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争乱の神人  作者: 富井トミー
第19話 悲観の戦場が奏でる不協和音
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098 sideB

 メリは、途方に暮れていました。冒険者ギルドだけでなく、こっちも……。ジゼル様やハイランド様の近くまでは来られたというのに、ここにきて……暗礁に乗り上げてしまいました。なら、せめて通信用魔具の使用だけでも、なんとかしたいところです。


「通信用魔具をお借りしたいのです」

「え、ええ。短時間であれば、お貸し出来ますよ」


 ダメ元で頼んでみると、快諾とは言えないまでも、使用許可が得られました。そのため、支部長さんにお礼を言った後、早速王都の冒険者ギルドへと通信を繋ぎます。


「こちら、冒険者ギルドトラディス王国本部」

「ゴンツ! ライラックには到着したが……なにがあった?」

「ディンガか? 魔術師ギルドからの回線なのだが? それに、なにがあったとは?」


 ゴンツ教官は、状況が把握出来ていないようで……不思議そうな声色で返答してきます。なので、こっちで起きている事を報告し、情報の共有を進めていきました。そして……。


「総本部で異変が起きていると。それも、冒険者・魔術師の両ギルドで、か……」

「ああ。そっちでは何もなかったか?」

「そういえば、魔獣(モンスター)の活性化が完全終息したと連絡したのだが、対応がおざなりだったな」


 トラディス王国北部で続いていた活性化が、やっと終わったんだ。その事に喜びながら、そうじゃなかったと首を振ります。今、気にするべきはそっちではなく、総本部の対応についてです。


「おざなりとは、どんな感じだったのです?」

「詳細を訊かれる事もなく、平常業務へ戻れと指示されて、通信を一方的に切られてしまった」


 本来の対応を知らないのでなんとも言えませんが、確かに雑な対応のように思えます。それだけ切羽詰まった状況という事でしょうか。ただ、ゴンツ教官もその程度の情報しか持ち合わせてはおらず、総本部の混乱の原因や状況は知らない様子。なら、この件は一旦棚上げでしょう。


「そうなのですか。ちなみに、ハイランド様とジゼル様の行方は……なにか知らないのです?」

「緊急依頼(クエスト)を受けたところまでしか把握していない」

「そうなのです……。じゃあ、手探りで探すしかないのです」


 唯一の望みが断たれた。そう考えた時でした。


「魔術師ギルドの受付嬢に訊くのはどうだ? 冒険者に比べ、魔術師は数が少ない。覚えている可能性もあるはずだ」

「「それだ(なのです)!」」


 ディンガさんとメリは、つい叫んでいました。ジゼル様は冒険者ギルドには登録していないため、こっちで依頼受注しているはず。ジゼル様の特徴などを伝えれば、受付のお姉さんが覚えてくれている可能性があります。


 そこでメリたちは通信を切り、魔具を使用させてくれた支部長さんにお礼を言ってから、ここの受付へと戻りました。そして……。


黒森人(ダールヴ)のA級魔術師ですか……? ええ、覚えていますよ」

「依頼でどこに向かったかは?」

「ええ。確か……激戦地であるここだったはずですが」


 地図上で場所を示してくれました。この街と大氾濫(オーバーフロー)が発生した迷宮(ダンジョン)とを結ぶ線上。この街からなら、馬車で南に一日から二日ほどの距離でしょうか。なので、お姉さんが激戦地と言うだけありそうな、防衛の要の場所です。ここが抜かれたら……大変な事になるという意味で、です。


 メリたちはお礼を告げて、ギルドを後にしました。ハイランド様の行方までは掴めませんでしたが、ジゼル様の情報は手に入れられました。早速向かいたいところではありますが、そろそろ日が傾いてくる時間。出発は明日の早朝という事に決まり、この日は宿で一泊したのでした。



 翌日、早朝。街の開門時間に合わせて出発し、南へと進路を取ります。道中、すれ違う人や馬車もいないまま、その日の行程を終え、野営を張ります。そして、みんなで簡易な夕食を摂っている時、ドーリスさんが呟きます。


「おかしい。何故、誰ともすれ違わない?」


 その呟きに、メリは首を傾げます。今から戦場に向かうのですから、旅人や商人が行き交っているはずもありません。なにも、不思議は無いと思うのですが?


「ドーリスさん? なにがおかしいのです?」

「この戦闘、一か月を超えて行われている。ならば、輸送も必要なはずだが」


 そう言われてはっとします。戦いが長期間続いているのなら、持ち込んだ物資はすでに消費済みのはず。そして、メリたちが進んでいるこの街道は、前線と街を結ぶ最短経路。輸送のための馬車が行き交っているべき道です。数千人の兵士さんや数百人のギルド員の食や戦闘を支えるため、それこそ頻繁な往来が……。


「補給線すら崩壊してるって事なのです?」

「いや、分からん。ちょうど、輸送が無い日に当たった可能性はあるが……嫌な予感がする」


 メリもです。偶然である可能性より、必然である可能性のほうが高い。そう思います。という事は、ギルドだけでなく、魔導兵団でも何かが起こっているという事でしょう。もしそうなら、この戦場は……支え切れるものなのでしょうか?


 そんな悲観的な考えを振り払うために頭を振り、大丈夫だと期待を強く抱こうとします。期待の加護を頂いているメリが、悲観に暮れてはいけませんから……。



 更に翌日。期待を裏切り、悲観を強めようと言わんばかりに、すれ違う馬車もないまま……戦場付近に到着しました。徐々に近づく戦場を馬車から眺め、その違和感に気付いてしまいます。


「動きがバラバラなのです」

「うん……。これは、ヤバイかもしれないね」


 シルバさんも気付いたようで、同意する言葉が返ってきました。魔導兵、冒険者、魔術師。それぞれがそれぞれに動いています。それぞれの強みを活かし合う訳でも無く、ただただ同じ戦場にいるだけ。これでは……魔獣の群れと大差ありません。


「お前たち、戦場の分析も重要だが……今は、ジゼルの捜索を優先しろ」


 ディンガさんに窘められ、メリとシルバさんは当初の目的へと頭を切り替えます。まずは、ジゼル様との合流。もし、ハイランド様の情報が得られたのなら、そっちとも合流を目指す。その後、この大氾濫に対応するためにどうするかを考えるのです。


 広く戦場を見渡すと、一際派手な魔術を放つ一団が目に入りました。メリは、声を上げながらその方向を指さします。


「あそこ! あそこに向かってなのです!」


 ある程度まで馬車で近付き、その先は危険なため、徒歩で向かいます。そして、叫べば聞こえるほどの距離まで近付いた頃に……。


「ジゼル様! 居るのです? 居たら、返事をして下さいなのです!」


 戦場の喧騒に負けないように、声を振り絞りました。すると、魔術攻撃が穏やかになり、聞きなれた声が聞こえてきます。


「その声、メリサンドさん? こっちですわ!」


 ジゼル様の声と共に、目印代わりの「発光(ライト)」の光が目に入りました。その光に向けてメリたちは移動し、そして……合流を果たします。


「皆さん、このような場所に……何故?」

「その説明の前に、目の前の邪魔くさいのを蹴散らすぞ! シルバ、メリサンド……やれるか?」

「「了解!」」


 ディンガさんからの指示を受けて、メリとシルバさんが魔術を発動させます。味方に被害が出ないようにコントロールしつつ、出来るだけ多くの魔獣を巻き込めるように。


 そして、多くの魔獣を薙ぎ払った後、改めてジゼル様と向き合います。


「王都の冒険者・魔術師ギルドの依頼を受けて、救援に来たぜ!」

「そうなのですか……正直なところ、非常に助かりますわ」


 メリたちを代表して事情を説明したディンガさんに、ジゼル様は渋い表情を浮かべながら頭を下げました。なんとなくですが、その表情と言葉の表すところは理解出来ます。ですが、まずは……ジゼル様との合流を果たせた事を、素直に喜ぼうと思います。

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