21話 専用武器という存在
「かくいう私も西山さんに武器を作ってもらった一人なの。私は付き合いもある程度深いからいろんな面で優遇してもらってるし、亜樹もきっともっと強くなれるよ」
ゆいぴょんってどちらかといえば後衛向きな能力だ。
もともとはサポートメインの戦い方をするつもりだったらしいのに、これまで一人で戦い続けてきたって……やっぱりすごいなぁ。
ゆいぴょんには恩しかないし、少しでも力になりたい。
「西山さんの武器がすごいって言っても使い心地なんて誰が使っても人それぞれだし、そんなに変わるものなの」
「そりゃ、もちろん、使い心地がすごくいいのは確かなんだけどね。専属武器って私、個人に合わせたサポート能力を持ってるのよ。西山さんはそのサポート能力の質がすごくいいの」
「サポート能力⁉」
サポート能力⁉
僕は優衣ぴょんの手前、知ってる前提として装いたかったので頑張って声に出さないように意識はしてるが、思わず漏れそうになった。
莉緒が僕に視線で本当なの?と聞いてきたので、意味深な笑みを浮かべておいた。
僕も聞きたいよ。
こんな能力を持ってる僕が言うのもあれだけど、僕の身の回りの世界はこんなに非科学的な事であふれてたんだ。
僕って、これでも理系選択なわけだし、物理も化学も頑張って勉強しているせいかあんまり現実味が持てないや。
「専属武器を持てば一段階強くなれるよ。それでその申請が通ったから亜樹も今日の午後のトレーニングは無しにして西山さんのところに行くよ」
「え~今日トレーニングないの?」
僕は精一杯、残念そうにつぶやく。
もちろん本音はめっちゃうれしい。
誰が自分から厳しいトレーニングを受けたがるものなのだろうか?
「安心して。明日からは専用武器も使いながらもっと厳しいトレーニングになるから」
ゆいぴょんが僕を励ますようにして言ってくれるが、うれしくない。
「まぁ、しょうがないよね。専属かぁ、いい響きだね」
これは本音だ。
特殊能力を持ってるらしい武器、それも僕専属の武器なんて男として心が躍らずにはいられない。
「西山さんの居場所は機密事項だから申し訳ないけど、莉緒ちゃんはお留守番ね」
「え~。私も専属武器ってやつ欲しかったのに」
「お前はスターダストと戦わないんだから必要ないだろ」
「お兄ちゃんずるい。お兄ちゃんばっかりゆいぴょんさんを独占して。ゆいぴょんさん、お兄ちゃんのことばっかり気にかけてる」
「そりゃ、そうなるだろ。僕たちは友達じゃなくて仲間なんだから。僕だってずっと優衣ぴょんのことを考えてるし」
「いいなぁ、相思相愛で。私はまだ一方通行だよ」
「そんなことないよ。莉緒ちゃん、莉緒ちゃんはまだ短い付き合いだけど、私の妹みたいなものだしね」
「悪いねゆいぴょん。莉緒を妹扱いしていいのは僕だけだから。ここは僕に免じて友達で満足してよ」
「なんでお兄ちゃんがそんなこと決めるの!ゆいぴょんさん、私も優衣ぴょんさんのことお姉ちゃんだと思ってるからね」
「だそうよ。亜樹、莉緒ちゃんは私の妹だから、よろしくね弟くん」
「……僕、もしも姉がいたらめいいっぱい甘えてみたかったんだよね。僕を弟扱いするというならそれ相応の覚悟が必要だよ」
「大丈夫、家族ならどれだけ甘えられても受け入れてあげるよ」
「――バブー!」
僕は赤ちゃんの真似をしながらゆいぴょんの胸に飛び込む。
「――えっ⁉」
ゆいぴょんは混乱したような声を出しながら軽い身のこなしで僕をよけ、僕の頭に踵お年を叩き込む。
僕の頭は容赦なく、床にたたきつけられて家全体が軽く揺れる。
「だ、大丈夫!お兄ちゃん」
「大丈夫、鼻を強く打っちゃった」
僕が涙目になりながら後頭部をさすっていると莉緒も僕が大丈夫だと誘ったようで安心した表情をしてまだ起き上がれてない僕を足蹴りする。
「イタイイタイ!なんで⁉心配してたじゃん」
「でも、大丈夫なんでしょ?よくも私のゆいぴょんさんにあんな汚らわしいことができるね」
莉緒が僕の頬を踏みつけながらごみを見る目で僕をにらみつける。
優衣ぴょんに助けを求めて視線を送ってみると、ごみを見るような眼とまではいかなくても、これまた気味が悪いものを見る目で僕を見ていた
ここまで印象が悪いとは……冗談で言っただけだったのに。
反省。
しばらく何も言わずに足蹴りされてると途中から優衣ぴょんも参加して来た。
笑顔で僕の腹を蹴ってくる。
優衣ぴょんは僕の身体能力の高さを誰よりも知ってるだけのことはあって、一撃一撃に遠慮がない。
しばらく耐えていると普段から運動不足の莉緒が疲れて蹴るのをやめたので優衣ぴょんも同じようにやめて再び机について勉強を再開した。
しばらく勉強を続けているといつも僕たちが訓練を始める時間が近づいてきた。
「西山さんの居場所ってぽよぽよ県からかなり離れてるから移動に時間かかっちゃうんだけど、新幹線か走っていくのどっちがいい?」
新幹線で移動するのと走って移動するのを同列に並べる僕たちの会話に驚いたのか、莉緒はあんぐりを口を開けて驚いている。
「ちなみに何県に行かなきゃいけないの?」
「ああ、ぴちぴち県だよ。新幹線の中で勉強しながら行くか、短い時間で走っていくかの違いなんだけどね」
「えっ?ぴちぴち県⁉」
僕たちの当たり前のように話してる会話に莉緒が混ざってくる。
驚くのも仕方がなくはある。
ぽよぽよ県とぴちぴち県だと地方が分かれるくらいの距離がある。
「新幹線だと時間がかかっちゃいそうだね。走って早めについて、向こうで特産品のぴちぴち丼でも食べようよ」
「いいね。ぴちぴち丼まだ食べたことなかったから楽しみかも」
「じゃあ、さっそく行こうか」
さっそくいつも移動の際に使うようになった赤ちゃん用のおんぶするための紐を使ってゆいぴょんを固定した状態でおんぶする。
手慣れた様子の僕たちの移動方法を見て莉緒は何も言えずにいる。
優衣ぴょんも第三者から見た自分の姿に冷静になったのか、少し恥ずかしそうだ。
しょうがない。
これが一番効率がいい移動方法なんだから。
いつもと違って、スターダストが現れたわけではないので、もしも周りの人に今の状況を見られてしまうとその記憶は消えることはない。
ついでに、ものを絶対に壊してはいけないという制約がある。
優衣ぴょんの意思を尊重して人に見られることがないように靴を手に取って窓から人目を避けて移動する。
「えーっと、なんていえばいいかよくわかんないけど、車とかに引かれないように気をつけてね?いや、お兄ちゃんなら電車にひかれてもピンピンしてそうではあるけど念のため」
僕たちが出発しようとすると莉緒から見送りの言葉をもらう。
「そうだな。僕も車とかを轢いちゃわないように気を付けるよ」
そんなことを言うと莉緒はクスリと笑った。
マシュマロをどれだけ早く投げつけても鉄製の壁を壊すことが難しいように優衣ぴょんの力で体を軽くしてる僕がある程度強く踏みしめてもなかなか建物は壊れない。
音速を超えてしまうとソニックウェーブであたりに被害が出てくるし、優衣ぴょんの体に負担がかかってしまうから制御はするけど、それでも空気抵抗がもどかしくなるくらいの速度で移動する。
「えーっと、位置情報的にもうちょっと右方向に角度変えて進んで」
僕が走り、ゆいぴょんがケータイを見ながらナビゲートをする。
あっという間に地図上では県境に迫る。
僕が速く走れば走るほど優衣ぴょんは僕に強く抱き着いてくれるので、優衣ぴょんの負担にならないようには意識つつも、できるだけ早く走るように意識してる。
まだ発展途上ではあるものの女の子の柔らかな感触を感じることができるこの時間は僕の至福の時間だ。
時々、不思議に思う。
僕って優衣ぴょんのことが好きなのかな?
もちろん人としても、友達としても大好きだ。
愛してると言っても過言ではない。
優衣ぴょんは僕がこれまで接してきた中でも一番気配りができる人だし、それでいて親しくなるにつれてズバッときついことも言ってくる。
たまに辛口になることが僕は優衣ぴょんと仲良くなったんだって実感させてくれ、優衣ぴょんの性格の良さを知っているから全く不快には感じない。
だけど、恋をしているのかと聞かれると疑問に思ってしまう。
背中にかかるくらいの枝毛一つない艶やかな髪に女性らしい柔らかさのある体つき、その体には夏場になって薄着になってもきめ細やかなゆで卵の様にハリのある肌にはシミ一つ、古傷一つ見当たらない。
顔の造形は言わずもがな、人類の集合知である画像生成AIが束になってもこれほどまでの完成形は引き出せない。
あの、ぱっちりと開いて常に柔らかな視線をくれる瞳に小さいながらも形の整った透き通った鼻、薄い唇は気を抜いてしまえば勝手に重ねようとしてしまうほどの魔性を放っている。
それらすべての完璧なパーツの一つ一つがこれまた完璧に配置されていて、文句のつけようがない。
そんな人が僕のためを思っていろいろ行動をしたりしてくれるし、気を回してくれる。
こんな相手、誰でも惚れてしまう。
だけど、僕は優衣ぴょんを恋する相手以上に返しきることができない恩のある人として認識してしまっている。
そして優衣ぴょんの人を助けるという心構えに感服して少しでも支えることを望んでしまっている。
もしかしたら僕では到底優衣ぴょんに釣り合わないとあきらめてしまっているのかもしれない。
それは僕にもわからなかった。




