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争乱の神人  作者: 富井トミー
第18話 期待を越えて向かう先
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094 sideA

 俺たちが王都を出発してから一週間が経過した。順調に進んでいく馬車ではあったが、まだ魔導国までは到達していない。それどころか……。


「ディンガ。今、俺たちはどの辺にいるの?」

「ん? そうさなぁ、この辺だな。やっと、一つ目の州を抜ける頃って感じだ」


 地図上で示された地点は、神聖国の南東のはずれの州。その一番上あたり。魔導国へと辿り着くまでは、あと五つの州を縦断しなければならないようだ。一つの州を五日で北へと抜けられるとしたら、神聖国を抜け切るまでは……二十五日ほど。まだまだ先は長いという訳か。ただ、今日中に到達出来そうな距離に、大都市を表すマークが描かれている。


「今日はここで一泊するの?」


 その大都市に指をさして問い掛ける。ここまでの旅路では、小規模な宿場町での宿泊ばかりだった。なので、久々の大きな街に、少し興奮してしまっているところだ。


「ああ。それにな、ここの街のギルドには通信用魔具がある。最新の情報を仕入れられるって訳だ」


 ここまでの宿場町にも、冒険者ギルドの支部があるにはあった。だけど、通信用魔具は高価なため、全ての支部に設置されている訳ではない。だから、通信用魔具のあるギルドに立ち寄る際は、ゴンツ教官へと通信を入れる事になっていた。


「ハイランドさんとジゼルさんの居場所……分かっているといいなぁ」


 仕入れたい情報の最優先は、二人の居場所。ハイランドさんの事だから、無事であれば王都ギルドへ連絡をしているはずだ。


「ああ。そうだな。旦那の事だから、その辺は抜かりなくやってくれてるはずだが……」


 とにかく、だ。まずは街に到着しないと何も始まらない。俺たちは新たな情報に期待しながら、馬車に揺られるのだった。



 予定通り、その日の内に街へと到着する。そして、冒険者ギルドに顔を出し、通信用魔具の使用許可を申請する。申請が通るまでに時間が掛かると思われていたけど、事前にゴンツ教官が手を回してくれていたようで、即座に使用許可が下りた。なので、支部長の部屋にお邪魔して、王都ギルドへと回線を繋ぐ。


「こちら、冒険者ギルドトラディス王国本部。……ディンガか?」

「ああ、ゴンツ。早速だが、最新の情報を頼むぜ?」


 挨拶なども無く、単刀直入に本題へと切り込む。ゴンツ教官も承知していたようで、すぐさま期待していた情報を口にする。


「ハイランドさんとジゼル氏の居場所が分かった。『魔導都市ライラック』だ」


 その言葉を聞いて、俺たちは一斉に地図へと目を向ける。そして、場所を確認すると、ディンガが通信用魔具へと声を放つ。


「了解した! それじゃあ、そこに向かうぜ!」


 これで話しは終わりだ。そんな雰囲気を放ちながらの言葉に、ゴンツ教官からの待ったが掛かる。


「待て! 伝えたい事はまだまだある。まずは……」


 それからは、ゴンツ教官が集めてくれた情報の数々が、俺たちへと与えられていった。その中でも特に重要なのは、主に三点。


 一点目は、ハイランドさんたちの動向。ライラックの冒険者・魔導士ギルドと協力し、大氾濫(オーバーフロー)に対処しているとの事。なので、ライラックへと向かえば、確実に合流できるであろう事も分かった。


 二点目は、戦況。初動でこそ押し込まれていたものの、現在は防衛線の構築が完了。魔導兵団とギルドが連携し、被害の拡大は抑え込めているとの事。ただし、それは魔導国内だけの話であり、周辺国には被害が拡大しつつあるとの情報も……。当然、北東で国境を接している神聖国にも魔獣(モンスター)は迫っているようで、このまま俺たちが進み続ければ、その最前線を突破しなければいけないであろうとの事だ。


 そして、三点目。大氾濫を起こした迷宮(ダンジョン)について。俺たちが出発した段階では、”どこの迷宮が”までは断定されていなかった。あくまで、出現魔獣種的に多分ここ程度の予想だったけど、それが確定されたらしい。しかし、その迷宮というのが……。


「洞窟型以外の迷宮も含まれてるじゃねぇか!」


 これまでの大氾濫の発生は、全てが洞窟型。それも、落盤を起こしての力業。だからこそ、今回もそうだと思い込んでいたんだけど、違った。


「そうだ。森林型に洞窟型などの環境型迷宮。それに加え、塔型や砦型の建物型迷宮も、だ……」


 ディンガの驚きの声に対して、ゴンツ教官は心底困ったような声色で答えていた。それも……無理からぬ事。だって、建物型迷宮と言えば――


 迷宮を大きく分類すると、環境型と建物型に分けられる。これまで俺が立ち入った全ての迷宮は、環境型。自然環境の一部が迷宮となっているもので、建物型と比べて遥かに数が多いのが特徴だ。一方、建物型というのは、数が非常に少ない。というのも、そのいずれもが大量のマナ流入量を誇り、建物型が一か所あれば……環境型数か所分を(まかな)ってしまうから。


 という事は、である。マナの流入が多いのだから、当然……魔獣の質と量は高く多い。要するに、上級と指定される迷宮ばかりという事だ。だから、俺は立ち入った事も無いし、上級冒険者になったばかりのディンガやドーリスであっても同様だろう――


 ただでなくとも厄介な建物型迷宮が……大氾濫を起こした。これがどれほど危険な事かは、この場の誰もが理解している様子。ただ、腑に落ちない点がある事もまた、みんな理解している。だから、俺は通信用魔具へと問い掛ける。


「どうやって、大氾濫を起こしたんでしょうか? 確か、建物型迷宮って……」

「そうだ。建物型迷宮の構造物は、絶対に壊せない。構造を変えようとしても、すぐに元通りに戻る」


 それが事実か確認するため、シロへと視線を向かわせる。それに気付いたシロは、ゴンツ教官や支部長に声を聞かせられないためか、しっかりとした頷きで以って返してくる。ただこれで、間違いない事実である事は確認が取れた。なら……何故?


 神々が創ったとされる迷宮の内、建物型は特に重要なマナ供給点。だから、およそ人が取り得る手段では……封鎖は不可能。もし可能だとすれば、神の力である魔法或いは権能といったところか。犯人が魔人である事を考えれば、魔法の線は消える。ならば、権能。ただ……どのような権能を使えば可能なのかは、全くもって不明。


 シロならばと思い、再度シロへと視線を向けるが、シロもまた考え込んでいるようで、理解不能な様子。とりあえず、この話は頭の片隅に留め置く事にして、今は原因を考えるよりも対応を考えるべきだろう。


 その後、溢れ出している魔獣種を聞き、その特徴や討伐方法などを共有した。そして、通信を切る。


「とりあえず、旦那たちとの合流を優先するか!」


 ディンガの声掛けに、全員が頷く。色々と考えるべき事はあるものの、まずはそれが最優先。その後の事は、その後で考えればいいだけだ。



 こうして俺たちは、北上を続けていった。通信用魔具のある街では、最新の情報を随時共有しながら進んでいき……そして、神聖国の北東辺境に到達していた。そこでは予想通り、魔獣と神聖国勢力の戦いが繰り広げられており、ここを突破しなければ魔導国へと踏み入る事は出来そうに無い。


「ディンガ、ここから先に進むには、やっぱり……?」

「無理やりでも、道を切り開くしかねぇだろうな」

「だよね……。だったら、俺とメリちゃんの魔術で一気にいっちゃう?」

「メリは準備万端なのです!」


 そして、俺たちは戦闘へと加わっていった。この期待の国を抜けた先、目的地である魔導国へと向かうために。


 だが、そんな俺たちの戦いの裏で、世界を震撼させるような大事件が起こっている事など、一切知る由も無かった。まさか、この大氾濫ですら……企みの始まりに過ぎなかったなどとは。

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