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争乱の神人  作者: 富井トミー
第15話 憎悪に彩られる決戦
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078 sideC

 オーガキングの咆哮の直後、聞こえてきたのは……主様の怒声。それも、様々な負の感情が多分に含まれたものでした。


 私はオーガキングの様子を確認した後、主様へと視線を向かわせます。……どちらも危険な状況です。オーガキングは、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気。グレートオーガが残っている状況で、明らかに強化されているオーガキングの参戦は……メリサンドたちには荷が重いでしょう。ですが、主様の様子もどう考えてもおかしい。魔人との間になにがあったのかは分かりませんが、冷静さを欠いている事は明らか。なにより、主様らしさが……消え去っています。


 私は……どちらの戦場にいるべきでしょうか? 主様の望みは、大氾濫(オーバーフロー)の終結と仲間全員の生還。ならば、このままオーガの相手をするべきでしょう。ですが、明らかに様子のおかしい主様は、放っておいてはいけない気がします……。


 さて、どうすべきか。悩みに悩む私に、メリサンドが声を掛けます。


「シロ様、行って下さいなのです。こっちはなんとかするので、シルバさんを……いつものシルバさんに戻してあげて下さい!」


 そう、ですね……。負に染まる主様を放置するなんて、駄目ですね。主様に似合うのは、やはり正の感情。信頼や喜び、期待や希望。……すぐにでも、元に戻して差し上げないと!


「メリサンド……こちらを頼みますにゃ」

「はいなのです。シロ様も、シルバさんを頼むのです」


 ニャンと鳴いて頷き、私は主様のもとへと駆け出したのでした。


 主様のもとに辿り着くと、今まさに……主様が、魔人へと斬り掛かろうとしていました。……その身から、怒りや嫌悪、憎悪に拒絶。どす黒い感情を溢れ出しながら……。


「主様! 駄目ですにゃ! 負の心に染まるなんて……主様らしくないですにゃ!」


 主様の耳に届いているはずなのに、主様は一顧だにしません。代わりに返ってきたのは、魔人からの言葉でした。


「うるせえぞ、クソ分神様。安心しとけよ。こいつは、俺がしっかり止めてやるからな……。まあ、斬り伏せてだがな!」


 魔人の姿が見えなくなり、それと同時に……主様も動き出しました。そして、響き渡る衝突音。


 ガキィィンという耳障りな音と共に、魔人が再び姿を現しました。が、その顔はひどく歪んでいます。


「なんだよ、こいつ! さっきまでより……重い! 手加減してったってのか? 俺を相手に……?」


 焦りを見せる魔人に対し、主様は手を緩めません。激しい連撃を繰り出し、魔人が消える隙さえも与えません。そして――


「グゥッ! てめえ! 痛えじゃねえか!」


 遂に、主様の剣が魔人の身体を捉えました。袈裟斬りに一閃。相手がただの人間であったなら、致命傷だった事でしょう。ですが、魔人の身体からは……血の一滴すら、流れ出る事はありません。それに、動きが鈍るような事も無いようで、その後の主様の攻撃をなんとか捌き切りました。


 主様のラッシュに勢いがなくなってくると、魔人はこれ幸いと、姿を消してしまいます。ですが、今の主様は……無慈悲でした。


 私では捕捉出来ない、魔人が居るであろう場所に……無詠唱魔術の雨を降らせます。その魔術は、いずれもが中級以上の強力なものばかり。それらを、複数同時の多段発動です。形すら残さない。そんな、容赦のない攻撃を加えています……。


「主様! 充分ですにゃ! やりすぎですにゃ!」


 私の制止の声に、主様は……こちらを見る事無く答えます。


「いや、まだだ。魔人は……生きている」


 その主様の言葉通り、魔人が命からがらといった風に、爆心地のような場所から逃れ出てきました。すでに、姿を消す力も残っていないのか、私の目にも映る形で、です。そして、その姿はボロボロの一言。……勝負はついた。私はそう思っていました。


 ですが、主様は剣を握りしめたまま、満身創痍の魔人のもとへと歩み寄っていきます。明らかな殺意を抱きながら……。


 ――私は、主様の足に纏わり付きました! そして、こう言います。


「負に染まったまま、刃を振り下ろしてはいけません! 貴方様は……貴方様だけは……駄目なんです」


 懇願しました。これ以上は……いけない! 主様が主様である根源が、これ以上穢れる訳には……。


 ですが、主様は止まってくれません。とても冷め切った目で私を一瞥し、吐き捨てるように言います。


「シロ、どいて。こいつは……生かしておいちゃいけない奴だから」

「駄目です! 冷静になって下さい! このままでは、貴方様の神性が――」


 その時でした。この短時間で、周囲のマナを取り込んだ魔人は、高笑いと共に姿を消しました。


「アッハッハッハ! ありがとよ、クソ分神様! お陰で、力が戻ったぜ!」


 その声を聞いた主様は、私の身体を無理やりに剥がし、魔人が居たであろう場所へ駆け寄りました。ですが……。


「クソ! 逃がした!」


 普段の主様ならあり得ないような、険しい表情と汚い言葉。そして、そんな主様をあざ笑うかのように、魔人の声が聞こえてきます。


「お前を消せなかったが……収穫はあった。お前、随分穢れたな! じゃあな、堕ちた■■■クソ■」

「どこだ! どこにいる? 姿を……現せ!」


 今度こそ、魔人は逃げ去ったようです。辺りを見回す主様も、悔し気な表情を浮かべながら諦めたようでした。


 そんな主様に、私は問い掛けます。何故、このような事になってしまったのかを……。


「主様、魔人に……なにを言われたのですか?」

「……色々と。そうしたらさ、なんか……色々な感情が込み上げてきて」


 いまいち判然としない答えに、私は首を傾げてしまいます。ですが、魔人側の計略だったであろう事だけは、理解してしまいます。あの捨て台詞(ぜりふ)的にも、それは間違いないでしょう。だって、主様が……あのオーガキングのように、憎悪に囚われるなんて事……。


 って、忘れていました! 戦闘が終わった雰囲気を醸し出してしまいましたが、まだ敵は残っています。


 はっとして振り返ると、数匹のグレートオーガと共に、あのオーガキングが……メリサンドたちに猛攻を仕掛けていました。すぐにでも加勢に向かわなければ、誰かしらの命が失われる……そんな劣勢を強いられています。


「主様。正気に戻られましたか?」

「えっ、ああ……。さっきまでのどす黒い感情は、すっかり消え去ってくれたよ」

「では、加勢に向かいますにゃ!」

「あ、ああ! そうだね! この戦闘を終わらせないと」


 そう答えた主様からは、本当に……あれほど溢れていた負の感情が、綺麗さっぱり消えているようでした。


 一体、なんだったのか。どのような手段を用いれば、このような事が可能なのか。……神の持つ知識を以てしても、答えは見当たりません。ですが、確実に言える事は……主様が狙われているという事。それも、正体を知った上で狙ってきているという事でしょう。■■■■と、制約に引っ掛かった発言をしたくらいですから。


 それにしても、あの魔人……なかなかの食わせ者です。主様の正体を知りながら、ただの神人のように扱い、殺せぬ事が分かっていながら、殺そうと襲い掛かっているのですから……。


 今回は完敗です。悔しいですが……管理者なる者と魔人は、目的を果たしました。分神とはいえ、神である私の前で……主様の御心を穢したのですから。ですが、次は許しません。必ずや、主様の神性は護り抜いて見せます!



 こうして、魔人との初遭遇は……芳しくない結果に終わりました。ですが、この決戦はまだ終わっていません。憎悪に彩られた決戦は、憎悪に染まるオーガキングを打ち倒すまで、終われませんから。

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