【第5章】 問いが届いても、誰も泣かなかった
非共感型接続アーカイブ制度は、静かに稼働していた。
誰にも“いいね”されなかった投稿が、
そっと保存されていく。
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ある投稿:
「過去に置いてきた“自分”が、今も僕を見てくる気がする」
保存数:153
反応数:0
共有:禁止
状態:熟成済み
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未来人は、満足していた。
「これで、“伝わらなくても残る言葉”が制度的に保証されました。
人間の感情は、きっとこれをあとから追いかけてくる──」
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……来なかった。
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誰も、その投稿を話題にしない。
泣いた人もいない。感情が動いたログも記録されない。
“残った”けど、“揺れなかった”。
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未来人、初めて動揺する。
「制度で問いを保存しても、“震え”は生まれない……?」
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非共感保存者のひとりに話を聞いた。
「いや、残してはあるんですけど……なんか、“考えよう”って思って終わっちゃう」
「何回か読み返したけど、泣いたりは……しない、ですね」
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別の人も言う。
「うーん、深いとは思ったけど、
“深い”って思って満足しちゃうんですよね」
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未来人、沈黙。
問いが届いた。
伝わった。でも、感動にならなかった。
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彼は黒板に書いた。
「構造は届いた。だけど、人の心には沈まなかった」
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これは制度設計者としての敗北だった。
彼は全てを計算し、全てを整理した。
でも、「なぜか泣けない世界」が出来上がった。
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「問いって、“わからなさ”で届くけど、
感動は、“わかってしまった”瞬間に、ふいに来るんですね……」
【次章予告】
第6章:SNSって、なんだったの?
問いを整えた世界。共感のない接続。沈黙の価値。
でも、人の心を動かせなかった制度の果てで、
未来人がSNSそのものに問いを返す、最後の章。