085 sideB
ハイランド様とジゼル様が、ギルド総本部のある魔導国へと出発して数日が経ちました。ギルドマスター不在のギルドでは、忙しさの中に……どこか殺伐とした雰囲気を感じさせる事があります。というのも、何故二人が総本部に呼び出されたかというのが、噂によって広まってしまったからでしょう。
「なあ、聞いたか? ギルマス、敗戦の責任を擦り付けられてるらしいぜ? それも……怒王国の、だぜ?」
「聞いた聞いた! 訳分らんよな。命懸けで大氾濫に立ち向かってくれたのに……なんでだよ、って感じだよな」
冒険者ギルドの受付周辺では、冒険者同士でこんな事を話しています。そして、最終的には。
「「怒王国、マジで許せんな!」」
と、怒王国に対する嫌悪感をあらわにしています。その気持ち、メリも理解出来ます。出来るのですが……このままでは、非常によろしくないであろう事も。
このような話は、魔術師ギルドでも蔓延していますし、怒王国や負陣営の国への不満や悪口は、日に日に大きくなっていっています。それこそ、怒王国からの抗議にもあったように、正陣営側に寄っていると言われかねないほどにです。……ギルドというのは、中立組織。ギルドによって中立の考え方は違うようですが、どのような形であっても……一方のみを批判するというのは、とても危うい事のように感じるのです。
怒王国が今のギルドの状況を知ったら、どのような反応をするでしょうか。きっと、抗議の正当性を補強する材料として、声高にギルドを責め立てるのではないでしょうか。
「メリちゃん? どうしたの? 考え事?」
依頼の受注手続き中だった事もあり、シルバさんから心ここにあらずな事を指摘されてしまいました。そうでした。まずは、目先の事からコツコツと、です。大局的な動きは、それ相応の人たちが対応してくれているはず。なら、メリはメリの出来る事をこなしていくのみですね……。
こうして、この日も迷宮関連の依頼を受けて、迷宮へと向かうのでした。
ハイランド様たちが出発して、半月ほどが経ちました。その間、メリたちはいくつもの迷宮へと足を運んでいました。神聖国と怒王国の争いは終結し、大氾濫を起こした迷宮も順調にマナ散らしが進んでいます。ですが、争いや大氾濫によって増えたマナの影響は、未だに王国北部の迷宮の活性化を終息させず、楽観視出来るほどの状態ではないのです。
そして今日は、みなしD級であるメリやシルバさんだけでは立ち入る事の出来ない、C級迷宮へと魔獣の間引きに訪れています。という事は、です。
「シルバ! ドーリスと共に斬り込め! メリサンドは援護の魔術を!」
ディンガさんとドーリスさんも一緒です。といっても、ギルドへの登録上は別パーティのまま。臨時の合同パーティという扱いです。
いい加減、パーティを合流させればどうか。受付のキサラさんからは再三に渡ってそう言われていますが、今のところその予定はありません。というのも、メリやシルバさんは魔術師ギルドにも所属していて、冒険者一本のディンガさんやドーリスさんとは足並みが揃えにくい事。冒険者級に大きな開きがある事。そして、実力にも開きがある事……。
最後の理由については、メリやシルバさんは気にしていないのですが、ディンガさんやドーリスさんが一歩も引かない姿勢なのです。なんでも、過去に似たような事があったのだとか。ディンガさん曰く、「俺たちが足手まといになる日が、すぐにやってくる」との事。なので、正式にパーティを組む事はないのです。それに、どちらかと言えば保護者って感じでしょう。あれこれ助言をもらっていますし、今も――
「お前ら、いい加減昇級したほうがいいんじゃねぇか?」
あっさりと終わった魔獣との戦闘の後、ディンガさんからこう言われました。メリたちはD級へと上がるための必須依頼、対人戦闘を含む依頼を未だに受けていません。別に、対人戦に躊躇している訳ではなく、ただ単に迷宮関係の依頼から手が離せないだけなのですが……。
「でも、今は迷宮を回っていたほうがいいはずなのです」
「うん、メリちゃんの言う通りだよ。一つでも多く、迷宮の間引きを完了させたいからさ」
メリたちがやんわり断ろうとすると、珍しくドーリスさんが口を開きます。
「だからだ。正式にD級となれば、これまでの功績的にすぐにもC級へと上がれる」
確かに、それはそうかもです。そうなれば、今回のようにドーリスさんたちに同伴してもらわなくても、メリたちだけで回れる迷宮が増えるとは思います。ただ、この大氾濫や活性化の後始末に忙しいタイミングで、自分たちの都合を優先するのも……気が引けます。
「でも、みんなが迷宮へと向かっているのに、メリたちだけ抜けるのも……」
申し訳なさそうにそう言ってみると、ディンガさんとドーリスさんが首を横に振りながら言います。
「おいおい、お前たちが数日居ないくらいで、すぐに大事件! なんてこたぁねぇよ。抱え込みすぎんなよ」
「それに、実力ある中級冒険者が増える。その事のほうが重要だ」
そう言われてしまい、メリやシルバさんも考えを改めます。そして、決めました! 次の依頼は、賊の取り締まりにしようと……。
間引きの依頼を終えたメリたちは、ギルドへと帰還しました。手早く完了報告を済ませた後、メリはキサラさんに問い掛けます。
「あの……賊の取り締まり関係の依頼はあるのです?」
唐突に訊いたはずなのに、キサラさんは待ってましたとばかりに、数枚の依頼書を差し出してきます。あまりの準備のよさに若干引いていると、笑顔でキサラさんが話し始めます。
「やっと、昇級を考えて頂けたのですね。S級魔獣討伐や大氾濫への対応等、充分過ぎる功績が溜まりに溜まっていますので」
この対応を見るに、ドーリスさんの言う通り、一挙にC級まで昇級する可能性が高そうです。問題があるとすれば、ギルドマスターであるハイランド様が不在な事ですが……。
「キサラさん、ハイランドさんがいないけど……昇級って出来るの?」
今のギルドの空気……怒王国憎しの中、渦中のハイランド様の名前を出すのを躊躇していたメリに代わり、シルバさんが気にも留めずに問い掛けました。こういうところ、流石だと思います……。そう感心していると、キサラさんも事務的に返答します。
「はい。C級まではポイント制。マスターの認可が無くとも、所定の功績ポイントを積み上げて必須条件を満たせば、自動的に昇格です」
こっちも流石です。受付らしく、必要な事を必要な分だけ淡々と説明してくれました。ただ、ここで気になる事が一つ。それを確かめるため、今度こそはメリが口を開きます。
「必須条件は、C級にも存在するのです?」
「いえ、D級の対人経験の次は、B級まで飛びますね」
B級という事は、今は気にする必要がなさそうです。ハイランド様が不在であるため、しばらくは昇級の機会がありませんから。ですが、一応訊いておきましょう。
「ちなみに、その条件はなんなのです?」
「活動実績のある国の数ですね。最低でも二か国での活動が必須です」
「「えっ?」」
つい、シルバさんもメリも、驚きの声を上げてしまいました。要するに、ずっとこの国で活動していては、C級止まりという事……。なんで、そんな条件が?
「一つの国にとどまり続けるのは、駄目な事なのです?」
「いえ、駄目という訳では……。ですが、B級というのは上級冒険者。与える影響力も大きいので、その、なんと言いますか……」
とても言いづらい事のようで、キサラさんは言葉を濁してしまいました。そして、足元ではシロ様がなにやら考え事に夢中なようです。一体、なにがあるというのでしょうか?




