人の男がソラの前に立ちふさがったのだ。
「カードを受け取ったな!これでお前も冒険者だ」
男たちの圧にカノンは思わず後退ったが、受付のカウンターに背中が当たり、下がることが出来なかった。




