088 sideA
縄でグルグル巻きにした賊を満載した馬車と共に、王都へと帰還する。そして、ギルド門の職員に賊の引き渡しを完了させると、その足でギルドへ報告へと向かう。
「おめでとうございます! これで昇級ですよ! 昇級!」
「あ、ありがとうございます、キサラさん」
賊三十二人捕縛、逃亡ゼロ、殺害もゼロと報告した後、キサラさんから新たなギルドタグを渡されながら、祝福の言葉を掛けられた。これまでの渋い鉄色のタグも悪くはなかったけど、中級を表す銅色のタグも……これは、なかなかにいい色をしていると感じいってしまう。俺としてはやっとという思いだけど、他の人から見たら……。
「もう中級ですよ! 私が受付を任されてからで、ぶっちぎりの最速昇級です!」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。それも、一挙にC級までなんて……異例も異例ですって!」
予想通りというかなんというかだけど、タグにはC級冒険者としっかり刻印されている。それに、報告と同時に手渡されたという事は……事前に準備されていたという事。それはひとえに、俺たちが賊の取り締まり依頼を確実にやり遂げるだろうと、ギルドの職員も信じていてくれたという事だ。その信頼が、ただただ嬉しい……。
だが、喜んでばかりもいられない。現状は、一つの野盗団を潰しただけ。もらった情報をもとに作った王都周辺賊取り締まりマップには、まだまだ多くの野盗団のアジト推測地が書き込まれている。なので、この情報を冒険者ギルドでも共有して、早期に撲滅していかなければいけない。
「あの、キサラさん。賊のアジトがありそうな場所、いくつか目星がついているんですが」
そう言って、キサラさんへと地図を手渡す。そして、更にこう言う。
「この情報を、他の冒険者にも公開してもらえませんか?」
「それは可能ですが……多分、動く冒険者は少ないと思いますよ?」
「「えっ?」」
俺だけでなく、メリちゃんも驚いたように声を上げる。すると、キサラさんが申し訳なさそうに口を開く。
「現在は、迷宮内の魔獣掃討依頼に対して、割増報酬が出ています。なので、賊の取り締まりは報酬面でちょっと、という方が多いかと……」
「そういえば、そうでしたね……」
以前も思った事だけど、冒険者は職業だ。食い扶持を稼ぐための手段の一つ。そう考えている冒険者が大多数であり、俺たちやディンガたちのような考え方のほうが少数派。夢や理想、プライドでは、ご飯は食べられないという事だ。なので、魔獣活性化対策キャンペーン中であれば、より稼ぎやすい依頼に向かうのは……仕方がない事。
それに、賊の捕縛というのは、案外難易度が高い。迷宮の魔獣であれば、力任せに攻撃すれば済む話なのに、賊を捕縛するとなると……加減しながらの戦闘を強いられる。そして、相手が人というのも、より難易度を引き上げる。人は賢い。いや、悪人は狡賢いと言うほうが妥当か。……あの手この手で捕縛を免れようと抵抗してくるのだから、並みの冒険者では返り討ちに遭う恐れがある。
そして、一番は……賊の戦力の質と量。先ほど引き渡した賊の中にも、それなりに腕が立つ者が紛れていた。冒険者でいえば、CからD級程度の力量がありそうな。魔獣と違って一目で実力が測れず、集団内でも力量差がバラバラ。そんな者たちが、小・中規模の野盗団でも数十人と集まっているのだから……少人数でのアジトへの突撃なんて、正気の沙汰ではないのだろう。
「でしたら、引き続きシルバさんたちで、賊の取り締まりを引き受けていただけないでしょうか?」
キサラさんからの申し出に、一度メリちゃんへと視線を送る。即座に頷きが返ってきたため、俺はキサラさんへと視線を戻しながら言う。
「分かりました。引き受けさせてもらいます」
そう返事して、再び賊関連の依頼を受注する。ついでに、明日以降のレンタル馬車の予約も取っておき、ギルドを離れた。
そして、宿へと向かう道の途中。メリちゃんが呟く。
「世知辛いのです。森人の集落と違って、協力よりもお金なのです……」
「そうだね。でもさ、仕方がない部分でもあるよね? ここ王都と集落じゃ、人の数が全然違う。当然、人の数だけ考え方も、ね?」
「……はい。徐々に理解は出来てきたのです。でも、やっぱり……」
森住みの森人だったメリちゃんとしては、複雑なのだろう。みんなで力を合わせて、日々の生活を送る。そこには信じあう心だけがあって、対価を求めるものではない。そんな生活を当たり前としてきたのだから、大きなコミュニティでの金銭的に割り切った考え方というのは……すぐに馴染める訳もない。それに……。
「無理して染まる必要もないんじゃない? 俺やメリちゃんだけでも、利益度外視で動いたっていいと思うんだ」
「……いいのです?」
「いいのです! だからさ、明日からも……たくさんの賊を捕まえていこうよ」
メリちゃんは、とても綺麗な笑顔で頷いた。その顔を見ると、俺も嬉しくなってくるような……そんな、澄み切った笑顔だった。ただ、シロあたりがなんと言うかは不安だ。最近は別行動をとっている事も多く、この場にいないご意見番のシロ。愛の女神の分神でありながら、思考が妙に人間臭いシロの事だから……また、文句の一つも言われるんじゃないだろうか?
女将さんとロニャちゃんに今日の成果を報告しながら、夕食を摂る。明日からも頼んだよと、女将さんの顔に豪快な笑顔が浮かび、流石シルバさんですと、距離感近めのロニャちゃんの称賛を受ける。
そんな賑やかな夕食の最中、入り口ドアの開閉ベルが中途半端に鳴った。人であればもっと大きな音が鳴る。という事は、シロだろう。明日以降の予定について伝えたかった事もあり、俺は部屋で待っててと念じながら、シロへと視線を送る。理解してくれたかはさておき、シロが部屋へと向かったのを確認し、俺も夕食を摂り終えてから向かった。
そして、部屋で待っていたシロに予定等諸々を伝えたのだが……。
「そうですにゃ。では、ほどほどに頑張って下さいにゃ」
あまりに素っ気ない返答に、肩透かしを食らった気分だ。てっきり、割のいい依頼を受けるにゃ、とか言われると思っていたんだけど……。
それに、最近の別行動にも思うところがある。日中にどこかへ向かうだけならいいんだけど、夜間もどこかへ出掛けているようである。分神であるシロは食事も睡眠も必要がないとはいえ、夜もなにかしら行っているというのは……少々、不安になってくるというもの。これまではあえて訊かなかったが、流石にそろそろ把握しておくべきだと思う。
「あのさ、シロ。最近は昼夜問わず、忙しなく動いてるようだけど……なにやってるの?」
「情報収集ですにゃ」
「なんの?」
「あらゆる事の、ですにゃ」
うん、分からん。あらゆる事と言われてしまうと、具体性の欠片もない。ある程度の方向性だけでも、はっきりとさせておきたいところだ。
「例えば?」
「国際情勢や各ギルドの動きですにゃ」
「……それって、昨日の話と関係がある感じ?」
「大ありですにゃ」
どこでそれらの情報を得ようとしているのかは置いておいて、シロはシロなりの手段で備えてくれているという事だろう。負側の国の動きや魔人たちの動向を掴み、俺たちに足りていない危機感の部分を補ってくれているんだろうな……。だったら、これ以上は訊く必要ない。
「そっか。じゃあ、無理しない程度によろしく」
「主様も、万が一にも賊に後れを取らないで下さいにゃ」
無理しないようにと伝えたその日も、シロは真っ暗闇の中、どこかへと向かったようだった。とりあえず……危ない橋を渡っていない事を祈るばかりだ。




