急展開
クリスマスパーティーも、年末のまったりとした日常も、初もうでのお参りも――
どれも想定通りの雰囲気で、穏やかに過ぎていった。
家でも、妹という立場に甘えず、一人の女性としてみてもらえるように、距離感に注意した。
あまり近すぎても「妹」になってしまうし、面倒見すぎても「親」になってしまう。甘えたい・構いたいという誘惑はつらいものだったけど、うまくやれていると思う。
来月にはバレンタインデーがくる。例年までは私一人で手作りチョコを作って兄さんに渡していたが、今年は三人で作ることになると思う。
……そろそろ頃合いかもしれない。想定より、先輩たちとの仲が深まっている。そんな雰囲気は感じないけど、さすがに心の中までは読めない。
今週中に告白しよう。
元よりロマンティックなシチュエーションを作り出すのは難しいとわかっていた。 私にできるのは、兄さんに意識してもらって、真剣な思いを伝えることだけ。
……そう思っていた。もちろん思っていただけではなく、告白の言葉も長年温めてきたものを何度も見直し、修正もした。成功してもしなくても、夕食は豪華にしようと献立を考えていたし、……念のため、告白当日の“安全確認”も済ませていた。
◆
《告白前夜》
いつも通りの、二人での夕食──とはいかなかった。さすがの私も、目が合うたびに意識してしまう。 だから、気づかなかった。普段なら「どうしたんだ?」と声をかけてくれる兄さんもまた、緊張していたことに。
ぎこちない空気のまま夕食を終え、私は食器を片付け始めた。
そのとき、兄さんが少しだけ震えた声で言った。
「結衣、このあとちょっと話があるから、えっと……ここじゃなくて、僕の部屋に来てくれない?」
(え……?)
一昨日、急いで買った下着のことを思い出してぼんやりしていた思考が、一気に現実へと引き戻される。
「わかりました。洗い物が終わったら行きますね」
(兄さんがわざわざ部屋に呼ぶような話題なんて、そう多くはない。進学のことか、両親のことか……)
「あぁうん、わかった……あー、やっぱ手伝おうか?」
(おかしい。洗い物は私がやるって決めてから、何も言ってこなくなったのに……。それにこの空気、なんだか……分岐点みたいな、そんな感じがする)
「もう、終わりますから平気ですよ」
実際は、手がほとんど止まっていたけど、無理やり笑顔でそう返した。兄さんは気まずそうにしながらも二階へと上がっていった。
(なんてことない話題なら、それでいい。でも、そうじゃなかったら……今日、勢いでいくしかないかも)
急いで片付けを終え、私は軽く身なりを整えてから、階段を上がった。
「兄さん、入りますよ」
扉の前で軽く声をかけてからドアを開ける。
「話って、何ですか?」
覚悟は決めていたけど、心臓の音が自分でもはっきり聞こえる。
「えっと、その……結衣って、僕のことどう思ってる?」
一瞬、時が止まったように感じた。
私は目を閉じて、たっぷり数十秒、考えた末に答えた。
「心から愛しています」
(仕方ない。想定していた流れとは違うけど、ここにきて兄さんに嘘はつけない。
まさか兄さんの方から……いや、先輩たちかもしれない。だとしたら、どういう流れで?)
「やっぱりかー。僕もね、薄々感じてはいたんだよ。えっと、これは言えって言われたから言うけど──美羽からさ、結衣が変なことしないうちに、その気があるなら付き合えって。実は僕から告白しろとも言われたけど……あれ?でも、こういうのって言わないほうがよくない?」
「そ、そうですか……美羽先輩が……。いえ、むしろ納得できました。
……それより、肝心なことをまだ聞いていません」
心臓の鼓動がさらに強まる。
兄さんが一度深く息を吸って、私を真っ直ぐに見据える。
「正直にいうと……結衣はかわいいし、ちょっと好きになりかけてると思う。彼女だったらいいのにと思ったこともある。でも、妹だからやっぱり問題あるんじゃないかって……。だけど、その……ここで断ると、大変なことになるんだよね?」
(きた! やばい、やばいやばいやばいです……! これって、これって、そういうことだよね!? 顔が熱い、口元が緩む、どうしよう、変な声出そう!ここは冷静に返さないとっ)
「いえ、兄さんのお嫁さんが、二人か三人になるだけの話です」
言い終えた直後、変な間が生まれた。自分でも何を言ったのかわからず、喉が詰まりそうになる。頬は火がついたように熱く、口元はひくついたまま。兄さんの視線をまともに受け止めきれず、視線を泳がせる。
「え?なんで?? えっと、まぁとにかく──どちらにせよ、やばそうだから……その……結衣、好きです。僕と付き合ってください。」
(ああ、なんて甘美な響き……。兄さんの口から「付き合ってください」なんて……! 一番可能性の低いルートだったのに! 頭の中でその言葉が何度もリフレインしてる。これが、神に愛されるってことなのかもしれない。──でも、それではだめ。ちゃんと“未来”も手に入れないと)
「もちろん、付き合います。……けど、“結婚前提”じゃないとダメです。妹のわがまま、聞いてくれますよね?」
兄さんが目を丸くして固まる。
「え、それって……すぐ結婚とかってことじゃないよね? さすがに、まだ高校生だよ?」
「できるようになったらすぐです。その間に、お母さんとお父さんも説得します。
それとも……将来、私を振るつもりなんですか?
それこそ、大変なことになりますよ?」
兄さんが少し引き気味に笑って、ぼそりとつぶやいた。
「なんか、雰囲気がいつもと違う気が……こっちが素の結衣?」
私は目をそらして、頬を押さえた。
「う……その、いまさら“やっぱり無理”とか言われたら…………泣きますからね?」
一瞬、もっと強い言葉が喉まで出かけたが、どうにか踏みとどまった。
「それこそ、いまさらだと思うけど。なんか新鮮でいいかも」
兄さんが、照れたように笑った。
その表情を見て、たまらず駆け寄り、兄さんをぎゅっと抱きしめた。