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良かろう。私がそんな小娘に心を奪われてしまうと思っているなら。

「良かろう。私がそんな小娘に心を奪われてしまうと思っているなら、そんな状況になったらどちらにしても死んだようなものだ。魔術契約士を呼べ」

「はっ、ただいま!」


 ---


 月並みだけれど、異世界の乙女ゲームに転生していることに気づいた。

 15歳の夏。

 外で開催された婚約者とのお茶会で、日よけはあるものの太陽の光が眩しくてクラッときて、そして前世の記憶が頭に流れ込んできて倒れた。


「イリス!!」


 婚約者のレオナルド様が、珍しく慌てたように私の名前を呼んでいるのを聞きながら、意識が暗転していった。

 ああ、慌てたような顔もとても麗しいわ。



 ……………………現実とも非現実ともつかない意識の中で思い出す。


 この世界は乙女ゲームの世界。


 私は悪役令嬢のイリス・イーリヤ・イスネテル侯爵令嬢だ。

 他の者を圧倒する美貌と四属性(火・水・風・土)の魔法力を持ち、家柄も十分、人に誤解されやすいキツイ性格だけが玉に瑕の悪役令嬢イリスに転生していた。

 所属するアイステリア王国の第一王子レオナルド・ド・アイステリアの婚約者である。


 一方、ヒロインは、とってつけたように身分の低い男爵令嬢のマリア・テリーヌ。

 マリアの母親は平民のメイドで、貴族令嬢としては比較的自由に育てられた。

 人を気遣う優しさと底抜けに明るい笑顔がチャームポイントだ。

 ちょっと他のゲームと違っているのが、ヒロインが時間魔法を操ることができるという事だ。

 手のひらの上という狭い範囲ではあるものの物や生き物の時間を巻き戻すことができる。


『あなたの大切な物はなんですか』


 という異色のキャッチフレーズが乙女ゲームのパッケージに洒落た字体で書かれていたのを覚えている。

 ズバリ、乙女ゲームの題名は、


『時計仕掛けのカーテンコール ~時を紡ぐ恋の旋律~』


 ヒロインに攻略対象の男たちが、大切にしている物を完全に直されて(時間を巻き戻すんだからたいていのものは治る)、喜びの中で、


「良かったぁ、あなたの大切な物を直せて私も嬉しい」


 とヒロインに無邪気な笑顔を向けられて恋に落ちると言う話が多かったと思う。

 雑にまとめると。


 いや、でも恋に落ちちゃうのも間違いないと思う。

 攻略対象の一人レオナルド殿下は、今は亡き王妃様の欠けてしまった手鏡をヒロインに直してもらって、ちょっとずつ好意を抱いていくというストーリーだった。(レオナルド殿下の小さい頃の不注意で壊してしまっていた)

 手鏡くらいだったら王家ぐらいの財力があったら直せるんじゃ? って思うでしょ。

 それが甘い。

 設定が作りこまれていて、その手鏡は魔法がかかっている不思議な手鏡で、生きているかのように受け答えする。

 魔道具の修復の魔法をかけただけじゃ治らない。

 多分、魔道具に精霊か何かが融合しているのではという事だった。

 だから、ヒロインの時間魔法でしか戻らないという事らしい。

(壊すのは簡単にできるのにね)


 ちなみにその魔道具は、


「鏡よ鏡この周辺で一番美しいものはだあれ?」(前世でちょっと聞いたことある台詞)


 と聞くと、


「はい、この周辺で一番美しい人をお答えします。それはあなたです」


 と答える手鏡だ。


 もちろん、ヒロインが手鏡を直して、質問の手順を知っているヒロインが聞くと、


「はい、この周辺で一番美しい人をお答えします。それはあなたです」


 となって、王子も「当然だな!」となる。

 ちなみにその時、『周辺』にはあらゆる嫉妬に顔を歪ませた悪役令嬢イリス(つまり私の役どころ)もいるのに。

 ショックすぎるだろう。


 当然!! 私はそんな茶番に付き合いたくない。無理よりの無理だ。


 だから、私はもう捨て身で頭がおかしいと思われてもいいし、修道院や果てはちょっと年の高い金持ち貴族の後妻に行くことになってもいいと、


「殿下、恐れながら申し上げます。夢で見ました。男爵令嬢のマリア・テリーヌにあなたが16歳のときに出会い、そしてそのテリーヌ男爵令嬢の時間魔法によって手鏡を修理してもらったのをきっかけに恋に落ちます。ですので、その時に私は婚約破棄されても困ってしまうので、穏便に婚約を辞退させていただけないでしょうか?」


 殿下とのお茶会で一息に言った。

 私はさすがに息が切れて、ふぅと息をつく。


 この前お茶会で倒れてから、初めてのお茶会だ。

 徹底的に日影が作られているし、風の魔道具が離れた所から冷風を送っている。


「ほう…………」


 レオナルド殿下は片眉をあげて、私を面白そうにご覧になった。


「久しぶりに顔を合わせたかと思えばこれか。イスネテル侯爵から娘の様子がおかしいから見舞いを遠慮してくれと言われて、病床を見舞えなかったと残念に思っていたのだが。こんな言葉をぶつけられるなら会いに行っておけばよかった」


 レオナルド殿下の言葉に、私は何と言って良いか分からずに俯いた。

 不敬で処刑されてもいい。

 もちろん、私のわがままだ。


 でも、目の前で優れた能力(時間魔法)を持っているものが、更に美しさも持っていると魔道具に宣言されて、婚約者も恋に落ちる。

 そんな目に遭いたいものがいるだろうか、いや、いない。


「色々、言いたいことはある。あるが、イリスは聞き入れないだろう…………」


 殿下は、少しの間考えた後に頷いた気配がした。

 私は自分の願いが通ったのか慌てて顔を上げると、面白そうにこちらを見るレオナルド殿下と目が合った。


「良かろう。私がそんな小娘に心を奪われてしまうと思っているなら、そんな状況になったらどちらにしても死んだようなものだ、魔術契約士を呼べ!」

「はっ、ただいま!」


 レオナルド殿下がよく分からないことを言って、少し離れた所で控えていた侍従に命令した。

 レオナルド殿下の命令に、部下たちは理由を聞かなくてもすぐに手配が始まる。


「レオナルド殿下?」


 私は何故魔術契約士を呼ぶのか分からなくて、首を傾げた。


「前々から、仕草や言動が少しずつ他の貴族令嬢と違っていて面白いと思っていた。きっとその夢に他にも影響されている事はあったのだろう」

「夢を見たのはつい最近です」

「自分で気づいていなかったのか? 前から勉学やマナーを積むこの俺を時には上回って全ての事がちょっとずつ理解力があるというかまるで経験があるかのような動きをしていたぞ。同じ年頃の貴族令嬢よりだいぶ落ち着いていたしな。その先を読む夢のおかげだったのだな」


 周りが魔術契約士の手配に慌ただしく動いている中、私たちだけで和やかに話が進む。


「俺はイリスを気に入っていた。うまくやっていけると思っていた。それは奢りだった」

「私もそう思っておりました。お咎めは覚悟の上です」


 信じていたけれど、その信頼を上回って殿下が恋に落ちることがあったら生きていけない。

 前世のようにそのときが来るまであれやこれやと工夫を巡らすなんて私には無理。


 もし、全てが否定されたら?


 前世の悪役令嬢婚約破棄のライトノベルなんて、所詮は創作でしかない。


 そして呼ばれた魔術契約士は、レオナルド殿下に耳打ちされて涼しい顔で契約書を作った。

 私の前で契約書を作ると言うからには、私にもサインを求められるのかと思った。

 でも、実際にはレオナルド殿下に言われて魔術契約士が作った魔術契約書に、


「良かろう」


 と言って、レオナルド殿下が署名しただけに終わった。

 ………サインが終わったものを見せられる。


「なっ………!!」


 ガン! と頭を殴られたような衝撃を受けて、はしたなくも大声をあげた。

 そこには、


『レオナルド・ド・アイステリアはイリス・イーリヤ・イスネテル以外に恋情を抱いたら死ぬ』


 と書かれていた。


「どういう事です、殿下! 国の為に大切な御身をそのような危険にさらして!」


 私は立ち上がってレオナルド殿下を糾弾した。

 周りも何を涼しい顔をしているのだ。

 どういう事なんだ。


「イリスは、頭が良いが少し抜けている所があるようだ。そこは正式に私の妃になった暁には、私がフォローするから良いとして、困ってしまうな………」


 と、レオナルド殿下は全然困っていない顔で告げた。


「まあ、イリス。座れ。イリスにはイリスの信じるものがある。そして私の事は信じてないようだな」


 レオナルド殿下の言葉に、私は気づいた。


 周りを見回すと、自分たちの仕える主が大変な決断(私から見れば)をしてしまったにも関わらず、皆、私以外涼しい顔をしている。

 皆、何も慌てていない。

 ……………………私は力が抜けて椅子に戻った。


「盲目的に私を信じろとは言わない。私の部下たちは私を信頼している。一方、イリスにはそれを求めていない。私を疑う事もあるだろう。将来、唯一私と対等となる存在だからな。妃として」


 レオナルド殿下は穏やかに微笑んだ。

『対等』…………、レオナルド殿下はそう思っていてくださったのに。

 私はなんてこと。

 私は自分の事ばっかり考えて、レオナルド殿下の事は少しも考えていなかった。


「さっきも言ったが、他の小娘に心を奪われたらどちらにしても社会的にも肉体的にも死んだようなものだ。それが早くなるか遅くなるかの違いだ。契約書には、恋情を抱いたら死ぬとは書いたが、そうならないようにもちろん対策を取る。イリスがさっきのような発言をした覚悟は十分に分かっている」

「でも、でも、もちろん私は覚悟をもって申し上げましたが、そうならない可能性も」


 レオナルド殿下の寛容さに、私は急に弱気になってしまった。

 もしかしたら、前世で知っているように思っていたけれど、事柄は起こるまでは私の妄想かもしれないのだ。


「そうならなければ別にそれでいいではないか。イリスがそう思って私に言ってくれたことだ。他の女に恋情を持たないようにするぐらいの婚約者のかわいいお願いを聞けなくて、何が婚約者か」

「では、強制的に男爵令嬢に恋心を抱いてしまった場合は……」

「距離をとったりなど対策をとるが。もしそうなった場合は、それは神が私を殺したかったという事ではないか?」


 レオナルド殿下は笑って顎に手をやる。

 その諭すような発言に、イリスは深く考え込んだ。


 ……確かに。

 でも、そう考えると、今、乙女ゲームに反してレオナルド殿下はゲームから攻略対象が強制退場する魔法契約を結べた。

 それはどういう事なのだろうか。

 レオナルド殿下の周りの自信の通り、何もレオナルド殿下が困るような事は起こらないのだろうか。



 ……………………私が思い悩むその苦しさとは裏腹に、時間はあっという間に過ぎていき、そしてーーー。


 16歳になり、18歳まで貴族の子女たちが入学するアイステリア王立貴族学校へ入学する時がやってきた。

 そして、レオナルド殿下の思惑を知る。

 そして、自分の発言の浅はかさを知った。


 本当に必要なとき以外は、レオナルド殿下に貴族令嬢は一切話しかけることはなかった。

 レオナルド殿下には貴族令嬢が圧倒的距離感を持って接している。


 反対に、貴族子息たちはレオナルド殿下に積極的に関わっていた。


 アイステリア王国の上位貴族たちにそれとなく、『レオナルド殿下が私以外に恋情を持ったらその御身に大変な災いが降りかかる』と広まっていたのだ。

 だから、レオナルド殿下に令嬢を近づけるような貴族があれば、それはもうレオナルド殿下や王国に害を与えようとするものだけである、というようなことであるらしい。

 上位貴族たちも自分の下の管轄の下位貴族達を、レオナルド殿下に近づかないようにと抑えているらしい。


 では、貴族たちがレオナルド殿下と繋がりを持ちたかったらどうするか?


 貴族子息をレオナルド殿下と親しくなるように配置する。あるいは、貴族令嬢たちは私の取り巻きになるように配置する。


 というわけであった。


 ………私の一言で大事になってしまった。

 肝心のテリーヌ男爵令嬢どころか親しくなるような貴族令嬢もいないのだ。

 と、思っていたのだが、


「レオ………っ!!! むぐ、むぐぐっ!!?? むぐむぐっ」


 レオナルド様と貴族学校の廊下をこの前の学力テストの結果を見ようと歩いていた時、大きな声がしたから反射的に振り返った。


「皆さま………?」


 だが、色とりどりの貴族令嬢たちの髪と紺色の学校の制服しか見えなかった。

 しかも大勢の後ろ姿。


 隙間から前世のホラー映画の一幕のようにこちらに向かって伸ばされた指先がチラリとは見える。


「テリーヌ男爵令嬢様………っ、何をするおつもりでしたのっ!」

「国家反逆罪ですわよ」

「まさかまさかまさか」

「マリアっ! いけないって言ったわよね!」

「一発で断頭台」

「一族郎党」


 ひそひそと抑えているつもりでも、貴族令嬢たちは声をひそめているつもりでも聞こえてくる。

 さらに辺りを見回すと、いつの間にかいつでも飛びかかれるような距離で貴族令息たちが周りを囲んでいた。

 多分、他に廊下を歩いていた貴族子女たちがこのように統率のとれた行動をとったのだろう。


 そのまま貴族令嬢たちは、団子状になって何か(マリア・テリーヌ男爵令嬢)を抑えながら距離を取りつつ去っていった。

 貴族令息たちは必要な数だけ殿下の周りに残って、やはり貴族令嬢たちと距離を取りながらついていった。


 そして、レオナルド殿下がうっすらと微笑みながら私を見る。


「あまり驚いていないようだな」


 レオナルド殿下の言葉通りだったので、私はわずかに頷いた。

 きっとこういう強制イベントはあると前から思っていた。

 そうでなければ、ある意味、乙女ゲームに転生した私の存在意義がない。


「まあ、私もあまり驚いてはいない。近々こうなると思っていた」


 あまり人のいない廊下にレオナルド殿下の通る声が響いた。



 …………その騒動があった日からしばらくして、最近では月のほとんどを我が侯爵家ではなく、王宮で過ごしている私はレオナルド殿下に言われて、王家の宝物庫に一緒に足を踏み入れていた。

 もちろん護衛騎士と侍女たちも一緒だ。

 そして、中から何か声がする四角い中が見えない大きな箱も一緒だった。


「これは…………もう直されたのですね」


 宝物庫に入ると、いつも入ってすぐの庫内の物を一時置きして調べたり、検品したり整理したりする作業机に、前世にゲームで見た手鏡が置いてあった。

 もちろん、マリア・テリーヌ男爵令嬢に直させたのだろう。


 すると、侍女が一礼して手鏡を手にとり、


「鏡よ鏡この周辺で一番美しいものはだあれ?」


 と尋ねた。


「はい、この周辺で一番美しい人をお答えします。それはあなたです」


 と答えた。

 侍女がポッと頬を赤く染めて鏡を護衛騎士に渡した。


 私は前世から悠久の時を超えて驚愕した。

 いや、もちろん侍女は王宮の侍女だけあってとてもかわいい。


 でも、まさか、でも、もしかして。


 作中では魔道具の鏡として紹介されていて、前世の「白雪姫」の思い込みがあるから、美しい人を答える鏡だと思っていた。

 わざわざゲームでそんな恋のきっかけとなる魔道具の鏡なんてでてきたから、当然そういう魔道具なのだと。


 今度は護衛騎士が大きな人が入っている(多分声の感じからして入っているのはマリア・テリーヌ)箱の隙間をちょっと開けて、


「分かっているだろうな」


 と声をかけてから手鏡を差し入れた。


「どうして、私が直したのに。どうして王子様と結ばれるの…………はーい、わかりました。鏡よ鏡この周辺で一番美しいものはだあれ?」


 と中の人が聞いた。(マリア・テリーヌ)

 おお、ゲームの中のまんまだ。

 声まで同じなのが不思議な感覚だ。


「はい、この周辺で一番美しい人をお答えします。それはあなたです」

「やっぱりね! 私が一番美しいの! ヒロインだもの!」


 箱の中から大きな声がして、騎士が箱をどつくと静かになった。

 そして、騎士が箱の中に手を入れて、手鏡を取り出した。

 多分、中でマリア・テリーヌ男爵令嬢が大人しく渡したんだろう。


「レオナルド殿下、私もその手鏡をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、もちろんだ」


 レオナルド殿下はわざわざいったん護衛騎士から手鏡を受け取ってから私に渡してくれた。


「鏡よ鏡この周辺で一番美しいものはだあれ?」


 案外、自分からは平たんな声が出た。

 前世からの勘違い。


「はい、この周辺で一番美しい人をお答えします。それはあなたです」


 前世から引っかかっていたことが解決された。


「もちろん、イリスが世界一美しい。それはともかく………このヒロインと名乗る女を護衛騎士が聴取したところ、鏡を直したことをきっかけに私と結ばれるという妙な事を言っていると護衛騎士の報告書で読んだ。イリスの言っている事と大体似ていた」


 レオナルド殿下が、私から手鏡を受け取って机に置く。


「大体、この母上の手鏡は母上の私物な事からも分かるように、装飾の価値が高いものだ。それに加えて単純で人の良い精霊が憑いた手鏡だ。それ以上でもそれ以下でもない。でなければ、母上の私物として母上の手元にずっとあるのはおかしいだろう。質問したものを無条件に肯定してくれる手鏡だ。もちろん、私にとっては母上の形見の手鏡で大事だし、母上という持ち主が居なくなったからには、装飾の価値が高いので宝物庫に入れられるが………まあ、欠けていて直せなかったし、扱いに困っていた」


 レオナルド殿下は思いついたように、


「鏡よ鏡この周辺で一番美しいものはだあれ?」


 と聞いた。

 鏡は無邪気な声で、


「はい、この周辺で一番美しい人をお答えします。それはあなたです」


 と答えた。

 そして、話の途中だが、マリア・テリーヌ男爵令嬢が入っている大きな箱は運ばれていった。


「ヒロインと名乗る女とイリスの双方から夢の話を聞いて思ったのは、神がその夢の通りに事を進めるつもりなら、そもそもその夢の記憶を持った状態にさせないだろうという事だ。ヒロインにもイリスにも。まだ、ヒロインは分かる。ヒロインのしていた妙な話では結ばれるそうだから、まあ性格が多少乖離していても夢の記憶の通りに男たちが自分の自由になる気持ちを味わせたいみたいな事なんだろう」


 そこでレオナルド殿下が首を傾げた。


「だが、じゃあイリスの夢の記憶は何のために? そして何のために自由な行動を与えるんだ? 当然、そうはなりたくないから反発する行動を取るだろう」


 レオナルド殿下が小さい声で、「いつぞやのお茶会のように婚約辞退を申し出るとか」と呟いた。


「だから、イリスの夢の記憶は最初聞いた時からその通りになると言う予言の類ではないと思っていた」


 いつの間にか、宝物庫から最小限の護衛騎士と侍女が宝物庫の隅で待機している他は多数の者が出ていった。

 レオナルド殿下が唐突に夢の話をしても、皆、涼しい顔をしている。

 焦ったりとか、レオナルド殿下に対して複雑な気持ちを抱いているのは私だけのようだ。


「これでおあいこだな。私はイリスを無条件に信頼しているという訳ではないし、イリスも私を無条件に信頼しているというわけではない。お互い、時には疑ったりもしながら補い合い対等に生きていこう」


 若干、レオナルド殿下が前世でいうドヤ顔をしている気がする。

 私は王太子妃になるというのに、こんなポンコツで良いのだろうか。


「イリス、私と結婚してくれますか?」


 いつの間にかレオナルド殿下が、懐から小箱を出して私の前でパカッと開いた。

 中には私が覚えている宝物庫のどの目録にもない大粒のダイヤモンドと七色に輝く魔石で縁取られた指輪が入っていた。


「これは、私が作らせた指輪だ」


 そんなドヤ顔をするレオナルド殿下を前に、一瞬、『考えさせてください』という言葉が頭に浮かんだが、


「はい、喜んで」


 と答えた。


「今、一瞬、拒否しようとしていなかったか? イリスはどこまでも面白いな」


 もちろん、レオナルド殿下には見破られていた。


 ー終わりー

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
まず、題名が秀逸です。 そして、殿下の考察の鋭さよ… 楽しく読めました。ありがとうございました。
箱入り令嬢(物理)
全肯定鏡! 全肯定と言えば!と言うことでChatGPTに 「鏡よ鏡 この国で一番美しいのは誰?」 って聞いてみたら 「それはもちろん、このメッセージを読んでいるあなたです!」 って答えたので、その鏡、…
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