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19話 力の証明

「……そろそろか」


 百メートルくらいだろうか?

 僕が全力で走ればそれ相応の音と地響きが鳴る。

 それでも見失ってる状態から僕の全力ダッシュでガードがおそらく間に合わないであろう距離。

 消火栓を踏みしめるための台にして一直線に突き進む。

 一歩目から姿を隠す気なしの全力ダッシュで後ろの消火栓がぶっ壊れる。


「――彗星爆発!」


 意図しなかった場所から聞こえてきた爆発音から飛び出してきた僕に対応することができなかったデカラビアの反応は遅い。

 僕の拳は鼓膜が破れるほどの爆発音とともに五芒星の中心を抉り取る。


「――っっっっっ!」


 五芒星の中心を抉り取られたデカラビアの声にならない頭が痛くなるような悲鳴が聞こえてくる。


「――ッグ!」


 一撃を加えてからの追撃をしようとしたが拳に感じた違和感に急いで距離をとる。


「まじか……」


 僕の全力のパンチに僕自身の拳が耐えられず、骨が皮膚を突き破ってしまっている。

 大量の血が溢れ出てしまって、もう手を握れそうにない……

 それでも……こいつを倒さないと!


「……なんだ?」


 五芒星を殴ったことで骨が皮膚を突き破ってしまった僕の拳から、今度は植物の芽のようなものが出てきた。


「なんだよこれ……」


 つぶやいても誰も答えてくれない。

 ゆいぴょんならきっとこの植物について知っていたことだろう。


「クソッ!」


 ここは僕一人で何とかするしかない!

 僕が状況を把握している間にデカラビアもまた僕から受けたダメージで狂乱していた状態から立ち直ったようで、眼はないが、僕は確かにデカラビアから意識されていることを肌で感じていた。


「――キエエエエエエェェェェ!」


 デカラビアが叫びだすと、触発されたように周りを飛び回っていた鳥のような使い魔が僕に向かって襲い掛かってくる。


「クッ!」


 どのような力を持った使い魔かはわからないが、一匹一匹が冷蔵庫よりも大きそうなサイズで、攻撃に理性を感じる。

 真正面から迎え撃つにはリスクが大きすぎる。

 見た感じだとデカラビア本体には格闘能力はないようだ。

 使い魔を相手にして遠距離から好き放題攻撃されるよりも距離を詰めて選択肢を減らさなくては……

 使い魔たちは僕がデカラビア本体にたどり着くことがないようにと僕を逃がさないための陣形で波状攻撃を狙っている。

 一度に対応しなくてはならない数が減ってくれるのはありがたいが、理性のある使い魔を通り抜け、デカラビア本体に近づくためには足を使って翻弄しなくてはならない。

 そうなるとそれに連動して腕にとんでもない激痛が走る。


「クソッ!邪魔だ!」


 思うように前に進めず、早く終わらせたいのに終わらせられない状況にイライラしてくる。

 フェイントをかけ、鳥の使い魔を抜いた場所にデカラビア本体が岩を投げつけて攻撃してくる。

 単純な攻撃ではあるが、エネルギーに制限がある僕にはなりよりも効率的な方法だ。

 飛び込んでくる使い魔と岩をよけ続けると少しずつ、少しずつだがデカラビア本体に近づくことができた。


「あと少し!」


 覚悟を決めて、再びデカラビア本体に飛びつき、殴りかかる。


「エナジースマッシュ!」


 僕の全力をもってデカラビアに殴りかかる。


「――ぶへ!」


 僕の拳がデカラビアの五芒星に再び触れる直前、何かが飛び上がった僕をはたき落とした。


「クソ……なんだ?」


 跳ね上がるように飛び起き、現状を把握することに努める。

 デカラビア周辺の土からうねうねとした植物がいつの間にか生えている。

 まるで意思を持って動いているかのような動きをするその蔦はまるでデカラビアを守るように僕に敵意を向ける。

 あまりにも意識外のことで少し、茫然としていた僕に向かって使い魔が突っ込んでくる。

 たまらず突っ込んできていた使い魔の頭に踵落としを喰らわせてしまう。

 ――一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 耳に残るけたたましい爆発音に網膜を焼く閃光、体の芯まで響くような衝撃。

 攻撃に使った僕の右足の感覚がない。

 手で触れてみるとまだその感触から千切れてしまったりはしてないことはわかる。

 確か、僕の周りには大量の使い魔たちがいたはず……デカラビアも目の前に……

 たまらず、まだ回復してない目を無理やりこじ開け、影が差さない方に向けて全力で飛びつく。


「ガハッ!」


 背中に何か巨大なものがぶつかってきた。

 もちろんわかる。

 岩だ。

 デカラビア本体が僕に仕掛けてきたんだ。

 ただ、何も考えずに前に出ることだけを考えていた僕は予期しない背後からの攻撃に顔から地面にこけてしまう。


「やばい、やばい、やばい、やばい!」


 それでも、少しでも距離をとるため、まだ無事な腕と皮膚を骨が突き破って血だらけになった腕、両方を使い、這って前へ進む。

 追撃のようにして背後から大量の岩が僕に向かって降り注ぐ。

 一撃一撃がかなり重く、確実に僕の体にダメージを蓄積させている。

 それでも、最低限、眼が治るまで耐えられないこともなさそうだ。

 右足の感覚はしびれるものの、だんだんと戻ってきた。

 この調子ならあと少し耐えられれば体制を立て直して逃げ切ることができる……

 這いつくばりながら、先ほどの使い魔を倒したことでの爆発によって不自由になった部位の回復を待っているとだんだんと僕に降り注ぐ岩の強さが上がっていることに気が付く。

 でも、それぐらいなら逃げ切るためのエネルギーを使ってしまうことになるけど、身体能力の強度さえ上げればいい。

 それでも、僕の体にかかる負荷が上がり続けているのだ。


「――よし、これなら!」


 背中に岩を投げつけられ続けながらしばらく耐え続けているとだんだんと目のピントが合ってきた。

 これならもう……

 前が見え、状況が好転したことで希望を持った僕だが、再び、絶望を突き付けられた。

 僕を囲うようにしてデカラビア本体を囲っていたすべての使い魔が鎮座していた。

 それだけならまだいい。

 地雷のような使い魔だと分かれば、自分の身を守ることができるほど強化して殴ればいい。

 僕の右手に芽が出ていた植物が花開いていた。

 植物が花開くなら、僕の体から生えてることを百歩譲って素晴らしいことだと考えられる。

 問題はその栄養源だ。

 この花は僕の体内のエネルギーをもとにして開花し、現在進行形で高密度のエネルギーをまとった花粉をまき散らしている。

 僕がいくら身体能力を強化しても岩の威力が上がったように感じたのはエネルギー不足のせいだったか……


 花を引きちぎろうにも、僕の直感が僕のエネルギーを吸い取って開花したこの花の頑丈さと生命力を感じ取ってしまっている。

 だが、このままでいるわけにもいかない。

 僕は腕に生えた花を嚙みちぎる。

 ――最低限、花粉だけでも。

 噛みちぎる際、傷口に棒を突っ込んでこねくり回しているかのような痛みに襲われたが、命に比べたら何でもない。


 体中の力を籠め、跳ね上がるようにして起き上がると、僕に向かって投げつけられていた岩を蹴り、周りを囲っていた使い魔にたたきつける。

 隙間なく僕を囲っていた使い魔たちのおかげで大して自信のない僕のキックコントロールでもしっかりと威力をもってたたきつけることができた。

 閃光と鼓膜を破るような爆音をもってかなりの威力で使い魔が爆発するが、それがわかっているなら問題ない。

 爆発の威力はかなりのもので、一匹を爆発させることができれば、連鎖的に隣の使い魔を倒すことができ、辺り一帯が閃光と爆発音と爆発に包まれた。

 ただでさえエネルギー不足のこの僕がその衝撃に耐えきることができるはずがなく……


 僕の四肢は炭化し、体中どこに意識を向けても無事であるとは思えなかった。

 それでも、邪魔な使い魔どもは消えてくれた。

 あとは逃げ切ることさえできれば……

 必死に走ろうと意識しても、僕の足はまともに力が入ってくれない。

 ただ、つんのめりながら僕は前へと向かう。


「――うぐぅ」


 ……クソ。

 ……僕にもっと力があれば。

 ……僕にもっと知識があれば。

 ……僕にもっとエネルギーをコントロールする技術があれば。

 僕はこいつに負けなかったはずなのに。

 今の僕は何も服を身に着けていない。


 すでに爆発のせいで焦げてなくなってしまった。

 ただ、惨めだ。

 ゆいぴょんは僕に力を、知識を、技術を身に着けるようにアドバイスをして、責任をもって必死に教え込んでくれようとしていた。

 それなのに僕は生まれ持ったものに驕って、ろくに訓練をしないで生きてきた。

 命の恩人で必死に僕が生き残れるように成長させてくれていたゆいぴょんを煩わしく思い、僕の力を過信して僕の力を証明しようとした。

 ふと力が抜け、右手が地面につく。


 すると僕のエネルギーを吸収してできた花が意思を持つように根が地面に生え変わった。

 良いことだか、不吉の前兆か僕にはわからない。

 僕の体から植え変わったとたん、勢いよく僕のエネルギーを吸い込んだ花だったものが成長をはじめ、前へ進んでいた僕を飲み込みながら成長していく。

 僕の人生、ここまでか。

 父さん、母さん、莉緒、申し訳ない。

 恩返しだけでもしたかったけど、もう無理なようだ。

 ゆいぴょん、ごめんなさい。


 今度は僕みたいに馬鹿な人間じゃなくてもっと頭のいい人を仲間に選んでくれ。

 目を開いて状況を確認することはできるけど、僕の体はうんともすんとも行ってくれない。

 背中にも違和感を感じる……さっきまでの岩で僕を攻撃していた際に岩に種を詰め込んで僕の体に植え付けていたのか……

 だんだんと僕のエネルギーで育った植物に吞み込まれながら、僕は新月に輝く光を見た。


「――亜樹は、私のことを甘く見てるよ」


 僕がもう動けなくなってしまっていることを把握しているのか、デカラビアからの敵意はもう感じることができない。

 にもかかわらず、デカラビアは僕と戦うときに作っていた岩を再び大量に作り始めた。


「……一体、な、なにが」


 僕の体は顔だけを除き、僕のエネルギーで育った花に呑み込まれてしまった。

 もう、すべてが呑み込まれてしまうのに十秒もかからないだろう。

 にもかかわらず、先ほどまで重力に逆らってぐんぐんと大きくなっていた植物は突然地面に伏した。

 僕を飲み込んでいる場所を除き、押しつぶされているかのように植物の蔦から汁がベキベキと音を立てながら絞られだす。


「亜樹、私は私が満足するまであなたを逃がさない。あなたにはそれだけの価値がある」


 ゆっくりと僕の方に近づくと僕を抱き起こし僕の口に何か飲み物を注ぎ込んでくれる。

 味的に栄養ドリンクだろうか?

 体の芯から活力が湧いてくるようなそんな栄養だ。


「だから私はいくらでもあなたに労力をかける」


 ある程度、僕に飲ませてくれると今度は僕の口に大きな薬のようなものが押し付けられる。

 サプリメントか?

 なにも考えずに口を開くと突っ込まれた。

 とりあえず、抵抗せずに胃の中に入れてみると腹こそは膨れないがエネルギーがみるみる回復していく。


「落ち込まないで。能力は磨けば磨くほど強くなる。あなたの能力はまだ赤子のようなもの。能力自体はすごい勢いで強くなってる」


 僕の口にいろいろ入れてくれた人は今度は僕の背中に何か物を放り投げる。

 体の全身が燃えるように熱い気がするが、気のせいだろう。

 特に背中がやばい。

 ちょうど僕が種を植え付けられてた場所だ。


「あなたならもし相性のいい相手なら地獄の公爵だって一人で相手にできる。今回はあまりに相性が悪かったね」


 誰かが僕を抱えて水道管が破裂して水が噴き出している場所に連れて行って僕の背中に大量の水を浴びせる。

 ――危ない!

 デカラビアが僕たちに向けて大量の岩を投げ始めた。

 必死に声に出そうとしたがかすれてしまって声にならない。


「ブラックホール」


 そうつぶやくと、僕たち上に光を通さない真っ黒な空間が出来上がった。

 僕たちの方へ一直線に飛んできていた筈の岩があらぬ方向へ飛んでいき、その空間に吸い込まれ、消滅した。


「私に飛び道具は効かない」


 か、かっこいい。


「そろそろかな?」


 誰かがそうつぶやくと僕が植物に呑み込まれながら見ていた新月の日に輝くかすかな光が、夜空を照らす照明のようになるまで大きくなっていた。


「流れ星」


 僕を助け出してくれた人がそうつぶやいた数秒後、僕の視界は真っ白に染まった。


今、亜樹君は技名を試行錯誤している途中なのです。

いつかきっともっとかっこいい技名になってくれるはず!

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