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第二王子の“落とし物”を拾ってみようとおもいます

婚約破棄をし、注目の的となってから早1ヶ月。

周囲から向けられた視線は、落ち着きを取り戻しつつある。


晴れた午後、学園の中庭には、剣術選択組の訓練の気合いが響いていた。


 私はといえば、見学者として遠巻きに木陰から彼らを眺めていた。日傘を肩に、優雅なふりをして。


 だが、表情は引きつっていた。


 (剣術選択なんてするんじゃなかった……!)


 貴族教育の一環として、剣術も履修可能――とはいえ、選ぶのは大抵男の子ばかり。私、リリアナ・ヴェルシュタインは、前世の運動神経皆無OL。そもそも剣なんて握ったことすらない。


 なのにどうして剣術を選んだかといえば。


「『最近のリリアナ様、以前と様子が違いますわね』って、言わせたいだけなんだけどなあ……」


 努力アピールで周囲の好感度を稼ぎたい。それだけだった。


「やっぱり、もともとリリアナに備わっていた魔力を高めて好感度稼ぐべきだったかなぁ…」


 だが、思わぬ形で“彼”に目をつけられることになる。


 


「おーい、そこのお嬢さん。木の影でサボってるの、バレてるぞ」


 


 振り返ると、そこには剣を片手に肩へ担ぎ、朗らかに笑う少年がいた。


 金髪に無造作な短髪。制服のシャツは乱れ、胸元のバッジには“王家”の紋章――


 第二王子、レオン=アルフォードだった。


「……別に、サボってなどいませんわ。見学です」


「へえ? でも、その日傘、もしかして剣に持ち替える気ゼロじゃない?」


 からかうように言いながらも、彼は地面に落ちていたハンカチを拾って手渡してくれた。


「あんた、けっこう可愛いのにな。噂で聞いたほど怖くない」


「可愛い……?」


 思わず聞き返すと、レオンは「うん」と頷いて、いたずらっぽく笑った。


「最近のあんた、なんか面白いんだよな。目が死んでない。いいじゃん」


 どういう褒め方よ、それ。


 私はため息を吐きながらハンカチを受け取り、そっぽを向いた。


「……あなたも、暇そうですわね」


「おう。じゃあさ――俺と、手合わせしてくんない?」


「……は?」


 


 一瞬、聞き間違えたかと思った。


「だから、模擬戦ってやつ。俺と一回、剣で遊んでくれよ」


「遊びで決闘を申し込むなんて、王子の風上にも置けませんわね」


「なーに。俺のは王子らしからぬほうの王子だから」


 レオンは飄々と肩をすくめ、片手で訓練用の木剣を二本取り出した。一本を私に差し出す。


「嫌なら逃げてもいいよ? でも……そんなに綺麗な目してるのに、負けるのが怖いのか?」


 


 ……うわ、こいつ、自覚してやってる。


 わかってる。わかってるのに、私は剣を受け取ってしまった。


 


「負けるのが怖いんじゃなくて……あなたを見返したいだけですわ」


「おお、いいね。そーいう女、嫌いじゃない」


 軽口を交わしながら、私たちは訓練場の中心に立った。


 


 周囲がざわつく。


「第二王子が!? あの公爵令嬢と!?」「殺る気か!?」「え、あの子剣術ド素人よ!?」


 わかってる。そんなの、誰より私自身が。


 でも――


 


 (このまま“断罪エンド”に向かうくらいなら、剣一本で運命変えてやるわよ!)


 


「いきますよ、リリアナ嬢」


 レオンの声が低くなり、空気が一変した。さっきまでの砕けた笑顔は消え、剣士の目をしている。


 その構えに、私は本能的に緊張を覚えた。


 そして、踏み込み―――


 


 その瞬間だった。


 


 世界が、一瞬だけ、ゆっくりになった。


 


 レオンの左足が地面を蹴る軌道。肩の傾き。木剣の角度。


 危ない―――左下からの斜撃。避けなければ。


 


 頭で考えるより早く、私は体を横へ跳ねる。


 かすかに風が頬をかすめる。ほんのわずかに、私のリリアナの髪が舞った。


 


「……!」


 レオンの目が、確かに驚きに見開かれた。


 周囲が、息を呑む。


 


 私は自分の鼓動がうるさく響くのを感じながら、はっとした。


 今の動き……私ができるはずない。


 


 (……また、だ)


 


 ユリウスと話したときにも、こういう感覚があった。


 自分じゃ説明できないけど、世界がわずかに“遅れる”瞬間――


 


「お前……何者だ?」


 


 レオンの呟きが、妙に重たく響いた。


 


 私は、笑って答えた。


「公爵令嬢、リリアナ・ヴェルシュタインですわ。……たぶん、以前より少し強くなりましたの」


 


 第二の恋愛フラグは、この日、確かに芽吹いた。


 そしてこの“異能”が、王族の秘密と深く繋がっていくとは、まだ誰も知らない――。


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