10 冒険者やります!
周りはすっかりカノンが冒険者をすることを前提に話を進めているが、ただ一人、エイシスだけが否定した。
「──僕は彼女が冒険者をすることは反対だ」
カノンは頑張っても頭に入ってこない知識や、十六才を過ぎても発現しない魔法に昨日まで──いや、今日の午前中まで人生を諦めていた。
しかし回数制限はあるものの、魔法が使える今ならやりたかったことが出来るのだ。一気に増えた人生の選択肢にカノンは今やりたいことがありすぎて、逆に冒険者になることを決めかねていた。
そもそもカノンは一般教養だけでなく運動も苦手なのだ。
盗賊の件ではつい暴走してしまった自覚はあるが、冒険者と言えば魔獣相手とはいえ殺生が付き物。昨日まで極々一般的な貴族令嬢だった自分にいきなり冒険者が務まるとは思えなかった。
「あの、わたし、冒険者をする自信なんてないんですけど・・・」
盗賊の集落を半壊しておいて何を言っているんだと一同は思ったが、それとこれが別であることも皆よくわかっていた。
「──まぁ、どのみちそんな特殊な魔法なら報告は必要だ。実際に活動するかは別として、おそらく冒険者登録の方で話が進むだろう」
全ての属性魔法はともかく、全ての特殊魔法が使える人間は貴重だ。王家の管理(監視?)下に置くためにも冒険者登録の必要があるのだという。
(えええ~)
カノンは諦めていたはずの『婚約・結婚』という選択肢だって見えてきた今、正直、冒険よりも『勉強に恋に友情に。楽しい魔法学園ライフ!』の方に興味がある。そういうお年頃だ。
しかしそんなカノンの考えが透けて見えたのか、フランツがカノンの顔を覗き込んで言った。
「ねぇカノンちゃん。学生生活ってね、意外とお金かかるんだよ。冒険者になってお小遣い稼ぎたくない?生活費は寮があるから大丈夫だろうけど、かわいい文具や小物、友達とスイーツなんかも食べたいよね?王都には美味しいケーキ屋さん、沢山あるよ」
ただ、王都の物価って高いんだよね、と続くフランツの言葉にカノンはハッとしてカレリアを見た。そして大きく頷くカレリアを見て、カノン・クライスラー 十六才は、瞬時に心を決めた。
運動が苦手でもあの魔法があれば、なんとかなるかもしれない。そうだ。前世で読んできた物語の主人公たちも何とかなっていたではないか。要は慣れだ!
「わかりました。わたし冒険者やります!──ギルマスさん!いつからはじめればいいですか!?」
一転やる気を見せ、握りこぶしを作りアドルフに詰め寄るカノンに、エイシスは頭を抱えた。
「ゴホン! 学園生の冒険者活動は表向き禁止となっているが、そもそも入学前から登録して活動している者もいるからな。登録自体は禁止されていない。
そして活動だが、『特例』で一定以上の強さの学生冒険者に限りその活動は、周囲には秘密だが認められている。そしてそのことは有事に備え、国王と王太子、そして王弟である学園長のみに共有される。本来なら実力の確認が必要なんだが今回は『暁の庇護者』の推薦があることとその魔法の特殊性から問題ないだろうとは思う・・・が、何かしらの形で確認はさせてもらうことになるだろう。
それにやる気になったところ申し訳ないが、国王陛下たちへの報告は直ぐに出来ても許可が出るには時間が必要だ。だから登録は出来ても活動自体はもう少し先だな。今は明後日の入学試験に集中すればいい。
エイシスが心配するのも分かるが学園の授業がある日は活動自体が出来ない。他人に魔法の制限を知られるのはリスクになるからソロ活動となるだろうし、初心者だから本人にやる気があっても難易度の高い依頼は受けることはできないから安心しろ。回復魔法が使えるようだし、怪我の心配はあまりしなくて良いだろう」
アドルフはそう話をまとめた。
「あ、そういえば盗賊の集落で回収した盗品をカノンちゃんに預かってもらっているよね。収納ならギルマスに見せることが出来るんじゃないか?」
ポンと手を叩き、フランツが思い出したようにそう言ってカノンを見た。
そうだ。収納の中に入れている盗品を引き取って貰わなければ・・・。フランツに言われるまでカノンはすっかり忘れていた。
危ない危ない。このままでは盗品泥棒になってしまうところだった。あの盗賊たちのように拘束され、走らされては敵わない。
カノンは今夜夢に出てきそうなあの光景を思い出して慌てた。
「あ、そうだ!すっかり忘れていました!決して横領の意図はありませんでしたので、今すぐお返しいたします!」
「え、いや──」
「出ろっ」
ガラガラガラ──!
その瞬間、ギルマスの部屋中に大量の盗品が姿を現した。
一度に出したため、文字通り山のように積み上げられた。アドルフとエイシスたちは軽いフットワークで椅子から立ち上がり避けたが、一番上に出現した抜き身の剣がバランスを崩し、勢いよくアドルフの方へ落ちてきた。
「おぅわっ!!!」
奇声と共にアドルフが足を引いて避ける。
「わぉ。流石ギルマス!」
足先スレスレ、床に突き立った剣を見てカノンが感嘆の声を漏らした。




