【第6章】 SNSって、なんだったの?
未来人は、街のスクリーンに映し出される自分の制度を見つめていた。
未同調保存数、日々増加。
投稿は静かに熟成され、誰にも共有されず、
“残り続ける”ことには成功していた。
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だが──
それだけだった。
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人々は、問いを見て、
「深いね」と呟く。
「わかんないけど刺さる」と言う。
けれど、それきり。
その言葉で、人生が変わった人はいなかった。
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「たしかに、今までよりは静かでいいSNSになったと思うよ」
「騒がしくないし、傷つけ合いも減ったし」
「けど……何かが、足りない」
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未来人は、設計図を閉じた。
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「僕は問いを届けたかったわけじゃなかった。
きっと、“言葉で誰かの心が動く瞬間”が、ただ、見たかったんです」
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最後の投稿を、未来人は打ち込む。
「SNSって、何のためにあったんでしょうね?」
投稿モード:匿名・削除不可・反応禁止
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数日後──
誰もいいねを押せず、誰も拡散できなかったその投稿が、
なぜか街中の端末に映るようになった。
誰が保存したかも、もうわからない。
ただ、人々の間にこんな声が広がっていた。
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「……あの投稿、なんか気になってる」
「わかるとかじゃなくて……ずっと引っかかってるんだよね」
「“問い”って、なんか、忘れられないものなんだな」
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未来人は、街を離れた。
制度のない場所へ、設計図も残さず。
誰かに理解されることも、
共感されることも、もう望まない。
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ただ、ひとつの問いを置いて。
「SNSって、何だったんですか?」
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──今日も制度が、わがままでできていく。