4:いつもと違う……
いつもと違う髪色に、いつもと違う髪型、いつもと違う化粧に、いつもと違うドレス。
大きな鏡の前でくるくると回っては、いろんな角度で止まって見え方を確認。どこをどう見ても、皇帝の孫娘ローザには見えません。
「っ……最高じゃない!」
意気揚々と一般入口から夜会の会場に入ると、誰も私を気にすることなく会話を続けていました。
いつもは皇族専用の入り口からアナウンスされながら入場している。そうすると、全員が会話を止め皇族に対する臣下の礼を執るのです。そうすると、必ず聞こえてくるのが、わがまま孫娘が来たぞという囁き。
毎度毎度、噂話や悪口ばかり。飽きないのかしら? まぁ、飽きないからこそ止むことはないのでしょうけれど。
ふらりと入ってきたどこの誰とも知らない娘など誰も気にすることはなく、会場内のテーブルに並べられた料理をもりもりと食べていますが、いつもみたいに注目されません。
赤髪のローザのときは、お皿に盛った瞬間からはしたないとかなんとか言われていました。まぁ、それでも気にせず食べていましたが。
夜会に出された料理は半数が処分になります。手がまったく付けられていないものに関しては、使用人たちが持って帰ったりしていますが、それでも相当な量の料理や飲み物が処分されてしまうのです。
おじいさまに訴えても、悪習ではあるもののこればかりは威厳の問題もあるので、なるべく処分量は減らすが……と言葉を濁されがちです。
だから、私はいつでももりもりと食べるのです。
「どこのご令嬢かしら?」
「はしたないわね」
「どこかで見た気もするのだけど」
「まるでローザ様みたいね」
――――おっと。
いつものような行動はちょっと危ないかもしれませんね。ササッとお腹を満たして、いろんな方に挨拶でもしてみましょう。
会場内を観察しつつ歩いていると、いつもにこやかに話しかけてくださるプリージ侯爵夫人を発見しました。流石に話しかけるのはまずいかと目が合った瞬間にカーテシーをしましたら、睥睨しスイッと顔を逸らされてしまいました。
――――へぇ?
その後、数人の侯爵や公爵家の奥様方に微笑んだりカーテシーをしてみても、近づくことは一切許さないといった空気。声を掛けてくれる者などいもしませんでした。
上位貴族たちのプライドの高さに驚きつつ、会場内を見回していると、壁際に淋しそうに立ち尽くす金髪のご令嬢を発見しました。
夜会ではよく私の話し相手になってくれているチェスティ男爵家のドナータ様ですが、いつもは人に囲まれている印象なのだけど、今日はどうしたのかしら?
ドナータ様にそっと近づいてみると、私の顔を見て目を見開きました。この反応は気付かれてしまったようね。
「えっ……ロー」
名前を呼ばれる前に、サッと目の前まで近づきドナータ様の唇を人差し指でそっと押さえました。
「よく気付いたわね」
小さな声でそう聞くと、ドナータ様が輪郭や瞳の色、唇や鼻の形でと言われました。物凄い観察眼ね。ちょっと驚いてしまいました。
「それよりも、いつも一緒にいる子たちは?」
「……? あぁ……あの方たちは…………」
苦笑いと濁した言葉になんとなく嫌な予感がして、洗いざらい話してとお願いしました。すると告げられたのは、あまりにも人の心がない行いでした。