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創られたイベント

 夏休みに入ってから、私は兄さんとふたりを遊びに誘うようになっていた。


 日帰りのキャンプにパジャマパーティー、海水浴やお祭り、ハロウィンに映画鑑賞――イベントがなければ私が創った。気づけば、予定は私の部屋で三人一緒に立てるのが当たり前になっていた。三人とも、私が言えば基本的に断らない。それだけの信頼と関係は築いてきたし、年下の私が仕切ることに違和感を抱かせない努力もしてきたつもりだ。


 美羽先輩も玲奈先輩も、一見正反対だけど、どちらも根は穏やかで、面倒見のいいタイプだ。 そしてそれが、今の私にとってどれだけ都合がいいか。

 ――もちろん、そのうえで、ちゃんと仲良くなるつもりでいる。


 当たり前だが、狙いはある。


 先に“みんなで”遊びに行くことで、不意なイベントの発生を未然に防ぐ。

 青春らしい思い出を共有すれば、みんなの満足度も高まるし、関係の空気もよりやわらかくなる。今のところ、手応えは十分だ。

 このままいけば、告白に失敗しても、二人を巻き込んでハーレムにしてしまうことだってできるかもしれない。――兄さんだって悪い気はしないはずだ。

 だって、たとえば……私が三人の兄さんに囲まれて一斉に求婚されたとしたら――すべて受け入れると思うから……///

 ……っ良い、この展開、今度ノートに続きを書こう。


 そして、11月23日の日曜日。

 今日は、美羽先輩と秋月先輩、そして兄さんと私の四人で、遊園地に行く予定だ。  

 目的は──兄さんとふたりきりでお化け屋敷に入ること。

 先輩たちと話しているうちに、どっちもかなりの怖がりだとわかったからだ。


 できれば、観覧車も二人で乗りたいが確実な手段はいまのところない。

 だが、現地での流れ次第で可能性が見えれば、少し動いてみてもいいと思う。



 朝はいつも通り兄さんを起こし、美羽先輩には早めに来てもらって、一緒にお弁当を作った。とはいえ、前の晩から下ごしらえしてあるので、おにぎりを握って、おかずを詰めるだけ。兄さん用に一つだけ大きいサイズのおにぎりも愛を込めて握った。


 秋月先輩とは駅で合流。そこから四人で電車に乗って、遊園地へと向かった。


 遊園地に着いてからは、まず軽くアトラクションをみんなで楽しんだ。笑って、叫んで、写真を撮って――心から、仲良し四人組としての時間を過ごす。


 昼食は持参したお弁当を園内の広場で。準備の手間も、自然な評価につながる。

 食後、兄さんが買ったソフトクリームをひと口、味見と称してぱくっと横から奪う。 兄さんは「おい」と言いながらも、特に文句を言うこともなくそのままにしていた。 甘くて冷たくて、少し嬉しかった……///


 食後、私はさりげなくお化け屋敷の話を出す。「怖いらしいですよ?」


 案の定、美羽先輩は少し不安げな顔をしたけれど、「みんなで行くなら、ちょっと入ってみたいかも」と言い出した。――それは困る。


 私はごく自然な声で、あくまで噂話として言ってみる。「ここ、本物が出るって話もあるらしいです」


 作戦は成功した。 二人とも顔をこわばらせて、やっぱりやめておこうかとつぶやいた。私は前から楽しみにしていたと言い、兄さんの腕をとってそのまま引っ張る。


 中では、驚いたふりをして抱きつき、腕を組み、声を漏らし、寄り添いまくった。

 普段の距離感では考えられない接触率。

 海もよかったが、これはこれで良い……///


 その後も、観覧車に乗る流れを自然に作る。

 個別に分かれるのは難しそうだったが、少し狭い座席のおかげで、まだ関係性が進んでいない二人は兄さんの隣を遠慮してくれた。


 私は何も言わず、当然のように兄さんの隣に座る。

 満足だった。


 私はスマホを構えて、「ふたりの写真、撮ってもいい?」と声をかける。

 二人は笑顔で頷き、私のほうを向く。私はタイミングを見てシャッターを切った。

 すると今度は、美羽先輩がスマホを取り出して、「じゃあ、こっちも撮ってあげる」と言い、兄さんとのツーショットを撮ってくれた。


 狭い観覧車の座席で、ぴたりと寄り添って撮られた写真――あれは、きっと大事な一枚になる。


 観覧車がゆっくりと空へ昇っていく。

 窓の外にはきれいな景色が広がっていて、私はそれをちゃんと目に焼きつけながら、そっと隣にいる兄さんのぬくもりを感じていた……///


 いまはただ、何気ないふりをしたまま、心も身体も熱を帯びていく時間だった。

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