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23話 隠れ家

 テレビの正面右に備え付けられていたハンモックから顔を出した少女が僕たちに向かって挨拶をする。

 インターフォンではどっちかわからなかったけど、まさか女の子だったとは。

 僕たちの浪漫をここまで理解できるとは……末恐ろしい子だ。

 あれ?

 なぜか、肩で息をしてる。

 インターフォンの応対をした後にすぐにハンモックに上ったのかな?


 かなり運動不足のようだ。


「西山さん、彼が今日予約してた亜樹です」


 優衣ぴょんが僕を紹介してくれる。

 優衣ぴょんの紹介を受けて西山さんがハンモックから降りて僕の近くにやってくる。

 僕の想像してた壮齢のおじいちゃんとは似ても似つかない、華奢なかわいらしい女の子がそこにいた。


「西山佳那だ。よろしく」


 手を差し出してきたので、女の子らしいとは思えないその口調に戸惑いながらも握手をする。


「ふん……お前が一橋家の一番星が選んだ男か。確かに悪くない」


 なんだか、横柄な子だなぁ。

 別に腹は立ったりしないけど、戸惑いはする。

 西山佳那さんからお褒めの言葉を預かると優衣ぴょんは少し誇らしげにしていた。


「亜樹はまだまだ発展途上ですけど、強くなりますよ。今は無理して予約しましたけど、すぐにオレンジコスモスに成れると思うので、西山さんも覚えておいてください」

「優衣の紹介するような奴を忘れるはずがないだろ。それにこいつ自身のポテンシャルくらい見ればわかる」


 優衣ぴょんは確かに誰に対しても礼儀正しいけど、ここまでわざわざ下手に出るような人でもないし、本当にどうしたんだろ?


「じゃあ、佳那ちゃん僕の専用武器ってやつをお願いできるかな?」


 別にした手に出るのが嫌いだからとか、そういうわけじゃないけど、何となく気になったから僕はできるだけフレンドリーに肩に手を置いて話した。


「なんだ?すぐに本題に入るとは……そんなに急がなくてもいいだろ?」


 西山さんは僕の行動を特に咎めたりはしなかったが、いきなり本題に入ろうとしたこと自体に不満があるようだ。


「ごめんなさい西山さん。亜樹と私は今年受験生で、勉強の合間を縫ってきたのですぐにでも戻りたいみたいなんです」

「……そっか」


 ゆいぴょんがフォローしてくれたが西山さんは少し寂しそうにしてた。


「ねぇ、優衣ぴょん。なんでそんなに西山さんに対して下手に出てるの?」


 優衣ぴょんに対して小声で話しかけてみた。


「特に理由があるわけじゃないんだけどね、佳那ちゃんの一族には私の一族は親子代々お世話になってきてるっていうのもあるけど、佳那ちゃんって国指定の重要人物だから信用できる人としか接することが許されなくて、寂しい思いをして育ってきてるらしいから少しでも持ち上げてあげようとしてるだけだよ」


 僕がいるから佳那ちゃんが話しやすいようにいつもより下手に出てるけど、普段はもっとフランクに話してるらしい。

 そう思うとこの横柄な態度も少しかわいらしいもののように感じられるようになった。


「じゃあ、さっそく武器を作る部屋に案内するからついて来い」


 佳那ちゃんが僕たちに背を向けると何もない壁に向かって顔をかざした。

 すると佳那ちゃんの目の前の壁が突然割れて扉となった。


「……すごいサイバー感だ」


 ここは子供の夢が詰まってる。

 あの壁だって扉の切れ目一つ見当たらなかったのにどういう仕組みなんだろ?

 案内されるがままについていくといくつかの部屋を超えた先に僕の思い描いていた工房があった。


「ここで亜樹の専用武器の苗を作る。この中から好きな種を選べばいいよ」


 佳那ちゃんが指さす先には年度のようなボールのようなものが箱に山積みにされて置いてあった。

 苗やら種やらよくわからない単語が聞こえたが、ここは気にせず従っておこう。


「えーと……じゃあ、これで」


 優衣ぴょんが口出ししてくるわけでもないし、これはそこまで重要な工程ではないのだろう。

 特に悩まずにパッと目が付いたものを手に取る。


「専用武器を作るにしても、専用武器についてどれくらい理解してるんだ?」

「えーと、専用な武器ってこと?」

「よし、よくわかった。優衣、教えておけよ」

「私もどんな原理で作られてるか全くわかってないし、ここは作る本人に教えてもらった方が勘違いが少なくていいでしょ?」


 僕の知識不足を嘆いていることはわかった。


「まぁいいや。専用武器っていうのは亜樹の認識通り、専用の武器でそれ以上でも、それ以下でもない。お前が選んだ専用武器の種にお前の血と肉を混ぜてこね続ければ完成する」


 うーん、訳が分からない。


「納得いかないか?安心しろ。我もそうすれば強力な武器ができるってことを知ってるだけで、原理はなんもわからん」


 見た目で判断することになるが、中学生くらいの少女が超常現象を欠片でも理解してたら僕もびっくりしちゃうな。

 僕だって自分の力の使い方を知ってるだけで、なんで使えるとか全く理解できてないし。


「じゃあ、採血と肉を抉り取るぞ。腕を出せ」


 佳那ちゃんが手をパンパンと叩くと、僕の想像通りだった工房に違和感の塊である手術台のようなものが突然出てきた。


「この隠れ家はいったいどうなってるんだ?」


 優衣ぴょんが僕の両肩を掴んで椅子に案内してくるので、よくわからないが抵抗せずに椅子に座っておく。

 左腕を差し出すと血液が止まるんじゃないかというほど強く固定される。


「こんなことしないでも逃げないよ。僕だってこれまで何度も大怪我をしてるんだし」


 僕は微笑みながら腕の力を抜いて無抵抗をアピールする。


「いい心がけじゃないか。優衣が見込んだ男、肝が据わってるな」


 佳那ちゃんが再度、手をパンパンと叩くと今度は床からチェーンソーとアイスを掬うときに使うようなお玉が出てきた。

これから注射を打つぐらいの感覚でいた僕は予想外の道具に頬が引きつる。


「じゃあ、動くなよ。まぁ、一橋が見込んだ男ならこの程度全く問題ないか」


 体中の全エネルギーを集めて全力で抵抗しようとしていた僕も優衣ぴょんの名前を出されてしまったら情けない姿を見せるわけにはいかなくなる。

 ギュイーン!とチェーンソーがなり始め、優衣ぴょんの方に救いを求めて視線を送ると気まずそうに微笑んだ。

 畜生。

 けたたましい音を立てるチェーンソーを持つ佳那ちゃんは僕の反応を楽しむように耳横にチェーンソーを持ってきたり、腕に掠るくらいに近づけたりする。

 この子、ドSだ。

 優衣ぴょんも苦笑いをしてる。

 もしかして経験あるのかな?


 もし、優衣ぴょんに対してもやってたとしたら佳那ちゃんという子は僕が思ってた以上に大物なのかもしれない。

 必死に無表情を保っている僕の耳をふさぐように後ろに立っていた優衣ぴょんの手が添えられる。

 けたたましいチェーンソーの音が小さくなることで体中の強張っていた僕の筋肉が弛緩するのがわかった。

 背中に感じる優衣ぴょんの気配に安心しながら僕は目を閉じる。

 『つまらん』とかすかに聞こえたような気がしたが僕は気にしないようにしておく。

 ここ最近、頻繁に大怪我を負ってたせいなのか確かに激しく痛みはしたものの小さいころに受けた注射のような感覚で僕の腕の肉は抉り取られ、生々しい傷口からあふれ出す血液は準備されてあった容器に回収されていった。



「これ、本当に専用武器を作ってる人みんなにやってるの?」


 抉り取られた肉の部分に大量の止血剤と傷一つなく再生させることができるらしい軟膏を塗りだくって包帯で傷口を覆う。

 収穫された血と肉を見てみるとなんだか吐き気がしてくるので見ないようにしておこう。


「やってる人とやってない人がいるって感じかな?別に血の代わりに唾液でもいいし、肉の代わりに髪の毛とかでも代用できるからむしろそっちの方が多いよ」


 佳那ちゃんに対して質問したつもりだったのに代わりに優衣ぴょんが答えてくれる。

 一発殴ってもいいかな?


「唾液とか、髪の毛とかそんなものから作る専用武器にお前は魅力を感じるのか?」


 僕が目を細めて佳那ちゃんを見ていると悪びれもせずにそんなことを言われた。

 そんなに堂々とされてしまっては僕も何も言えなくなってしまう。

 そんな僕の様子を尻目に佳那ちゃんは僕の血液を粘土のような専用武器の種に混ぜ、こねている。


「専用武器は一人につき一つというわけではない。専用の戦闘着、専用の武器に防具、専用武器は用途に合わせて二つもつ奴も多い」


 専用武器を壊す馬鹿もいるからそのせいで武器職人は大忙しだと付け加える。


「専用武器というのは育てるもの。使い込めば使い込むだけ強くなる」


 しばらくこね続けていると特に形を整えてたわけでもないのにブレスレットの形に整えられる。

 ブレスレットの形に整えられると、今度は僕の腕からちぎり取った僕の肉に注射のようなものを差し込む。

 すると僕の皮膚がどろどろとした液体となって、溶けてしまった。

 その溶けた液体にもう一つ、年度のような専用武器の種を取り出し、先ほどと同じように混ぜ込む。


「このブレスレットと指輪がお前の専用武器だ。種から苗に育ったが、これからどの様な武器になるかはお前次第。せいぜい強い武器にするために常日頃から身に着けておくことだ」


 僕の足元に放り投げるようにして指輪とブレスレットを僕に渡してくる。


「こんなものを作ってて言うのもあれだが、この専用武器が完成しないことを祈ってる」


 てっきり佳那ちゃんは自分が作った専用武器を誇りを持っている者と思っていたけど、放り投げてしまうくらいの嫌悪感を抱いているようだ。

 実際、佳那ちゃんの専用武器に対する視線は忌々しいものを見る目つきだった。

 僕にブレスレットと指輪を渡すと佳那ちゃんは最初の部屋に戻ってしまった。


「なんだか悪いことしちゃったかな?」


 僕には佳那ちゃんの視線の意図なんて理解できない。

 あんな視線を自分の作ったものに向けるんだ。

それ相応の理由があるのだろう。


「まぁ、佳那ちゃんもただ何も考えずに武器だけ作ってるってわけじゃなくて、隔離されながらも人一倍悩みながら生きてる人間ってことだよ。亜樹が苦しめたわけじゃない」


 佳那ちゃんの武器が佳那ちゃん自身の自由を奪うから、自分を縛る鎖として認識してしまってるのかな?


「佳那ちゃんってこれまで仕事上の付き合いばかりでしか人と接してなかったからね。受験が終わったらまたきて、今度はたくさん話をさせてもらおうよ」


 僕のつぶやきに優衣ぴょんが反応してくれる。

 優衣ぴょんは僕に対する理解度がすごい。

 足元に落ちてある佳那ちゃんが作ってくれたペンダントと指輪を披露。

 どちらも銀色のもので、花の彫刻が施してある。

 形を見るにおそらくコスモスだろう。

 佳那ちゃんの部屋を見るに佳那ちゃんのセンスはすごくいいのだろう。

 このブレスレットと指輪はお金持ちの人が持ってても違和感がないくらいかっこいい代物だった。


「いいものをもらったね」


 そういいながら優衣ぴょんに見せびらかす。

 そろそろ僕にも優衣ぴょんの専用武器を見せてくれないかな?

 この前、デカラビアと戦った時は専用武器を使ってたのかな?

 意識がもうろうとしててはっきりとは思い出せないからなおさら気になってしまう。


「ふふっ。私の専用武器と同じ形だね」


 そういいながら左腕につけたブレスレットと右手につけた指輪を見せてくれる。


「あ、本当だ。模様まで同じ」


「佳那ちゃん、きっと気を利かせて同じ模様にしてくれたんだよ。チームだからね」


 不遜な物言いが目立つ子だったけど、きっと根はいい子なのだろう。


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