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第4話チンピラ退治

討伐から宿へと続く石畳の通りは、すでに夜の帳が降りていた。

薄闇の中、酒場や店の明かりがぽつぽつと灯り、街のざわめきが静かに響いている。


「なんだかんだで楽しかったね、今日。」


フィリアが笑いながら手を組んで歩く。

その後ろをリーナが小さく頷きながらついていく。


「……でも、さすがに疲れました。」


「まだ本格的な戦闘経験も少ないし、緊張もしたでしょう。」


マルティナが優しく肩を抱く。



俺はそんな彼女たちの様子を、少し後ろから眺めつつ、鍋と包丁の荷袋を担ぎ直した。


(明日はどうするか……少し休ませてやってもいいけど、気を抜かせすぎるのも危険だ)

そう考えつつ、俺は街灯の下に伸びる影を見つめていた。


そこに、ふいに耳をつんざくような叫び声が響いた。


「ヒャッハー! 金目のもん置いてけやー!」


通りの奥から、酒臭い男たちの声が聞こえる。

一群のチンピラが、明らかに商人と思しき男を囲んでいた。


腰にぶら下がった袋が、銀貨の音をカランと鳴らす。


「クソ……チンピラか」

マルティナが前に出ようとしたところを、俺は軽く制止の手を上げた。


「待て。……俺がやる」


四人の視線が一斉に俺に注がれた。


「えっ?」

リーナが小さな声で尋ねる。


「ちょっと、腹ごなしにな」

俺は決まり文句を吐いた。


「調理開始だ!」


――そしてお決まりのセリフに、全員の顔が青ざめた。


「ちょっ、ライル!? 街中で鍋振るう気!?」

「ダメだよ・・・!」

「包丁を構えるな!」

「どうしてそうなるのよ!」


騒ぎながらも、俺は無視して前に走った。


チンピラどもは驚き、酒瓶を振り上げて応戦しようとしたが、俺はすかさず鍋で一撃。


「おりゃぁっ!」


鈍い金属音と共に、一人の男が腹を押さえて倒れる。


その隙に、包丁の背で首筋をゴンッと叩きつける。


「ぐえっ!?」


倒れた男の悲鳴が響く中、残った奴らがいったん後ずさる。


だが油断はしない。俺はすぐに次の一撃を狙い、片手に鍋、片手に包丁を構えた。


「この包丁、肉の繊維を裂くのも得意だが……人間にも効くぜ?」


チンピラたちの一人が叫び、武器を投げ捨てて逃げ出した。


俺は鍋の縁で彼らの後ろを叩き、背中を押し返す。


「ひぃぃいっ!!」


逃げる者を追いかけるのは面倒なので、俺はその場で深呼吸した。


「……よし」



「……よしじゃないわよ……」


マルティナが呆れたように手を額に当てる。


「ライルさん、今さらですけど……料理人って何でしたっけ……」


リーナも苦笑をこぼす。


「まあ……危険な素材は時に処理するのも仕事のうちってことで」


俺は肩をすくめた。


街のざわめきが戻る中、倒れた男たちの間に銀貨の袋が落ちていた。


商人が感謝の言葉とともに小さな箱を差し出す。


「これは……?」


箱を開けると、塩漬けにされた猪肉がぎっしり詰まっている。


「保存食にしては上等だな。いいのか?」

商人たちは是非にといった様子で頷いた。



俺は仲間に目をやりながら言った。


「宿に戻ったら、これを使って何か作ってやるよ」


宿に戻り、台所を借りると、俺はさっそく鍋に火を入れた。



香草と少量のワインを用意し、塩漬けの猪肉を丁寧に煮込み始め、魔力を込める。


「……なんだかまた魔力の粒子が舞ってる……」


リーナが驚いたように言い、鍋の中を覗き込む。


「料理に魔力を宿すってのは、まるで生き物に魂を吹き込むみたいなもんだ」

俺はそう呟きながら猪肉に旨味と魔力を染み込ませていく。

鍋の中の肉がじわじわと色づき、輝きを増していく。


夜の静けさの中、鍋からは柔らかく蒸気が立ち上り、食材の旨味が空気に溶け込んでいく。

俺は魔力を流し込む手を止めず、香草の香りを鼻で確かめながら微調整を加えた。



「完成!今日は疲労回復に最適《猪肉のシチュー》だ。これを食えば、明日もバッチリだぜ」


フィリアが笑顔で大きく頷いた。


「ライルの料理って、ほんとに体が温まるよね」


「ライル、あなたの料理はいつも不思議な力を持ってる……」

リーナが小さく呟いた。


「まぁ、俺は料理人だけど、ついでに魔法使いでもあるからな」

俺は冗談めかして笑った。


そんなとき、フィリアが窓の外をふと見て言った。


「ねぇ、あの星……何か今日はいつもより輝いてない?」


「どこ・・・?」

リーナがフィリアの隣に移動する


「あそこだよ」


夜空には満天の星が散りばめられているが、フィリアの指さした先には一際明るく瞬いている星があった。


マルティナとセシリアも立ち上がって窓辺に寄る。


「確かに奇麗ね」


「星の輝きは昔から冒険の吉兆って言われてるのよ」


「そいつはいい予感かもしれねぇな」俺はスプーンを置き、皆に向き直った。


「明日からの冒険も、絶対に成功させてみせる。料理も腕も、まだまだ上げていくぜ」


四人が顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。


「……俺たち、本当にいいパーティになりそうだな」


「うん、きっとそうだよ!」


俺たちの絆は、夜の闇の中で確かに深まっていった。

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