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争乱の神人  作者: 富井トミー
第17話 決断
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087 sideA

 シロからの忠告を受けた翌日。依頼(クエスト)は受注済みのため、早速賊の取り締まりへと向かおうとしていると、女将さんから声を掛けられた。


「あんたたち、野盗を懲らしめに行くんだって?」

「はい。この魔獣活性化が収まっていないタイミングで、他の冒険者には申し訳ないんですけどね……」


 言葉通りに申し訳なさそうに言うと、女将さんはぶんぶんと頭を振って否定する。


「申し訳ない? 逆だよ、逆。商売人にとっちゃあ、ありがたい限りさね!」

「えっ?」

「そう驚く事かねぇ? なにも、魔獣(モンスター)だけが脅威って訳じゃないだろ? それに……」


 女将さんの熱弁は続く。どうも、ここ最近は賊の数が増えているようで、物や人の往来に影響が出ているんだとか。しかも、多くの兵士や騎士は国境城壁に詰めたままで、治安維持のための巡回は減る一方。冒険者は迷宮(ダンジョン)関連の依頼ばかりで、賊の取り締まりについては二の次。要するに、賊が跋扈(ばっこ)しやすい環境が整ってしまっていると……。


「じゃあ、商人とか旅人が困っているんですね?」

「そりゃあね。だから、商人ギルドに顔を出してみりゃあいい。いろんな情報が聞けると思うからさ」


 そう言われて、俺たちは頷きを返していた。俺もメリちゃんも、街道を歩き回って賊を探そうとしていたけど……それって、あまりにも無謀だったと思う。いくら賊が増えているといっても、偶然賊に出くわしたり、賊が襲撃している現場に居合わせるなんて……かなりの運任せ。……森人(アールヴ)の集落の経験から、賊は勝手に襲ってくるものだと思い込んでいたのが原因かもしれない。


 俺たちは女将さんに感謝を告げ、その助言通りに商人ギルドへ向かうのだった。



 そして、商人ギルドへ到着した。レイナ様の護衛として訪れた時と違い、出迎えなどは当然ない。なので、中に入ったはいいが……どこに声を掛けるべきかと迷ってしまっている。それはメリちゃんも同様のようで、二人してキョロキョロしていると……一人の女性が歩み寄ってきた。


「商人ギルド王都本部にようこそ。どのようなご用件でしょうか?」


 ギルドの職員らしき女性が、社交界でも通用しそうな流麗な所作で話し掛けてくる。どこかで見たような気がするその女性に、俺たちが来訪の目的……賊の情報が欲しい事を告げると、その女性は嬉しそうに微笑みながら言う。


「こちらとしても、ありがたい申し出。ギルド員から寄せられた被害状況などの資料、全て持ってこさせますわ」


 そう言って手を叩くと、他の職員が素早く駆け寄ってきて、その女性の頼みを聞くや否や行動を開始する。思い出した……この女性、ここのギルドマスターだ!


「ギルドマスター直々に話を聞いてもらえて、とてもラッキーでした」

「いえいえ、この件については……そろそろ本格的に対策を、と考えておりましたので」


 どうやら、商人ギルドでは喫緊の問題となりつつあるようだ。その後、資料が届くまでの間、延々と愚痴を聞かされる事となったのだ。


 そして、資料が届けられると、俺に手渡す間際にこう言う。


「何卒宜しくお願い致します。『S級喰い』のシルバ様」


 ハイランドさんの「閃光」、ジゼルさんの「黒炎」のように、最近では俺にも通り名が付き始めてしまった。といっても、冒険者や魔術師ギルド内限定で、だったはずだけど……流石は商人ギルドの長というところだろう。すでに把握済みのようだ。


「善処します。それでは、情報提供ありがとうございました」


 通り名で呼ばれた事が恥ずかしかった事もあり、俺は足早に商人ギルドを後にしたのだった。



 手頃なベンチに腰を下ろし、受け取った資料に目を通す。それぞれの襲撃地点や賊が去った方向、その他諸々。そういった情報を王都の周辺地図上に書き込んでいく。そして、完成した地図をメリちゃんと二人で眺める。


「こことここと、あとはそこ。きっと、アジトがあるよね?」

「間違いないと思うのです! 早速向かうのです?」

「ううん……一回、冒険者ギルドに寄ってこうか!」


 資料に書かれている情報的に、賊はどれもが数十人からなる野盗団。捕縛した賊を運搬するため、馬車を借りたほうがいいという判断だ。


 その事を伝えると、メリちゃんも同意してくれたため、キサラさんへと馬車のレンタルを申し出る。その際に……。


「あの、シルバさん? なにも……全員を捕縛する必要は無いのですよ?」


 そう言われた。確かに、依頼内容的に全員の捕縛は必須ではない。それも……賊が大集団だというのなら、尚更だ。手が届く範囲で捕縛し、無理なら追い散らすまたは……殺害もやむなし。そういった内容の依頼なのだ。


 だけど、俺としては全員を捕まえたい。当然、殺しもなしで、だ。それはメリちゃんも同じ気持ちらしく、俺たちは口を揃えてこう言う。


「全員捕まえます!」「全員捕まえるのです!」


 その答えに、キサラさんは「そうですか」と苦笑し、馬車を三台貸し出してくれる事となった。そして、借り受けた馬車と合流した俺たちは、王都を出発するのだった。



 王都から続く街道を少し進み、賊のアジトがあると思われる小さな森が見えてくる。馬車の御者にここで待つよう伝えると、俺たちは街道を逸れて森の中へと踏み込んでいく。ところどころに人が踏み入った形跡があり、そして……。


「罠だね」

「そうなのです。これは、間違いなく……アジトがあるのです!」


 侵入者を阻むための罠まで仕掛けられていて、ここにアジトがあると確信する。そこからはより慎重に進んでいき、周囲の気配にも気を付けていると、今度は……。


「声だね」

「そうなのです。この先に、アジトがあるはずなのです」


 木々に隠れながら気配を殺し、アジトと賊の規模を確認するために、更に進む。そして、発見。風雨を最低限避けられる程度の粗末な造りの小屋が数棟、外で見張りに立つ人数は数人程度。小屋の中の人数は目視では確認出来ないけど、聞こえてくる声の数的に……各小屋に五人、合計二十から三十人ほどか?


 いったん作戦を練るため、アジトから少し距離を置く。そして、メリちゃんにも意見を伺うと、だいたい同じような賊の規模の見立てで、提案された作戦は……。


「強襲なのです」


 作戦なのだろうかという疑問はあるものの、身に着けている装備や見張りに立つ賊の佇まいから、個々の戦闘力は低いと考えられるため……特別な作戦というのは不要。俺が斬り込み、メリちゃんが魔術で逃走を防止する。これで充分だろう。


「採用。じゃあ、サクッと捕まえちゃいますか」


 声を潜めながらも気合を入れ、俺たちは再びアジトへと迫る。そして、飛び出す!


 見張りに立っている男たちを、俺の剣や体術とメリちゃんの魔術が襲う。ちゃんと急所は外しつつも、あっという間に無力化完了。しかし――


「侵入者だ!」


 完全に意識を刈り取れていなかった男の一人が、大声で危機を知らせてしまう。だけど、俺たちとしては好都合。だって、動きが阻害される屋内戦闘より、自由に動ける屋外戦闘のほうがやりやすいからだ。それに、ドアを開けた瞬間を狙って、無防備な賊を次々に無力化していく。


 そして、半数ほどが伸びて寝ているような状況にまで陥ると、賊は――


「なんだコイツら! まともに戦っても勝機はねぇ! 散って逃げろ!」


 俺たちに背を向け、散り散りに逃走を始める。だが、そうはいかない。俺は「閃光」よりも素早い動きで、賊の退路に先回りして……制圧していく。メリちゃんは「黒炎」よりも精緻な魔術コントロールで、逃げる賊の背中へ……殺してしまわぬ威力まで落とした「風の球(エ・ボル)」を叩き込んでいった。


 こうして、この場の賊全員が捕縛された。こちらは傷の一つも負う事なく、賊たちも一人として死者は出ていない。控えめに言っても、完璧な結果だった。

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