力を使いこなすために休学しようと思います
あの騒動から、まだ三日しか経っていない。
だが、学園の空気は、妙に静まり返っていた。
魔喰いの暴走。
学園側はそれを「魔力系統の不整合による事故」として報告し、原因不明の魔力暴走により訓練場の魔力循環炉が不安定化、制御を失った生徒の魔力に周囲が巻き込まれかけた……という内容で、関係者に通達された。
表向きには、それで通った。
教師たちも生徒も、大半は「また貴族の子弟が無茶をした」と程度の認識だった。
だが一部の者たちは、知ってしまった。
ヴァレンティア学園の理事会の一部、王族直属の監査官、そして魔術院の長老会から派遣された視察団数名。
暴走の直後、彼らは「術式反応なし」「魔力の逆流」「詠唱を伴わない停止現象」という報告に目を見開いた。
「これは、“魔術”ではない」
「まさか……あれが本当に存在するというのか」
“魔喰い”という単語を記録に残さぬよう、彼らは即座に秘密保持命令を出した。
―――
リリアナは、執務室の一角で、王太子セシルと共に学園長と謁見していた。
その顔には疲労の色が濃い。
「……ヴェルシュタイン嬢。君の力は、もはや学園教育の範疇を超えている。通常の授業は、今日をもって一時休止とする」
「……処分、ということですか」
「違う。……保護と管理の措置だ」
学園長の言葉に、リリアナは小さく目を伏せる。
「力を、表に出せば、恐れと混乱しか招かない。だが……裏を返せば、適切に制御できるなら、世界そのものを守る楔になりうる」
「君は“秘密兵器”として生きろ、とは言わん。しかし、無知のまま生きることも、もう許されない」
セシルが隣で口を開く。
「……だから、特例を出した。
“王室直属の秘密訓練場”──本来、現役の王国魔導騎士か、皇族直系しか使えない場だ。
君には、そこの訓練許可が下りた」
リリアナは静かに目を開いた。
「……そこでは、私の力を?」
「そうだ。“魔喰い”は、通常の魔術制御術では扱えない。だが、禁書庫にあった記述を元に、王宮が動いている。
力を制御するための基礎理論を、いま構築している」
「そして……その訓練には、俺たち四人も協力する」
レオンがドアを開けて入ってきた。続いてユリウスとエミリアも。
ユリウスが微かに微笑んだ。
「君が危険にさらされて、僕たちが黙ってるとでも?」
「私も、ご一緒します! 魔力操作の面では、私、役に立てると思うんです!」
「……ありがと。ほんとに、みんなには敵わないわね」
それは、もう“ゲームの登場人物”としての反応ではなかった。
リリアナ=ヴェルシュタインとして、彼女の意思がそこにあった。
―――
数日後。
北の山岳地帯、王都から遠く離れた秘匿区域――“星見の谷”。
その地下深くに、魔導結界で多重に封じられた施設があった。
かつて、魔族との戦争で封印兵器の調整に用いられていたその場所は、今――
ただ一人の少女を迎え入れる。
「ここが……私の、これからの場所」
霧のような結界膜を抜け、深紅の石畳を踏みしめながら、リリアナはゆっくりと歩を進めた。
“力を恐れず、でも奢らずに、自分のものとして扱う”。
それは、英雄でも魔王でもない。
ただの一人の少女が、自分の運命を選び取る訓練の始まりだった。
背後には、レオンとユリウスが付き従い、
奥の制御盤には、セシルが立ち、エミリアが術式の最終調整を行っていた。
「"私"として生きる為に、生きていく為に、ここで力を制御してみせる。」
リリアナを、もう誰も“悪役令嬢”とは呼ばない。
その存在は、物語の中心に──そして未来に向かって、歩み出していた。




