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14話 おうちデート

 皆さんはテスト勉強が満足にできていないテスト直前期についての記憶はあるだろうか?

 もしかしたら一夜漬けで何とかなってきた方々もいるかもしれませんが、僕にはそこまで情報を吸収するのが早くない。

 素直に言えば僕はとても焦っている。

 あからさまに焦ってしまえば家族が心配してしまうので取り繕いはするが、勉強はしたい。



 ほんとはリビングにある広い机で一緒に参考書を広げながら勉強したかったけど、この状況では見世物小屋になってしまう気がする。

 僕の部屋の机に関しては二人分のスペースは問題なくあるけど、椅子が一つしかないし……

 まぁ、莉緒の部屋から借りたらいいか。

 どうせあいつは勉強する気ないだろうし。


「優衣ぴょんは先に参考書を開いててよ。僕はちょっと妹の部屋から椅子を取ってくるよ」

「了解、先に私は勉強してるね」


 僕が部屋から出ると、優衣ぴょんが家に入ってきた時と同じ体勢で部屋の角から僕の部屋を見つめていた。

 確かに僕が友達を家に連れてきたことは初めてだけどそこまで驚くことかなぁ?

 でも、ちょうどいい。


「莉緒、二人で勉強するのに椅子が足りないから莉緒の部屋から借りてもいいか?」

「……………」


 返事がない。

 僕が外に出たということには気が付いている様子だが、そんなことなどどうでもいいといった様子で僕の部屋を見つめている。

 まぁ、どうせ莉緒なら勝手に椅子を持って行ってしまっても怒ったりすることはないか。

 廊下を歩き、手慣れた様子で莉緒の部屋に入る。

 この家にプライバシーなんてものはない。

 誰もが勝手に別の人の部屋で眠ったりするし、自分専用って宣言してあるもの以外は基本的に共用で勝手に持って行かれるし勝手に持って行く。

 本当に隠したいものは押入れの中にしまえばいい。

 そこのものはたとえ見つかってしまっても見て見ぬふりをする約束だ。


 そんな感じで莉緒の部屋から椅子を運ぶ。

 父親が腰痛もちで僕たちにも同じ目に合うことがないようにといい感じの椅子を買ってくれている。

 おかげで快適な生活をさせてもらっているが、こういったときは大きいので運びずらい。

 優衣ぴょんも勉強の準備をするのにある程度時間がかかるだろうし、やるべきことぐらいいくらでもあるだろうから急がず、じっくりと壁に傷をつけたりしないように意識をしながら運ぶ。

 少しするとまた僕の部屋に戻ることができた。


 そして僕の部屋を見つめていた団子三兄弟はドアを開けたままにしていた僕の部屋をそっとのぞき込んでいた。


「……ちょっと、何してんの?」


 僕が話しかけると三人同時にビクッ!と驚き、気まずそうに僕のほうを向く。

 僕としては意識してなかったが、どうやら父さんたちの行動には優衣ぴょんも気が付いていたようで、これまた気まずそうな表情をしていた。


「――ちょっと、亜樹‼静かに!気づかれちゃうでしょ?」


 気づかれてますよ。


「亜樹、向こう言っていったん話そうか」


 父さんが優衣ぴょんに気づかれないようにささやくような声で言う。

 ここはおとなしくしたがっとくか。

 何となくだけど言いたいことはわかる。


「優衣ぴょん!母さんが保存のきかない大容量の食べ物の袋を開けてしまったみたいで処理するから先に勉強してて」

「――ちょっと、亜樹、私がドジな人みたいな印象を与えないでよ」


 せっかく僕がそれっぽい言い訳を考えてあげたのに……それにしても、初めて招いた友達を自分の家で一人にさせるなんて……こういうところで気遣いができてないからそこまで深い関係に慣れてる友達がいないんだろうなぁ。



 情緒不安定な僕の家族にリビングに連行され、事情徴収を受けることになった。

 ……勉強したいのになぁ。


「――ちょっと!亜樹!優衣ぴょん美人すぎるでしょ!どういうこと?」


 莉緒が興奮気味に食いついてくる。


「こら莉緒、そんなこと聞いたところで何の生産性もないだろ。それよりも亜樹、お前はもしかして優衣ぴょんさんと付き合ってたりするのか?」


 僕としてはわざわざここまで大げさに反応したものだから、僕がハニートラップに引っかかってコスモスに入ったことを危惧してるのかなって思ってたけど、そんなことはなかった。

 父さんもクソみたいな質問しかしてこねぇ。


「ちょっと、美人だとは聞いてたけど、あんなに美人だとは聞いてないわよ。どうしよう、あんなに美人さんがお嫁さんに来てくれたら……親戚⁉この団地中に触れ回っちゃうわ」


 僕の家族ってこんなに小者だったんだ。


「亜樹‼頑張ってもっと優衣ぴょんと仲良くなって私と友達を含めて一緒に遊ぼうよ。身近にあんなに美人がいたら一時的でもクラスの人気者になれるよ」

「ちょっと、勘弁してくれ。そんな小物っぽいことを言われたら嫌だわ」

「あんたバカ?亜樹が気まずくなったりしても、私が優衣ぴょんと仲良くなれればそれでいいじゃない。あんなに美人と並んで歩いたらすごい世界が広がってるんだろうなぁ」


 だめだこりゃ。

 昨日まで僕のことを涙ながらに心配していた人と同一人物だとは思えないや。

 まぁ、こんなに小心者なんだ。

 束になったところでこんな小物たちはろくに行動を起こせないだろう。

 というわけで僕は家族からの制止を振り切って部屋に戻る。

 ここまですがすがしいと罪悪感を感じないからありがたいなぁ。



「優衣ぴょんお待たせ。何の科目から始める?」


 僕が部屋に戻ると優衣ぴょんは居心地が悪そうに机に向かってた。

 確かにうちの家族があそこまで小物臭の漂うセリフを言いたくなる気持ちもわかる気はする。

 これまでの人生で優衣ぴょんに迫れるほどの容姿を持った人なんて見たことない。

 月9の主演女優でも靄がかかってしまうレベルだ。

 生成AIでも作ることができない、人類の集合知を上回る圧倒的な個体だ。

 今こうやって勉強しているときもあまり集中しきることができてないようだが、必死に集中しようとしている表情は僕の胸の奥をかき乱す。

 そして優衣ぴょんの胸は同世代で比較すると大きめのようで机の上に軽くのしかかっている。

 あとで残り香が残ってないか確認しないと。


「私は物理と化学が好きで、数学が苦手だから早い時間帯に数学をやるよ」

「了解、じゃあ、僕も数学をやるね」

「テスト範囲の単元を教えてよ。私も合わせるから」

「いいの?じゃあ、数Ⅲの微分積分の全範囲から出題されるみたいだから幅広いけど、微積の範囲の質問をすることになると思う」

「お?広いね。あんまり難しい問題は教えれないかもしれないけど、頼ってね」


 優衣ぴょんは参考書をぺらぺらとめくり、また問題を解き始める。

 別の単元をしてたのかなぁ?

 だとしたら申し訳ないけど、せっかく質問してもいいって言われてるんだし、これまで後回しにしてた問題をしっかりと理解できるようにしなきゃ。

 僕も本棚から参考書を取り出す。

 


 しばらく集中してやっていてわかったことではあるけど、ゆいぴょんってまだ数Ⅲの勉強を始めてそこまで期間が長くないようだ。

 だって明らかに学校指定の問題集で使いこみ具合的にもせいぜい一周か二周ぐらいしか回してないようだ。

 僕は学校の仲のいい卒業してしまった先輩からもらった問題集を解いてはいるけど、さすがにこれはわからないでしょ。

 僕だって相手に気まずい思いをさせたいと思ってるわけではないし、ここはおとなしく一人で問題を解き進めておくのがいいかな?



「ねぇ、亜樹。わからないところないの?」


 三十分くらいたったころだろうか?

 ゆいぴょんが話しかけてくる。

 確かにテスト勉強を友達とやるってなったらずっと話しながら勉強をするようなイメージがあるなぁ。

 僕としてはこんな時に何を話したらいいかわからなくて気まずいんだけど。


「わからないところはないことにはないけど、今はそこを頑張って理解しようと考えてるところかな?」

「時間かけすぎじゃない?テスト勉強なんだからもっと早く問題を回してできるだけ広く内容を網羅しないと」

「確かに……そうだね。じゃあ、ここの積分の問題がわからないんだけど教えてもらってもいいかな?」

「………んん……この問題ね」


 僕が提示した問題はやり方をとりあえず暗記すれば解けるものではあるけど、それがどうしてそうやって解けるかは理解できてない問題。

 できればなぜそうやって解けるのか理解しておきたい内容。


「うん。わからない!ごめんね」


 僕の想像通りだったようだ。


「大丈夫。参考書見てから何となく予想してたから」


 ゆいぴょんが僕と自分の参考書を見比べる。


「恥ずかしくなってくる……」


「ここまで使い込んだのはこの参考書を僕にくれた先輩だから頑張ったのは僕じゃないんだけどね」


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