一途なプラン
兄さんを愛している
それはもう、最初に出会った瞬間から決まっていた。
けれど、私はあくまで「妹」。たとえ血が繋がっていなくても、それは世間的に恋愛対象ではない立ち位置──同じ屋根の下で暮らすという莫大なメリットもあるが、基本的には“不利”だ。
結衣には、その不利な状況を覆すために用意した、二つの行動プランがある。もちろん、完璧とは言えず、予想外の事態が起こる可能性もある。
今日は、そのプランを見直す日。結衣は定期的に、現状と照らし合わせながら内容を更新している。
◆
第一プラン。
本命、理想の形。兄さんと自然に恋仲になり、最終的には結婚する。
そのために、日常のあらゆる場面で兄さんの隣にいる。食事、洗濯、目覚まし――すべて“自然な妹”として支える。
少しずつ距離を縮め、視線や仕草、声のトーン、軽いスキンシップで異性として意識させる。 最初は自然な形で、でも徐々に、それとわかるほどに露骨にしていく。
兄さんがどれだけ鈍くても、嫌でも私の好意を理解するように。
無視できない存在として、意識の奥に深く染み込ませる。
そして“いける”と判断した、その瞬間に告白する。
もちろん、判断以外にも告白する条件はつけているが、ほぼ達成している。
――兄さんが私を女性として意識していること。
――他の女性と明確な進展が見られないこと。
ただでさえ不利な立場なのだ。こちらから仕掛けなければ、何も始まらない。
待つことは、最も愚かな手段になる。
――ただし、肉体的な既成事実を作るような手は取らない。
それは兄さんの意思を尊重するためであり、私の愛は“強引さ”ではなく、“自然に選ばれること”でなくては意味がない。……もっとも、もし兄さんのほうから求めてきた場合は、その限りではない。 拒む理由など、どこにもないのだから。
関係が深まれば、大学卒業までに両親を説得し、兄妹から正式に夫婦になる。
このルートの将来設計は別冊にまとめてある。
問題は、万が一、告白して断られた場合である
その場合、私は絶対にあきらめないと、その場で兄さんに宣言する。
こうなった以上、本心を隠して行動するのは逆効果だと思う。
泣きながら兄さんに抱き着いて、困らせてやるつもりだ。
少しくらい感情的になるのは、仕方ない。
振られても一緒に過ごせるのは兄妹の強みだ。
そして、第一プランは一度終了と判断し、即座に第二プランへ移行。
◆
第二プラン。
※このプランはいまだ検討の余地あり。
内容はシンプル。兄さんが高校を卒業する前に、特定の彼女ができるように仕向ける――その関係を私が選び、導く。
もし兄さんが大学に進学すれば、人間関係や生活圏が急激に広がってしまう。
私の手が届かない場所で、知らない誰かと恋に落ちるかもしれない。
それだけは絶対になんとしても避けなくてはならない。絶対に。
だからこそ、今のうちに“選択肢”を限定する。
対象は、美羽先輩か、秋月先輩。
兄さんのそばにいて、私の目が届きやすく、そして信頼関係を築ける相手。
まず、兄さんとの関係性が良さそうなほうを見極め、対象を一人に絞る。
そしてその人に、兄さんのことをしっかり好きになってもらわないと困る。
この時点で時間は一年も残されていない。失敗の猶予など、存在しない。
だから私は、兄さんの魅力を全力で推して、とにかくその気にさせる。
同時に、その彼女とは信頼し合える関係を築いていく。
表向きは妹として、裏では同じ目線で兄さんの隣に立つために。
なぜなら、これから先の人生――私たちは兄さんを挟んで共に歩む可能性があるのだから。
そして、兄さんと彼女の関係が順調だと判断したとき。
私は静かに、すべてを明かす。
自分もまた兄さんを愛していたこと。
告白して振られたこと。
それでも気持ちは消えなかったこと。
続けて、懇願する。
「兄さんの恋人があなたでも、私も隣にいていいですか」
「兄さんを取り合うより、一緒に抱きしめた方がいいと思いませんか?」
「あなたと並んで、兄さんの“彼女”でいさせてください」
「私は、兄さんを愛しています。あなたも、そうでしょう?」
「ねえ、ふたりで、兄さんを幸せにしませんか?」
半ば脅しのように聞こえるかもしれない。けれど、それでもいい。
私は本気でその人と親友になったし、心から信頼している。
だからこそ、その関係に甘えて、最後の願いを託すのだ。
――今度は、ふたりで兄さんにアタックする。
恋敵としてではなく、共犯として。
抜け目なく、逃げ場を与えずに、じわじわと追い詰める。
うまくいくかはわからない、だけど、なりふり構ってはいられない。
文字通り、運命をかけたギャンブルになると思う。
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第三プラン。
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「本質」を忘れてはいけない。
理想は、もちろん。兄さんと、両想いで、夫婦になって、ラブラブで過ごすこと。
でも、それは“ベスト”なだけ。
“絶対に達成すべき目的”は、 兄さんのそばで生きること、そして兄さんと愛し合うこと。
そのためなら、他の女性が隣にいても構わない。
ハーレムであっても、共有であっても…。