13:砲弾孫娘
夜会の翌日、おじいさまの執務室を訪れました。お母様にも来ていただいています。
「で? 緊急の話とは?」
「決めましたの、私」
「……な、何をだ」
おじいさまの顔が一瞬にして強張りましたけど、その反応はさすがに酷くないですかね? まるで私が爆弾でも投下するように。
……いえ、まあ、否定は出来ませんが。
「昨晩、アシュレイ様と結婚を約束しましたの」
「「はぁ!?」」
まぁ、さすが父娘ですわね、なんて褒め言葉は無視されました。アシュレイ様というのは、あのアシュレイ様なのかと聞かれても、どのアシュレイ様ですかね? コンラッド王国騎士団長のアシュレイ様ですけど、お二人のいうアシュレイ様はそのアシュレイ様ですかね?
アシュレイアシュレイアシュレイ言い過ぎて、ちょっとゲシュタルト崩壊気味ですわよ。
「いつの間に……」
「あ、そうそう、シラーヌ伯爵家のカスティ様とゲスナー侯爵家のクズミナ様に不敬罪の通達をお願いいたしますね。すっかり忘れかけてましたけど」
「待て待て待て、なぜそうなる」
昨晩のバルコニーでの出来事を、おじいさまとお母様に事細かにお話ししました。アシュレイ様のかっこよさまで余計に話してしまった気はしますが、まあいいです。
「あの娘らはあまりいい印象がなかったけど、そこまで頭が悪かったのね? ドナータにもうちょっと相手を見て付き合うように言いなさいな」
「面倒だったようですわ。商会での取り引きのこともありますしね」
商会としてさまざまな家と取り引きがあるので、好き嫌いのみで関わりを決めないのがドナータ様のいいところよね。利害関係と利益重視。分かりやすくていいわ。
「あぁ、そういうことか。まぁ、あれら程度が持ちかける利益なぞたかが知れているだろう」
今回のことでドナータ様にご迷惑が掛かりそうでしたら、私財や個人的な人脈からと考えていましたが、おじいさまが対応してくださるそうです。
まぁ、これも個人的な人脈の内ですわよね?
「そちらの処分を終わらせてから、私の身分を皇族の籍から抜いてくださいませんか?」
「なぜだ? 騎士団長をこちらに迎えればいいだろ」
おじいさまは皇帝だからこその、こういった考え方なのですよね。どの国よりも自国が一番優れているとナチュラルに思っていますもの。その自信は皇帝として大切な感覚ではあるのでしょうけど。
「アシュレイ様をこちらに迎えるとして、役職は? 騎士団長以下は許しませんけど? コンラッド王に忠誠を誓われていますので、コンラッド王国と絶対的かつ平等もしくはコンラッド王国に有利な同盟を組んでいただき、アシュレイ様はコンラッド王国に出向という形にしていただきま――――」
「皇族籍から抜く。あちらで幸せになりなさい」
言い終わる前におじいさまがスパッと決定されました。
「うふふ。ありがとう存じます。おじいさまのそういった思い切りのよさ、大好きですわよ」
「まったく……誰に似たんだか…………」
「ご自身とご自身の娘のお顔を見られては?」
「あら? 私はローザほど酷くないわよ?」
お母様は私ほど酷くはないけど、多少は酷いという自覚があるのですね。
おじいさまは眉間を揉みながら、私の籍をお父様のお父様――私からすると父方の祖父――の籍に入れる手続きを行うと約束してくださいました。
「それで、いつあちらに向かう? 帝国としての対応の希望はあるかの?」
「皇族だったことはアシュレイ様にはなるべく知られたくありませんので、単身で渡りますわ」
侍女だけは連れて行きたいですけど。そこは彼女次第ね。コンラッド王国は海を渡った向こう側の大陸ですし、移動には一週間程度掛かります。世界情勢によっては、帝国に戻れなくなることもあるかもしれませんし。
「まったく。だからローザは『砲弾孫娘』なんて呼ばれるのだ。やることなすこと、壁を貫く勢いで突き進む」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
「褒めとらん」
おじいさまが大きなため息を吐き出し、それを聞いたお母様がくすくすと楽しそうに笑われていました。
「とりあえず、希望はわかった。ただ、お前のワガママを全て受け入れるのは癪に障る!」
おじいさまが出した条件は三つでした。
・皇帝の孫娘だと自らバラさないこと。
・生命の危機以外でおじいさまを頼らないこと。
・素性がバレた場合は私を皇族に戻し、しかるべき手続きのち、アシュレイ様とともに帝国に住むこと。
おじいさまがその条件にした理由は、聞かずとも明確でした。私の命の安全と、お母様の命の安全、そしておじいさまの少しの愛。何よりも、帝国に住まうすべての人の安全のためです。
「いいな?」
「はい」
おじいさまとそう約束し、あのお馬鹿な二人に厳重な罰を与えたり、ドナータ様とお別れの挨拶をしたりと慌ただしい二週間を過ごしたあと、コンラッド王国に向けて出発しました。
昨日完結しました!
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