「魔王様は乱したい~聖女の転生して勇者に惚れてしまったんですが、どうにか魔王として人間に不和もたらしたい~」
ねぇ、聞いて、最近の魔王界隈では転生が流行ってるの。
あたしたち魔王って長いあいだ生き過ぎたから、割と似たような生活が延々と続いてることが多いのよね。
変化のない生活に膿んで人間界に手を出して死ぬことが多いんだけど、それを逆手に取ろうって話で盛り上がってるのよ。
転生の秘術を使って人間に転生して人間たちで遊びつつ違った日常で刺激を得ようっていうの。
いわゆるバカンスってやつかしら。
――というのを今、思い出したの!
あたしは勇者のパーティーの聖女。人間界に侵略してきた魔王を勇者たちと一緒に倒したのはいいのだけど……そうだ、あたしは魔王の転生体だったのね!
せっかくだから、魔王のあたしが死んだときに転生した記憶を思い出すようにしてたんだわ。
でもひとつ誤算があったの。
あたし――勇者に惚れてるわ。
孤児院で育った幼馴染で、聖女の力を得た私を助けるために勇者となって追いかけてきてくれたのだから、もう惚れこんでるわ。
いや、正直に言うと恋心なんて簡単に消せるとおもっ得たけど……ダメ、勇者の顔を見るたびに動悸が激しくなってまともに見られないわ。
やばい、最上位火炎魔法よりも体が熱く感じる……。
しかも、旅の間に勇者があたしをかばってくれたり、理不尽を相手に啖呵を切ったり、ねぎらってくれた記憶がたくさんあって、流れ込んできて、あたしはもう耐えきれない……あ、本当にやば――。
――どうやらあたしは本当に倒れてたみたい。
どうやら転生の衝撃と記憶に耐えきれなくなったようね。
少し落ち着いたわ。
よく考えると、この体が勇者に恋をしていたからと言って関係ないわ。
人間どもの英雄として凱旋し、少しずつ人間界の内部で人心を操作したり、呪いをばらまいたりして遊べばいい。
いえ、むしろ、魔王として人間を弄ぶ遊びこそが本来の目的のはず。
そこは魔王の意地――誇りとして達成させてもらうわ。
「大丈夫か!? 魔王を倒すのに披露がたまっていたんだな」
「はわ……っ!? はわわわわ……!」
しかし、起き上がったあたしの手を勇者ずっと握ってたの!?
途端、体温が上がり、顔から火を噴くと思ったわ。
さっきまで何を考えていたかなんて全く思い出せないの。
勇者の顔しか見えない。
「どうかしたのか? やっぱり熱が……」
「や、やめて、おでこをくっつけないで!」
私は思わず勇者の頬をはたいてしまったの
いま、勇者と接触したら間違いなくあたしは死ぬ、死んでしまうわ。
え、ずっと、この調子でいくの?
でも、魔王として意地もあるし……あたしはこの先、どうなってしまうの!?