5話 初デート
次の日、目を覚ますと外は昨日のことが嘘のように快晴だった。
期待していたかと聞かれればはいと答えざるを得ない、学校が休みであるという希望がついえたように感じて少し落胆する。
これじゃあ、智樹のことを笑えないな。
リビングに行くと僕よりも早く起床していた母さんと莉緒が「おはよう」と言ってくれる。
「そうだ、やっぱり今日学校休みらしいよ!」
おはようと返す前に莉緒が口を開く。
「え?でも外こんなに晴れてるのになんで?」
「いや、昨日言ったじゃん。近くの川の端が落ちたって。水位もまだ高いままだし、今日が休みになったら土日をはさむから念のため今日は様子を見るらしいよ」
「やったね!」
ガッツポーズをとると母さんと莉緒が不思議そうな顔をする。
「でも、亜樹は今年受験生だから遊んだりしてたらダメよ」
「ん?ああ、もちろん分かっとるよ。でも、学校がないこと自体がうれしくって」
「亜樹ってそんなに学校嫌いだっけ?」
「いいや。別に友達も結構居るし嫌いな奴もとくにおらんし、嫌いなことはないよ。むしろ好きなくらい」
「じゃあ、なんでそんなに喜んでるの?」
「いや、普段は必ず行かなくてはいけないことを今日一日だけ特別に免除される。これがいいんじゃないか」
その日はかなり受験生らしい一日を過ごすことが出来ていたと思う。
バカが一人前の大学に行こうと思ったら人並みならぬ努力をしなければならないのだ。
そして土曜日、今日は昼から優衣さんと食事に行く約束をしている。
あれから何度か連絡も取ってどこのレストランなのかもそれからどうするかなどもきちんと把握することが出来ている。
やはり人とのコミュニケーションにおいて報連相とは最も重要なことの一つだ。
財布を持ち、約束の時間の一時間前に到着することが出来るような時間に家を出る。
今日が楽しみ過ぎて昨日は碌に寝ることが出来なかったし、朝も勉強に集中が出来なさ過ぎて早めに家を出てしまった。
興奮しすぎて昨日僕が寝た時間は実質四時間といったところだろうか?
ショートスリーパーというわけでもない僕にとってこの睡眠時間は少々体にこたえるものがある。
大型ショッピングモールにはよくソファーといった休むことが出来る場所がある。
集合場所の最も近くにあった休憩所で少し睡眠をとる。
思っていたよりも眠気が強かったのか、三十秒も経たないうちに昼寝をすることが出来た。
***
「――亜樹さん、亜樹さん、お疲れですか?そろそろ予約の時間ですので起きてください」
肩を揺さぶられたと思うと聞き覚えのある美声が耳に入ってくる。
少しまどろみながら少しずつ目を開いていくと不思議と自分に視線が集まっているように感じる。
「あ……優衣ぴょん」
「……その……さすがに優衣ぴょんはやめてください」
少し困ったような表情で優衣さんが話す。
そこで意識が覚醒する。
相も変わらずすごい美人だ。
動きやすそうなホットパンツに流行っているのか最近外に出ると見かけることがある服を着ている。
着る人によってここまで服の輝きは変ってくるのかと関心を覚える。
荷物は少し大きめのリュックとウエストポーチを身に着けている。
中に参考書でも入っているのだろうか?
「すみません無意識で……」
「どうして無意識で優衣ぴょんと呼ぶのかは分かりませんが、そろそろ予約していた時間ですので行きましょう。お疲れですか?」
目をこすりながら立ち上がろうとするが、足元がおぼつかず少しふらつく。
「いえ、昨日の夜あまり眠ることが出来なかったので……今日が楽しみで……」
優衣さんに手を取ってもらい、三半規管が安定するまで一緒に歩いてもらう。
「すみません……助けて頂いてばかりで」
「いえ、これも私の役割でありますので助けることが出来て良かったです」
十秒も経たないうちに体勢が安定して一人で歩けるようになった。
手を握ってもらって、その柔らかい手を離すことになるのは少し惜しい気がするが、これ以上迷惑をかけることの方が僕にとって苦痛だったのであきらめる。
仮眠をとっていたソファーは運よく予約していたレストランの近くだった。
おかげで、予約していた時間よりも少しだけ早く着けた。
僕たちが選んだのは個室も備えてあるイタリアンレストランだ。
優衣さん曰く、あまり人前ですることが出来ない話らしい。
それで個室のある店を選んだわけだが……隣の声、丸聞こえじゃないか。
機密も何もあったもんじゃないな。
注文を終え、しばらく待っていると次々と料理が運ばれてくる。
大きなお皿にいっぱいのサラダにイタリアンレストランとはいってもそこまで厳密ではないのかスペイン料理のアヒージョ、ピザにパスタ。
次々と運ばれてくる料理はとてもおいしそうで大食漢の僕の口には唾液があふれかえっていた。
「それじゃあ、とりあえずいただきましょうか」
「ええ、いただきます」
家族の前以外で食べ物にがっつくのは少々恥じらいを覚えるので出来るだけ腹にたまるものを厳選して、口に運ぶ。
意識してテーブルマナーを守っている僕とは異なり、優衣さんの食事の仕草はとても優雅で住む世界の違いを感じさせた。
とはいえ、きっと優衣さんも最低限のくちゃくちゃ音をたてたりするようなことをしない限り不快に感じたりすることは無いだろう……きっと。
「それで……私が話したかったことですが……」
「ええ、僕の怪力についてのことですよね」
「直球に言いますが、あなたの存在は危険です。ですので、私はあなたの行動を制限しなくてはならない」
優衣さんはそういいながら目の前に一枚の紙をかざす。
「……これは?」
かざされた紙を手に取りながら、感じて当然の質問をする。
「あなたがこれからとれる選択肢です」
手に取った紙を受け取り内容を精査してみると次のことが分かった。
僕がこれからとれる行動は二つあるらしい。
一つ目は、常に監視をつけられながらこれまで通りの生活を送る。(プライベートは保証されない)
二つ目は、政府の機関に所属し、能力を行使しながら治安維持に努める。(命の保証はなく、報酬は出る)
異能があると発覚した時点でその人にはこれまで通りの生活を送らせることは出来ないらしい。
それは少し納得だ。
普通の人にはない能力を持つ時点で治安維持の面では脅威しかない。
僕のような力をもし倫理観のない人が行使したとすると力尽きるまでにいったいどれほどの命が奪われてしまうだろうか想像がつかない。
僕だって後ろ暗い過去がないわけでもないのだ。
「あなたは自分の命を顧みずにあの子供の命を助けようとしていました。倫理観に問題がないことは分かっていますが、これも規則ですのでどちらかを選んでいただく必要があります」
正直驚いている。
驚いているが、僕も何となくいつかこの日が来るかもしれないことは分かっていた。
この世界で僕だけが特別力を持ってるなんてとても考えることが出来ない。
そして、そんな人たちが集まった組織があるはずだと中学二年生辺りのころ毎日考えていた。
「治安維持とは具体的にどんなことをするんですか?」
「早速それですか?ええ、犯罪行動に走っている他の能力者の捕縛に以前のような災害が起こった際の人命救助、そして一番重要なのは宇宙怪獣退治です」
優衣さんがとんでもないことを言う。
「宇宙怪獣退治?」
僕も今日に備えて変な反応をしないようにと様々なシミュレーションをしてきたが、僕の常識には当てはまらな過ぎて想像すらしてなかった地球外生命体の存在を仄めかされるとは。
「ええ……この世界に人知れず表れて猛威を振るう「スターダスト」――宇宙からの怪物を退治することです」
「う、宇宙怪獣……退治?」
からかわれているのかと一瞬、疑う。
いくら何でも宇宙怪獣はないでしょ。
だが、その表情は信じられない僕を見透かしたようで、そのうえで僕を説得してきた。
何とも言えぬ表情で返事を少し考えこむ。
その時、優衣さんの胸元のバッジから短い電子音が鳴った。
同時に彼女の表情が険しく歪む。
「……噂をすれば………ごめんなさい。来たみたい」
「来たって……何が!」
「スターダスト」




