後日談
翌日、結衣はさっそく美羽先輩に連絡を取り、近くの喫茶店で会うことになった。
待ち合わせの時間より少し早く着いた結衣が席に着いて間もなく、美羽先輩が姿を現す。
「お待たせ。……蓮くん、言えたみたいだね」
席につくなり、美羽先輩がニコニコしながら言った。
「……はい。無事に、付き合うことになりました」
「そう。よかった。……私も玲奈も夏を過ぎた頃には気づいてたの。結衣ちゃん、本気で蓮くんが好きなんだって。ついでに言うと、重度のブラコンってことにも…」
結衣は一瞬たじろいだが、頷く。
「それでね。玲奈とも話したんだけど……それなのに、なんでわざわざ四人で遊びたがるのか、正直ちょっと不思議だったの」
美羽先輩はストローをくるくる回しながら、軽い口調で続ける。
「結局ね、いくら考えても答えは出なかったし、結衣ちゃんが何かたくらんでそうだったから──もう蓮くんの背中を押して、くっつけちゃおう!ってことになったの。仕返し半分、サプライズ半分ってとこかな」
「……え?」
「それに、今日ここでこうして会ってるってことは――蓮くんから、私がちょっと仕組んでたって聞いたんでしょ?強引にでも背中を押すのは必要だったけど、ちゃんと自分の言葉で気持ちを伝えさせたくてね」
思わず唖然とする結衣に、美羽先輩は肩をすくめて笑う。
「……ありがとうございます」
「ううん、いいの。私たちも、結衣ちゃんのおかげですごく楽しかったから」
「それとね、これからも変わらず友達でいましょう。彼女になったからって距離を置かれると、ちょっと寂しいから。それに、収まるところに収まったんだから、これからはもっと考えてること教えてほしいな。本音で話してくれると、私たちも嬉しい」
結衣はふっと笑って、小さく頷いた。
「はい。これからも、よろしくお願いします」
◆◆
朝。柔らかな光がカーテン越しに差し込む中、蓮はぼんやりと意識を漂わせていた。
どこか遠くで、誰かの声がする。耳に馴染みのある優しい声――結衣の声だ。
毛布がめくれ、ひやりとした空気が肌に触れる。次の瞬間、何かふわふわとした温かく柔らかいものが布団の中に滑り込んできた。
寝ぼけたままの蓮は、それを反射的に抱き寄せる。すると、その柔らかい何かが、もぞもぞと落ち着きなく動き出した。
そこでようやく、蓮の意識が徐々に現実へと戻ってくる。
「ん……結衣? え、」
目を開けると、すぐ目の前に結衣の顔があった。至近距離。
慌てて抱き寄せていた手をぱっと放す。
「何ですか、兄さん」
結衣は、いつもの調子で落ち着いた声を返してくる。
「いや、なんですかって、これは兄妹関係なく、高校生的にアウトじゃないか?」
顔が近すぎて声を張ることもできず、蓮は小声でそうささやく。
「兄さん、知っていますか? この世のすべてのことは、人に認知されなければ違法にはなりません。つまり、私と兄さんが黙っていれば、問題ないのです。――それに、これくらい今どきの浮かれたカップルなら普通ですよ」
言いくるめられていることは自覚している。けれど、妙に理屈が通っているように思えてしまい、蓮はなんとなく納得してしまう。
しかし、次の一言が思考を一気に吹き飛ばした。
「……本当にアウトなのは、これからです」
にっこりと笑いながら、結衣は蓮をじっと見つめ――その朝を、しっかりと堪能した。