22話 干渉力
そんなことを考えてるのは表情に出さず、優衣ぴょんの指示通り走り進めていくと結構栄えてくはずのぴちぴち県でも辺境の方、田舎の方にたどり着いた。
こんなところに住んでるなんて……
僕は勝手に気難しいお爺さんを想像してた。
「えーっとね、ここら辺にコスモスが所有してる隠れ家があるはずなんだよ…………もうちょっと迂回する感じで進んでもらったら、そこそこ!」
優衣ぴょんが僕の肩をバシバシたたきながら指をさした方向には一見何の変哲もない山の一部が映っていたが、目を凝らして違和感を探ってみるとなんだか、一部、人工的な盛り上がりを見つけることができた。
さすがに身体能力をあげた僕の動きをサポートすることができている僕のこの目をごまかすことはできない。
「ああ、僕も見つけたよ」
そういいながら見つけた違和感のある場所に着地する。
もちろん、優衣ぴょんの負担を小さくするために考慮して少しずつ減速した。
「ここでしょ?」
自慢げに少しだけ胸を張る。
「いや、ちょっとだけずれてるね。噂だとここに最初は隠れ家を作ろうとしてたらしいんだけど、日当たりがよくないからって理由で却下されたらしいよ」
どうやら、僕が見つけた人工的な盛り上がりというのは掘り起こしたものの場所を変えるので放置されたただの跡だったらしい。
「まぁ、近いから歩いて行こうよ」
優衣ぴょんは入り口がすでにどこかわかっているのか、迷いのない足取りで道なき山道を進んでいく。
「そういえば亜樹って『干渉力』って何のことか知ってるんだっけ?」
「干渉力?物理で聞いたことがある気がするけど……あってる?」
僕の得意科目の物理だと光の干渉とかいろいろ心当たりのある言葉ではあるけど……
「いや、違うよ。私たちの能力の話」
「じゃあ、それは聞いたことがないや。どういうことなん?」
僕たちが普段から親しんでいる山というのは植林がほとんどだからか、わざわざ秘密基地にしているのである程度手を加えているはずのこの山にも全く違和感を感じない。
「干渉力っていうのはね。言葉通り、私たちの能力が相手に干渉することができる力のことなんだけどね、その能力の効果にもね制限があるのよ。例えば私が無機物の重力を百倍にしようとしたらそれ相応の力が必要になってくるのはわかるでしょ?」
「重力を変化させるのってそんなに大変なことなの?」
「いや。極端に重量をあげるのには苦労もしたりするけど、軽く変化させるくらいなら寝ぼけてうっかりやっちゃうこともあるくらいだよ」
怖い。
「私のことを知らない人、私に興味がない人の重力を変化させようとしたらそれには無機物の重量を変化させる以上の労力が必要になるの。その理由は人って自分の体は自分のものっていう実感はなくてもそういう風に考えるものでしょ?自分のものを自分のものの様にして扱うものでしょ?それを私たちは干渉力って呼んでるの」
「へぇー。そーなんだ」
「あんまり興味なさそうだね」
「そんなことはないよ。僕にはわからない感覚だったからどう反応すればいいかわからなかっただけだよ」
「まぁ、いいけど、意外と大切な話だから適当に話させてもらうよ。その干渉力っていうのは、その本人の強さがカギになってて、強ければ強いほど、私は相手に対して重力を強くかけることが難しくなるの。それはスターダストに対しても同じことだね」
「じゃあ、災害危険レベルB以上のスターダストが来たら優衣ぴょんのサポートにも制限がかかったりするってこと?」
「災害危険レベルBくらいなら私の能力は問題なく通じるけど、Aになってくるとないものとして扱ってくれた方が安全かもね」
人の手が加えられている様子はなんとなくわかるけど、夏休みのど真ん中の時期の森には大量の虫が湧いていた。
ゴキブリの幼虫からムカデが犇めく中、歩みを進めていくというのは僕が思ってた以上にストレスがかかるようだ。
前を歩いてくれている優衣ぴょんにとってもそれは変わらないだろう。
なのにそんな様子を見せずに気丈に進んでいる。
「強さと同じくらい干渉力には重要な要素があるの。それは術者、私に関する好感度でね。控えめに言うと、私に対する好感度が低ければ低いほど、私の能力は段違いでかかりにくくなるの。もちろん、力に差があれば簡単にねじ伏せられるし、力はかかりにくくなるけど、大した問題にはならない。重要なのは好感度が高ければ高いほど、逆に、力は効率よくかかるのよ。私が亜樹に普段からかけてる重量なんて一般人だったら自重につぶれて死ぬレベルのものだしね」
なるほど、いくら僕が災害危険レベルBのデカラビアに負けたとはいえ、僕も事前情報があればもっと戦いようがあると思っている。
僕に毎度毎度動きを阻害するくらい強い重量をかけられるわけだ。
「僕にあれだけ強い重力がかけられるのは僕が弱いかあらとか言われたら僕も心が折れるところだったよ」
僕ってこう見えて結構小者だから嫌な事された時は僕が本気になれば指一本でぶち殺してやるのに……とか考えてて、自分の強さはある意味、心の支えだったから。
「こんなことを言うのはあれだけど、初めて亜樹に会ったとき命を助けられてよかったよ。亜樹は結構人から恩を受けたら必要以上に考えちゃうタイプでしょ?」
「命を助けてもらったんだから恩の感じすぎるとか言われることはないと思うけど……」
「ううん。これまでたくさんの人の命を助けてきたけど、亜樹以上に力がかかりやすい人はいなかったよ。だから私は亜樹を仲間に確定することにしたんだから」
「そうだったの⁉」
「いくら能力の相性が良くても、価値観とか性格が合わなかったら見送るべきだしね」
「ゆいぴょんならみんなから好意を集めるだろうし、僕よりゆいぴょんのことが大好きな人なんてたくさんいるものじゃないの?」
「そんな人いなかったよ。私が力をかけてないだけでいるのかもしれないけど、亜樹は特別。愛でも親愛でも信仰でもない変な感じがする気がする」
「確かに、僕、感受性は豊かだって言われるけど……不思議だね」
優衣ぴょんのうしろ姿を見ると胸の奥にざわめきを感じる。
でも、確かにわかることはこの感情は恋ではない、愛だ。
「――ひゃあ!」
ゆいぴょんの後ろを歩いていると頭にクモの巣が引っかかってしまい、うっかりかわいらしい悲鳴を上げてしまった。
……恥ずかしい。
「亜樹、もしも虫型のスターダストが来た時に問題なく戦えるように一応山籠もりもメニューに加えとくよ」
勘弁して。
山道を歩き続けていると思ってたよりも早く目的地にたどり着いたようだ。
優衣ぴょんはあたりを見渡し始めると山の中にあるにはとても違和感を感じざるを得ない崖下に埋め込まれた電子機器を見つけ出した。
僕もゆいぴょんも普段から身に着けているコスモスのバッチを取り出し機械にかざすと電子音声がよくわからないことを話し始めた。
ゆいぴょんは物知り顔で機械を操作している。
なんだかかっこいい。
「じゃあ、ここに入ったら西山さんに会えるから行こうか」
優衣ぴょんがこちら皮を振り向くと崖の様に完璧にカモフラージュされていた土の塊が扉となり人が通れるくらいの通路が見えた。
あたり一帯の森の景色とは異なり、研究所を実際に見たことのない人が思い浮かべそうな研究所の様相でちょっぴりワクワクしてしまう。
手慣れた様子で優衣ぴょんが入っていくので僕も後を追いかける。
「なんだか、思ってたよりもすごいところだね」
「確かに、私も初めてこの施設に来たときはかなり驚いちゃったよ」
「ここで専用武器ってやつを作ってるんだよね」
「まぁ、そうね。専用武器を作る素材を作るところって感じなのかな?」
あれ?
じゃあ、なんでわざわざここまで来る必要があるんだ?
いくつかのセキュリティーらしきものを通り過ぎるとようやく玄関のような生活感のある空間にたどり着いた。
「専用武器を作ることができる人は本当に希少なの。今確認できてるだけでも、世界に十人しかいない。それにね、その十人のうち、六人は明治維新以降に変わったコスモスの対応に不満をもってヤクザに転身した人たちのお抱えの職人になってて、ヤクザの大きな資金源になってるの」
「マジ……ですか」
「この空間は文字通り隠れ家で、貴重な武器職人たちを保護するための空間なの」
この研究所らしき空間は保護?雇われた?武器職人の安全のための避難所で、この隠れ家では災害危険レベルBまでのスターダストの攻撃から耐えることができるらしい。
すごすぎる。
この建物を作ったのも、武器職人の人らしく、なんでも武器職人の西山さんの専用武器という扱いらしい。
災害危険レベルBの攻撃から耐えられるなんて正直凄い。
僕の専用武器がどんなものになるか、楽しみになってきた。
「この奥の部屋に西山さんがいるはずだよ」
ゆいぴょんは除菌室のような通路の先にある金属製の扉を指し、インターフォンを押す。
ピロピロリン!と気の抜けるような音が鳴ると思ってたよりも早く返事が来た。
『はい、西山です』
機械音が少し混ざっているから正確にはわからないが、僕の想像してたおじいちゃんとは違ってかなり若いようだ。
「こんにちは。いつもお世話になっております。一橋優衣です」
「初めまして、橘亜樹です」
優衣ぴょんがあいさつしたので僕もそれに続いてあいさつをする。
「……今日予約してた人ですね。入ってきてください」
一言だけ返事をもらうと目の前の扉が開いた。
ここで靴を脱ぐってことでいいのかな?
優衣ぴょんが僕よりも先に脱いだので僕もそれに倣う。
「……すごい」
扉をこえると少年の時、心の中で思い描いていた浪漫あふれる漢の部屋が存在していた。
代理石をあまり目にしたことがないので正確なことは言えないが、大理石の天井に本棚や、物置はヒノキでそろえられていた。
大量の漫画本にセンスの良いカバン、靴、服、が大量に取り揃えられており、僕がお父さんに買い揃えたものよりも性能のよさそうな椅子の前には何台ものモニターがそろえられている。
ここまで僕の幼心を刺激する部屋とは。
「ようこそ、我が部屋へ」




