082 sideC
主様だけでなく、ここにいる者たちは……知っておくべきでしょう。私の予測している管理者……いえ、”世界”についての様々な事を。
「まず、魔人が管理者と呼ぶ存在からにゃ。……それは、世界そのものにゃ」
この場の全員が、首を傾げています。そうでしょうとも。この世界の成り立ちを知らなければ、ただの妄言にしか聞こえないはずです。
それでも、無理やりに理解しようとしたメリサンドが、問いを口にします。
「この世界って……意志を持っている存在なのです?」
「いえ。そんなはずはありませんでしたにゃ。私たち神々が創り上げた世界は……」
ただの概念だったはず。マナが漂うのみの空間、そこに大地を創る際に、様々な法則……”理”を与えていった。その理の集合こそが世界だと、私たち神々は認識しています。なので、意志や感情を持ち合わせているはずが無いとも……。
「なのに、シロ様は世界そのものが管理者だと言うのです?」
「はい。神は全知全能ではないにゃ。思っていた通りの結果にならない事は、ままあるにゃ」
神の思い違いの代表的な例は、魔獣の発生でしょう。マナをただの便利な”なにか”と認識し、この大地に満ちさせた。結果、魔獣という存在が生まれる事となりました。全知であれば、マナを遮断した世界を創っていた事でしょう。全能であれば、マナの流入口である迷宮を……即座に封鎖、消滅させていたでしょう。ですが、知らず出来ずにいた事で、最初の大氾濫の時代が始まってしまったのです……。
「その思った通りでない事の一つが、世界が意志を持ったって事なのです?」
「ええ。推測の域は出ていませんが、そう考えれば納得出来ますにゃ」
理の集合……言い換えれば、理の管理者。とてもしっくりきます。そして、魔人ダスターは、主様の話では”消失”の権能を与えられているとの事。この権能というものは、理を超越する力。私の”癒し”の権能であれば、傷があった事すらを覆す事が可能。これは、時間を遡行しているようなもので、時間は絶え間なく進んでいくという理を覆しているのです。そういった超常の力である権能は、理を管理する存在が意志を持ったのなら……神々同様に授与が可能だと考えます。
「じゃあ……世界が意志を持った理由やきっかけは、なんだと思うのです?」
「それも、断定は出来ないですが、マナが関与している可能性が高いにゃ」
神ですら全容を把握していない”なにか”。それが……マナ。この世界の外の空間から無限に流れ込むそれは、視認する事が出来ず、重量のようなものもありません。ですが、魔術や魔法という形で役割を与えれば、物質に変じたり、様々な現象を引き起こす。……とても便利で、とても謎の多い”なにか”です。
そして、これまで神々が予期できなかった事の多くに、マナが関わっている。その謎が多いという不透明性と、あまりにも多様な働きをするという万能性から。なので、世界が意志を持つ事になったきっかけは、マナだったのではないか。そう考えるのです。
「マナが……なのです? 魔術の源であるマナが……」
ことさらマナに思い入れのある魔術師メリサンドは、ショックだったのかなんなのか……その言葉を最後に、黙り込んでしまいました。その代わりというように、次に口を開いたのは筋肉小男でした。
「じゃあよ、この世界自体が管理者だったとして……倒せるんですかい?」
「多分……無理にゃ」
理の集合が意志を持ったのだから、そこに姿形は無いはず。それにもし、存在を消し去ってしまえば……この世界は崩壊するでしょう。理という万物の法則が消え去る訳ですから、動植物は死滅し、大地や海も形を保つ事さえ困難……。
この”世界”=管理者=理の集合という仮説が現実であれば、負の神々よりも厄介な存在と言えます。だって、打倒する事はおろか……存在を捕捉する事さえ難しい。ゆえに、対応は後手に回る事しか出来ず、交渉というテーブルを用意する事もままなりませんから。
「……じゃあ、どうするんですかい?」
「最もマシなやり方は、魔人……管理者の手足となる執行者を潰す事だと思うにゃ」
仮説が正しいのであれば、神々同様……地上への干渉は限定的。その意志を遂行する魔人を排除する事で、大きく動きを制限出来るはずです。
「そうですかい。あの恐ろしくヤバい魔人を……」
メリサンド同様、筋肉小男も黙り込んでしまいました。魔人ダスターの事を考えれば、並みの人間であれば……恐怖しかないでしょう。主様だから勝てたのであって、それ以外……神人や加護持ち、S級冒険者であっても、遭遇すなわち死と言えるほどの強さと危険な権能を持っています。なので、筋肉小男が黙り込んでしまうのも、無理からぬ事でしょう。
そして、トカゲ男は聞く姿勢を崩さない様子。ならば、本題へと移る事と致しましょう。
「主様、ここまでの予想……どう感じましたにゃ?」
「え、ううん……。合っているかどうかは分からないけど、否定できる部分も無い感じかな」
「……それでは、主様の記憶との関係性。そちらに話を移しますにゃ」
「お願いするよ」
そうは言ったものの、どこまで話す事が出来るでしょうか……。ここから先は、制約と大きく関わる部分。慎重に言葉を選ぶ必要がありそうです。
「では、最初に結論から言いますにゃ。キング格の魔獣を倒す事で、主様を縛る制約が……緩んでくるにゃ」
「制約が……?」
「そうですにゃ。この制約は、神々……いえ、負の神々が創り出した最後の理ですにゃ」
「負の神々が……?」
……この制約、案外ガバガバですね。主様の正体、何故そうなったかの理由や経緯……そういった事に触れなければ、そこそこまで話す事が出来そうです。ここは、杜撰な負の神々の仕事に感謝しておきましょうか。
「はい。なので、理の管理者の手先を主様が討伐する事で、主様を縛る理が解けていくと推察するにゃ」
「そんな事……あるの?」
「普通は無いと思いますにゃ。ですが、起きた事と照らし合わせると……それ以外の理由が浮かびませんにゃ」
「……確かにね。偶然にしろ必然にしろ、因果関係を説明するには……妥当な気がするね」
確証はない。そうなる理由も説明出来ない。偶然なのか必然なのかも不明。ですが、現状で説明するのなら……この説が唯一、矛盾を生じさせないと思われます。ただ……。
「ですが、キングが感情を糧に強化された事、主様がその感情に引っ張られた事……。これらは、全くもって不明ですにゃ」
「そっか……。シロでも分からないか。じゃあさ、俺が”消失”を見破れるのは?」
”消失”の権能。働きだけで言えば、畏怖の神オウの権能”隠蔽”によく似ています。ですが、”隠蔽”は視認を阻害するのみであり、動けば音が出て、歩けば足跡が残ります。ですが、あの魔人の権能は、文字通り消失。存在自体が限りなく希薄になり、視認はおろか……その痕跡すら発生しません。それを感知できるという事は……まさか!?
「主様の本来の権能……! くっ、これ以上は制約に掛かるようですにゃ……」
「言葉には出来ないけど、理由は思い当たるって事?」
「はい! それどころか……キングの憎悪に引っ張られた事も、納得出来ますにゃ!」
「そうなの? まあ、理由があるって分かっただけ、俺としてはありがたいよ」
伝えられないのが歯痒い! ですが、このまま制約が緩んでいけばいつかは……。そんな事を考えながら、私は仮説の披露を終えました。
そして、馬車が王都へと到着すると……事態が大きく動いていた事を知る事となったのです。これが管理者と呼ばれる存在の陰謀か、負の神々が遂に主様の存在に気が付いたのか。それすら分からぬままに……。




