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争乱の神人  作者: 富井トミー
第18話 期待を越えて向かう先
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093 sideA

 俺の求めに応じ、シロは語り始めた。手始めに、今まさに俺たちが居るこの国の事を――


 神聖アンティス共和国。通称神聖国。国教として、期待と予期の女神アンティスを崇める事から、別名期待の国とも。この地に生きる国民の種族は幅広いが、主要な種族は森人(アールヴ)である。そのため、国土の多くに森が残され、その様子から森の国や森人の国といった呼称がされる事も。多くの国が森林地帯を開拓し、農地や宅地へと変えていってしまうため、稀有な存在だと考えていいだろう。


 ただ、森が多い=未開地という訳ではない。森人たちによって正しく管理された森は、多くの森の恵みを産出し、多くの森人の安住の地となっている。また、マナが滞留し易いとされる森であっても、森人の手によって管理されれば、魔獣(モンスター)の湧出もほとんど起こらない。なので、外敵――負側の国々――の脅威にさえ目を向けなければ、国内の治安は非常に良好と言える。


 そして、他の国々との大きな違いは、政治形態にもある。それが民主共和制だ。


 ほとんどの国が王政や帝政、地方の管理運営に貴族制を敷く中、この国では支配者という者がいない。国家運営を担う神聖会議、いくつもに分けられた州を運営する州会議。それらが、王や貴族の代わりの役割を果たしている。


 更に驚くべきは、会議に参加する者……議員の選び方だろう。投票によっての多数決的選任、選挙である。国や地方の行く末を左右する議員を、国民が選ぶ。これもまた、世界的にも珍しい事である。


 そのため、この国は正側随一の大国へと成長した。間接的とはいえ、政治に国民の意志……民意が反映されるのだから、王侯貴族に搾取される国の人々からすれば……とても魅力的なのだ。建国時には森人ばかりの小国だったこの国も、多くの人口流入と領土の平和的拡張を経て、多種族からなる大国へと変貌したという訳だ。


 しかし、その結果……問題点も多く抱えてしまう事となる。


 第一は、国防面での問題。領土が広がったがゆえに、多くの国々と国境を接する。それも、敵対陣営である負側の国がほとんど。その中には、怒王国のような好戦的な国も含まれており、頻繁な侵攻に悩まされているようである。


 第二は、政治スピードの問題。多くの種族が国民となった事で、議員の中でも派閥が生まれてしまった。派閥同士で意見が割れれば、会議での決定が遅れる。それが緊急の案件でなければ問題ないのだが、速さが求められる議題……例えば侵攻に対する防衛など、素早く動き出さなければいけない事であっても、即座に議決出来ないという苦悩。


 最後に、国の方針の問題。国教が期待の女神。国策としては、森の保全と専守防衛。小国だった頃から続くこの方針は、森人以外の人口が増えた事で揺らいでいる。信仰する神を自由にといった声や、他国に侵攻すべきという過激な発言。すでに、一部の森は切り拓かれて、都市が建造されている場合まである。……要するに、多様化が原因で国としての方針が徹底されなくなってしまったのだ――


 そこまでの話を聞いて、やっぱり聞いておいて良かったと思う。だって、俺の知っている情報と……いくつか食い違う部分があるのだから。


「もしかしてだけど……この国で、期待と予期の女神を信仰しなくなっちゃう可能性もあるって事?」

「限りなく低い可能性ですが……ありますにゃ」


 信仰への揺らぎもそうだけど、その他にも色々な変化がある。森の国であるこの国が、森林を破壊している事。森人の国であるこの国が、守りから攻めへと転じようとしている事。正直なところ、信じられない。


「シロ、冗談とかじゃなくって……本当の事なんだよね?」

「本当ですにゃ。この街道を進んだ先にも、木々を伐採して築かれた街がありますにゃ」


 俺の考えを先読みするように、地図を広げて見せつけてくる。森だったであろう場所に、巨大な街が存在する事を示す証拠を……。


「そっか。本当なんだね。じゃあさ、次は魔導国について聞かせて?」

「分かりましたにゃ」


 頷いたシロは、俺たちが目指している国の事を語り始めた――


 魔導王国ゼフィラント。通称魔導国。中立を国策としているから、国教は無し。神聖国同様に他種族国家で、最も多い種族は只人(ヒューマン)。世界一の国土面積と人口を誇る、超大国。魔導技術(魔具製造技術)の本流にして最先端。世界中に出回っている魔具のほとんどが、この国で作られた物だと言われている。当然だが、通信用魔具やマナ濃度計なども、である。


 ただ、それらは技術の一端でしかない。この国の魔導技術の真骨頂は、魔導兵団と魔導都市。魔導兵団は、魔導兵器で揃えられた最強の軍団。魔導都市は、魔具によって生活が支えられた高機能都市。これらの技術は他国へと譲渡される事は無く、ゆえに世界一の座を不動としている。


 こういった方針と中立を貫く姿勢に、他国……特に負側の国々からは、敵視され続けているとの事である。


 実際、大争乱の時代初期には、多くの負側の国々が攻め込んだようだ。中立を表明する国に対して、なんの躊躇もなく攻め込む事にも驚きだが……その結果が更に驚きだ。全戦全勝。一度の負けも無く、全ての敵を(ことごと)く屠った。そのため、各国に点在していたギルド総本部も、この国に本拠を移す事に決めたようだ。中立を貫く姿勢と、それを実行できる力があるこの国へと。


 そして、現在。世界一の大国という評価は、一切揺らいでいない。いずれの国も、この国を憎々しく思いつつも手出しができず、武装中立の方針は堅持されている。トラディス王国とは違う形で、平和を維持し続けているという事だ。……大氾濫(オーバーフロー)が起こるまでは、だったが――


「八か所同時とはいっても、魔導兵団と多くのギルド総本部があるんだから……大丈夫だよね?」


 魔導兵器。確か……魔導銃や魔導砲に魔導装甲といった、従来兵器を凌駕する兵器類。魔術並みの性能を誇る兵器群を、末端の兵卒に至るまで装備する魔導兵団。元S級冒険者がグランドマスターを務め、その他にも数人のS級を抱える冒険者ギルド総本部。同じく、元S級魔術師のグランドマスターが率いる魔術師ギルド総本部。世界最高の戦力が集結しているとも言える魔導国なら、同時多発大氾濫であっても……崩壊しないはず。


 それを確認しようとした問い掛けだったのだけど、返ってきた返事は……。


「分かりませんにゃ。それに……事実、いくつもの街や村が犠牲になっているにゃ」

「それは、不意を打たれたからじゃ?」

「そうだと思いますにゃ。ですが、裏に魔人が居る事を考えると、魔導国やギルドであっても……」


 確かに、脅威は大氾濫だけではない。魔人が本格的に動いているのだとしたら……。


 魔人ダスターは、最近まで神聖国の迷宮(ダンジョン)に居た。という事は、この大氾濫を準備し発生させた者は……別に居るはず。そして、それはやっぱり……魔人だろう。ダスターの行方は分かっていないけど、この騒動に合流しているとするならば、魔人が最低でも二人。大氾濫の規模を考えるなら、更に数人いてもおかしくはない。


 ダスター単体でも、恐ろしく厄介だった。”消失”の権能は、A級のハイランドさんですら反応出来ないほどの能力。それと同等の存在が複数いたら……確かにヤバイかもしれない。


「そうだね……。これは、急いだほうが良さそうだね」


 神聖国と魔導国の情報をあらかた聞き終え、その上で急ぐべきだと判断した。忘れていた訳じゃないけど、この騒動は管理者勢力が引き起こしているモノ。危機感を持って事に当たらなければ、きっと……後悔する。そう思えてならないからだ。

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