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争乱の神人  作者: 富井トミー
第16話 皮肉な結果
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 城壁へと帰還したシルバたち一行を待っていたのは、城壁下で起こっている激しい戦闘だった。


 攻め寄せるゴブリンの群れに対し、王国軍が守備の陣を敷いてこれに対抗。城壁上からは、冒険者や魔術師が援護攻撃を行っている。オーガが攻め手に混ざらなくなったため、野戦を選択したという事だろう。


 そして、戦況はというと、王国軍が優勢。国軍と北部貴族軍の合流部隊だとはいえ、指揮統率は徹底されており、組織的な戦闘によってゴブリンをすり減らしていっている。


 その様子を眺めていたシルバたち一行は、どうするべきかを話し合っていた。


「こりゃ、加勢は不要そうだぜ。だがな、戦闘が終わるのを待ってるだけってのもな……」

「メリとしては、背後からの強襲がベストだと思うのです」


 戦況は味方が優勢。待っていれば、じきに戦闘は勝利で終わるはずだ。しかし、一仕事終えてきたとはいえ、なにもせずに待っているというのは気が引けるのだろう。そこで、提案されたのが奇襲。位置関係的に、シルバたち一行はゴブリンの群れの後方に位置しており、絶好の奇襲機会が目の前に広がっている。ならば、攻撃するべきではないだろうかという事だ。


「俺もメリちゃんに賛成だけど……がっつり戦わなくても、後ろから軽くつついてあげるだけでも充分じゃないかな」

「そうですね。シルバ君の言う通り、背後にも戦力が居ると思わせるだけでも、魔獣(モンスター)は大混乱に陥るでしょうね」


 あくまで手助け。敵方の結束を乱す事で、王国軍に決定的な好機を与える。そして、王国軍に花を持たせる。自身らが消耗している事以上に、プライド高い軍を立てる事ゆえの発言であろう。後々、面倒事にならないためにも、必要な配慮という訳だ。


「うし! だったら、ゴブどもを後ろからつついてやろぜ!」


 こうして、シルバたち一行は、背後からの奇襲攻撃を敢行した。そのお陰か、ゴブリンの群れは大混乱。その好機を逃す事なく、王国軍の攻勢が始まり……戦闘は圧勝という形で幕を閉じたのである。


 そして、城壁上にある国境守備軍の詰め所へと帰還した一行は、守備軍隊長に報告を行っていた。


「『大鬼の巣窟』周辺のハイオーガ及び、迷宮(ダンジョン)内のグレート、キングの討伐を完了しました」

「やはり、作戦を成功させていたのですね。第二陣の攻勢に、オーガの姿が見当たらなかったのも……そのお陰でしたか」


 ハイランドの言葉に、隊長は安堵の表情を浮かべていた。だが、ジゼルが発した次の言葉に……隊長は、表情を険しくする事となる。


「ええ。ですが、オーガキングを従える者……魔人を自称した男は、取り逃がしてしまいましたわ」

「キングを従える……? 魔人……?」


 状況を掴めてはいないのだろうが、隊長は事の重大さだけは理解しているようで黙り込む。そんな隊長へ、ハイランドは提案する。


「隊長殿、通信用魔具をお借りしても良いでしょうか? オーガキングの討伐完了と魔人の出現……いち早く情報を回す必要がありますので」

「え、ええ。どうぞご利用ください。……この件は、王国だけの問題に収まらない案件でしょうし」


 軽く頭を下げたハイランドが、通信のために席を外す。その後を引き継いだジゼルは、作戦の状況を隊長へと共有していく。そして……。


「指揮権はもうしばらく預かっていて下さいませ。私たちは一晩の休息の後、怒王国の『小鬼の巣窟』へと向かいますわ」

「はい。承知しました。ですが……そこまで急ぐ必要があるのでしょうか?」


 複雑な表情で問い掛けてきた隊長の意図は、この場の誰もが理解していた。あれほど自分勝手な申し入れをしてきた国の大氾濫(オーバーフロー)を、迅速に対応する必要があるのか。そう言いたいのだろう、と……。


 だが、この場の隊長以外の者たちは、一様に微笑みを浮かべていた。その微笑みの理由を、代表者であるジゼルが口にする。


「ええ。怒王国の上層部は気に食いませんわ。ですが、罪なき民に被害が及ぶ事を考えれば……ギルドは動かなければなりませんの」


 その言葉を聞いた隊長は、申し訳なさそうに頷いた。そして、言う。


「そう、ですね……。余分な事を口走ってしまいました。我々軍人も、民を護るための盾。ですが、その範囲は自国の、と限定されるがゆえの発言でした」

「分かっておりますわ。国に所属する者とギルドに所属する者。それぞれにそれぞれの考えがある事は、しっかりと……」


 国に仕えるからこそ出来る事もあれば、国に縛られるからこそ目を背けねばならない事もある。だから、ギルドという国境に縛られる事のない組織があるのだ、と……。


 

 その後、通信を終えたハイランドが合流し、シルバたち一行は詰め所で用意されたベッドへと向かった。そして、夜が明けて朝日が昇る。


 起き出した一行は、残るもう一つの迷宮へと出発した。道中はやはり、はぐれ魔獣の数が多く、度々戦闘が発生した。だが、一行は苦戦するはずもなく、容易に「小鬼の巣窟」へと到達していた。


「迷宮周辺には……敵影無し、か」


 「大鬼の巣窟」の時とは違い、ゴブリンが迷宮周辺を埋め尽くしているような事はなかった。そして、そのまま迷宮内に突入するも、予想以上に抵抗が緩い。


「あれ? 王都近郊の『小鬼の巣窟』より、敵の数が少ないのです?」


 第二陣が進発した影響か、迷宮内の魔獣の質も量も、大氾濫中とは思えないほどに低く少ない。なので、勢いに乗った一行は、快進撃を続けていった。そして……。


「やっぱ、ここにもありやがったな」

「ええ。封鎖跡も……三度目ともなると、慣れてしまいましたね」

「ですが、油断は禁物ですわ。またあの……魔人が居るやもしれませんからね」


 ジゼルの言葉に全員が頷き、休憩を挟む。軽い食事を済ませた一行は、再び迷宮を進んで行った。ハイゴブリン率いる敵集団が増えてくるが、その歩みを妨げるほどの脅威とはならず、一行は迷宮最奥へと到着していた。そして、やはりあった大扉。戦闘態勢を整えた後、開扉すると……そこには――


「もぬけの殻? キングどころか……グレートもいやしねぇな。それに、ここは会議室っぽい造りか?」

「造りは置いておくとして……キングが生まれなかった? いえ、違いますね……」

「ええ。きっと、出撃したのですわ!」


 パーティリーダーとギルドマスターたちが、無人となった最奥への意見を述べた。そして、状況を整理しだす。


「俺たちは……ここに向かう途中、遭遇しなかったよな?」

「ええ。という事は、です……」

「北ですわね。怒王国と神聖国の戦場へ向かった線が濃厚でしょうか」


 東西いずれかという可能性もある。しかし、キング格の魔獣が居るとするならば、その目的は多くの神の子の抹殺。となれば、人間が多く集まる場所……戦場へと向かったと考えるのが妥当という事だ。


「じゃあ、どうします? 追いますか?」


 シルバが問い掛けた。それに返答をしたのは、リーダーのディンガではなくハイランドだった。


「追いません。いえ、追えません。我々が許可を得ているのは、大氾濫を起こした迷宮攻略(ダンジョンアタック)までですから」


 これ以上は、他支部の領域に踏み込めない。その判断をもとに、一行は帰還を開始した。念のため、大扉は完全に開け放っておいたが、キングの討伐が適わなかった以上、大氾濫が終息に向かう事は無いだろう。



 そして、一行が城壁へと帰還した頃――


 神聖国軍へと猛攻を続ける怒王国軍の側面と背面に、ゴブリンの大群が出現していた。そして、その指揮を執るのは……ゴブリンキング。攻め気に逸る怒王国軍に対し、ゴブリンたちの突撃が行われた。


 怒王国軍は総崩れ。多くの死傷者を出した事で、撤退を余儀なくされたのだった……。

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